北の方で
「おーい、誰か酒もってこい」
あー、だりぃ。
何をするにも億劫で酒すら辛うじて飲んでる。
空瓶を雑に投げ捨てる。
瓶以外が割れた気もするが面倒で確認もしない。
いつもの事だ。
「カシラ、誰が掃除すると思ってんですか」
「しらねぇよ。俺以外の誰かだ」
掃除なんてのはくだらん時間潰しだ。
どうせ汚れるにも関わらず一旦綺麗にする、と言う気の触れた行為だ。
第一、俺は忙しい。
忙し過ぎて悩み過ぎて、逃げる為に酒を飲むのだ。
究極の所、酒を飲むのに忙しい。
「へいへい。剣握った時の一割でもしゃんとしてくれりゃあね」
「聞こえてるぞー」
「聞こえるように言ったんですよ。全く」
「なぁ。それより酒」
「昼の日中から酒ばっかり…一応、この国の首管なんだからしっかりしてくだせぇ」
なんだよ。盗賊と変わらない暮らしをしてた頃は皆んなで飲んだら騒いだり、時間なんて関係なかったってぇのに。
少し所帯が大きくなったと思ったらこれだ。
案外、人間なんて簡単に変わっちまうもんだな。
「俺はしっかりしてるぞ。だが平和過ぎる世の中が悪ぃんだ」
「そろそろ傭兵稼業以外にも手ぇださねぇと国としてなり行かねぇですよ」
んなこたぁ分かってる。だが、こう言う時分に限って仕事が入るから戦仕事はやめられない。
上手いことなってんな、世の中ってのは。
「まぁでもよ。そろそろ仕事になるだろ。ザルバニア周りがゴタついてるんだろ?」
「どうですかね。今回は魔族絡みらしいですからこっちの出番があるかどうか…」
「魔族絡みなら寧ろ、だろ。補償だ何だが必要な自国の兵隊使うより、安金で買える弾使った方が良いと考えるもんさ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんさ。うちは特に安いしな」
「全くです。『勇者』と『槍聖』が他所の雑魚と同じ価格たぁ、イカれてますな」
そう言うなよ。
安い仕事ばっかり受けちまってここまで来たんだから、今更交渉なんかも面倒だ。
鉄火場の数も段違いだしな。
「頭目、ザルバニアから書簡です」
ほうら、おいでなすった。
槍聖様もよんどくかね。
「おい。イズルハは何してる?」
「貧民街で町民の様子見だそうです。仕事してますよ仕事」
…俺も剣でも磨いておくか。