よろしくお願いします
暫く魔王城でが厄介になることになった。
さっきの部屋を使ってもいいらしい。
「部屋もあまってるしね」
とのことだ。
人間らしい、と言っても今は魔族なんだけど、そんな生活も久しぶりだ。
いや、自由な生活なんて生まれて初めてかもしれない。生まれ変わってるんだから生まれて初めてなんだけど。
「困ったらそのメイドに頼んでね。落ち着くまで君につかせるから」
との事で、さっきのメイドさんにそのままお世話になる。
「シュナと申します。改めて、よろしくお願いいたします」
シュナさんと言うらしい。
最初の笑顔で安心してしまっている。よかった。
と言うわけで、とりあえず部屋に戻ってきた。
最初は不便も多いだろうし、との事でシュナさんも一緒にいてくれている。助かる。
現況を把握した所で新たな不安がよぎる。
思わずシュナさんにぶつけてみた。
少し慣れてきたのだろう。
「私ってもともと敵国の兵士みたいなことしてたんですけど大丈夫ですか?」
こんな聞き方しても大丈夫としか言えないよね。
聞いてから失敗した、と思った。
しかし、
「そうですね。魔王領でも〝聖女オリヴィア〟の評判は良くありませんでした。兵士と言うより兵器。魔族の兵士も恐れていました」
まぁ、そうだよね。
いかに殆ど操られていたとは言っても評判はよくないよね。
「それもこれまでの話。〝聖女オリヴィアは処刑された〟この報はこの国でも取り上げられました。少し安堵に似た空気もあったと思います」
「こうして話してみるとオリヴィア様にも何かご事情があったのかとも思います」
「恐らく魔王様も分かってらっしゃると思いますよ。あの方は生前から訳知り顔でしたけど」
「ご安心ください。魔族は魔族を拒みません」
再び笑顔。
それにはっきり言ってくれて嬉しい。
ついつい甘えてしまったな。
いつまでも客人ってわけにもいかないし、なにかの形で返さないとな。
「魔草のケーキです。魔力の強い方向けですが、オリヴィア様なら大丈夫かと思いまして」
至れりつくせりで申し訳ない。
真っ赤なケーキ。食べ物の見た目は人間の物と違うな。そのうち慣れるか。なにより、人並みの食事は久しい。
ありがとうございます、と一礼し、一口頬張る。
「美味しい」
思わず口に出る。
芳醇でありながら甘すぎない。ついつい口に運んでしまう。
思わず涙が溢れる。
1人の人として扱って貰えたのはいつぶりだろう、
「オリヴィア様も辛かったのですね」
シュナが何も言わずに頭を撫でてくれる。
ありがとうも、嗚咽で言葉にならない。
それでも無言でそばにいてくれている。
「シュナさん」
「シュナで構いません」
「シュナ、お願いがあるの」
「はい、何でしょう」
「私もオリヴィアがいいです」
「はい、かしこまりました。オリヴィア」
久しぶりの人の温もりに、
もう少しだけ甘えていたい。