私、魔族のオリヴィアです
目が覚める。目が覚める?私はたしか処刑をされたはずだ。胸を貫いた痛みも群集からの罵詈雑言も覚えている。それにここは何処?見知らぬベッドに横になっている。
部屋はどことなく高貴な感じがするし、なにより頭がやたらスッキリしている。
ぼんやりとしていると突然扉がノックされた。
誰、というか何というか。
「はい」
おそるおそる返事をすると見知らぬメイドが入ってきた。年はそれ程変わらなそうだが大人びた見た目に、短めのブランド。強く優しそうな青い瞳をしている。
「お目覚めですね。オリヴィア様。お召し物を用意致しました。そして、我が主人がお待ちです」
「あの主人って誰ですか?というか私、死んだ筈じゃ」
思い返すと疑問が山ほどでてくるが、メイドはそれを見透かすように、
「主人にお会い頂ければ分かるかとおもいます」
彼女の微笑みに少し安堵し、
「わかりました。すぐ着替えるのでちょっと待ってて頂けますか」
服を受け取る。しかしこの服も見慣れぬ意匠をしている。だが何処かで見たことある気も…
まぁ考えても仕方ないか。
とりあえず主人さんとやらに会ってみないと。
見知らぬ寝巻きから着替えて、廊下で待つであろう彼女の元へと急ぐ。
「お待たせしました」
「いえ。では参りましょう」
よくわからないけど…
「はい!」
とりあえずメイドさんについて行く。
それにしても、目覚めた部屋は高貴そうな雰囲気はあるものの何処か薄暗い印象を感じた。
この建物も同じだし、さらに意外と広い建物だなぁ。
「こちらです」
メイドさんは一際おおきな扉の前で立ち止まり、
「オリヴィア様をお連れいたしました」
なんだか緊張してきた。
王族への謁見や貴族との会食はたまた魔族や敵国との戦争、色んな種類の緊張を味わってきたけどその誰とも違う。
開く扉。
引きずるような耳につく嫌な音。
それすら気にならない緊張。
「やぁいらっしゃい。突然悪かったね」
私を見てこともなげに話す。
馴染みの旧友のように。
幾度も死線を超えた戦友のように。
「紅茶がいいかな?それとも珈琲?」
あなた…いや、コイツは!
「魔王グレイスタシア!!」
思わず声を吐く。
「お?私ってもしかして有名人?」
なんて魔力。いや、もはや毒。
悪戯めいてカラカラ笑うその目に、全ての意識を奪われそうになる。
今まで何度か戦場で見えた。
聖女オリヴィアの敵として。
追い詰めた事もあったし、その逆もあった。
思わずその情景を思い出し、拳に力が入る。
「まぁまぁ落ち着いてよ」
変わらず笑顔で珈琲を差し出してくる。
息が荒くなる。
意思とは関係なく魔法を放ちそうになる。
「敵対する理由は、もうない筈だよ?」
何故だ。
「オリヴィアは処刑されたんだろ?」
そんな哀れみの視線を向けるな。
「君は今、魔族に生まれ変わっている」