第82話 司祭
「ぐああ!」
「がぁっ!?」
内部にいる者達を、容赦なく串刺しにして進む。
私の持つ能力。
影を操る能力は優秀な力だと、真央様にも認められている自慢のギフトだ。
この能力は影を操って攻撃するだけではなく、そこに潜って姿を潜ませて移動する事が可能だった。
視認出来てしまうため一度バレると隠密性は失われてしまうが、的となる自身の体を平面に落とし込めるので防御面でも優れている。
雑魚には目もくれず、私は建物の中央部分を目指す。
そこに儀式の間――幼い子供達から脳を取り出す処刑場――があるはず。
場所が分かるのは、宗教被れの奴らが常に同じ構造の建物を使っている為だ。
お陰で内部構造を調べる手間が省けている。
「何者だ!」
大扉を破壊し内部へと素早く侵入する。
薄暗い空間では私の操る影は見つけづらい。
男達は私を見つけられずに右往左往する。
――子供達は無事だ。
通路や内部には死体を詰めた袋が転がっておらず、男達に囲まれて怯える子供達の姿があった。
案内人の中村から前日に襲われた村があると聞いていたが、どうやらギリギリ間に合った様だ。
私はまず、子供達の周りにいる男達を始末する。
後回しにすると人質に使われてしまうからだ。
――必要ならば、最悪子供ごと殺す事を私は厭わない。
真央様から下された命令を実行する為なら、どんな犠牲も払うつもりだ。
とはいえ、避けられる物なら避けた方がいいに決まっている
「ぐわぁっ!」
素早く銃を手にした男達を始末し、影から飛び出す。
見えないまま子供達に声をかけると、パニックを起こしかねないと思ったからだ。
まあ影の中から飛び出すのも大概あれだと思わなくもないが。
「もう大丈夫よ!貴方達は壁際に寄っておいて。悪い奴はお姉さんがやっつけてあげるから」
幸い子供達はパニックを起こさず私の指示に従ってくれる。
隅々まで処理した訳ではないので、出口から外に逃げ出したら討ち漏らした相手に捕まる危険性がある。
部屋の隅で固まっていた方が安全だ。
「貴様……荒木真央の手の物か」
ローブの男が私を睨みつける。
この男がここのリーダー。
司祭と呼ばれる立場の者だ。
「真央様はご立腹よ。御自身の王国で好き放題してくれている貴方達にね」
「愚かな。我らが神の降臨のための実験場になる事を名誉に思うのならともかく、その邪魔をしようとは。救いがたい愚王よな。荒木真央は」
「愚か者はお前だ!死ね!」
真央様からは捕らえろとは言われていない。
情報源にしたい所ではあるが、こいつらは直ぐに自爆してしまうのでそれが難しいからだ。
「無駄だ!」
男が私の針をバリアの様な物ではじき返す。
どうやら配下が始末されている間に魔法を使った様だ。
鋼鉄すら容易く貫く私の攻撃を防いだ事から、目の前の男はこれまで始末して来た雑魚達とはレベルが違う事が分かる。
こいつは油断できない。
「ふん。貴様の様な小娘には勿体ないが、神から授かった力を見せてやろう。圧倒的な力をな!」
男が懐から黒い球を取り出す。
私はそれを知っている。
初めて真央様と出会った日、あの方に歯向かった愚か者が使った物だ。
「使わせないわ!」
使われると厄介だ。
影を使ってバリアを攻撃する。
一撃目で罅が。
次いで二撃目でバリアが砕け散る。
そして三撃目が奴の体を貫いた。
だが――
「ぐおおおぉぉぉぉぉ!!」
間に合わなかった。
串刺しになった司祭の体が膨れ上がり、刺さった影はへし折られる。
――その姿が巨大なドラゴンへと変わっていく。
「くっ……」
かつて真央様はこの化け物を一撃で始末している。
だがそれはドラゴンが弱いのではなく、真央様が桁違いに強すぎたからに他ならない。
私は真央様の元で厳しい修練を続け、この6年で以前とは桁違いの力を身に着けている。
だが、それでもこいつに勝てるかは厳しい所だ。
「ふむ、恵子。あのポンコツを連れてゆくがよい」
真央様の言葉を思い出す。
王喜の同行は、直前で真央様が決めた事だった。
ひょっとしたら、あの方はこの事態を見抜いていたのかもしれない。
そのお心遣いには感謝しかない。
だが、アレの力を借りるのは流石にプライドが傷つく。
「かかって来なさい!」
こいつは――私が倒す!




