第36話 予選
「馬鹿な……終わった」
泰三が掲示板の前でがっくりと膝を付く。
そこには闘祭予選の対戦表が張り出されていた。
Cグループ一回戦第三試合。
原田泰三対鏡竜也、と。
岡部が落ち込む泰三の肩に手を置き、痛まし気な表情を作る。
夜間の手解きで、二人は俺の実力をある程度把握していた。
その為、俺と当る事がそこで試合終了である事を理解しているのだ。
「まああれだ、泰三。次回頑張れ」
奴には可哀そうだが、この大会では金剛と荒木の二人と戦う約束をしているからな。
泰三に負けてやるわけには行かない。
もっとも、約束が無くてもぼこぼこにはするけど。
「くぅぅ……竜也!もう俺に勝った気か!?確かに体術では話にならないが!俺には炎を操るギフトがある!!」
「それは知ってる。その上で、イエスとだけ答えておこう」
泰三のギフトは強力な部類であり、パワーもそこそこある。
が、その程度で圧倒的な実力差を覆せると思ったら大間違いだ。
「むぐぐ」
泰三は上半身を仰け反らせ、不細工な顔を更に不細工に歪めて憎々し気に睨んで来た。
そんな顔をしても無駄だ。
俺は友として、奴に世の中の厳しさを刻み込むのみ。
その敗北が奴を強くすると信じて!
そしてここまで上がってこい!
泰三!
「こんちくしょう!」
泰三が駆けていく。
「青春だねぇ」
空条がその背中をうんうんと頷きながら見ていた。
まあ確かに青春と言えなくもないが……
「鏡っち!あたし達は出ないけど、応援するから頑張ってね!」
俺達の中で大会に出場するのは俺と泰三と岡部の3人だけだ。
ラビットイヤーや透視、飛行なんかは戦闘向きでは無いので仕方がないだろう。
「理沙は結局出ないんだな」
理沙のギフトは、動物と心を通わせるという物だ。
だが彼女の能力はそれだけに留まらず、その発展型として心を通わせた対象をプラーナで強化したり、更にはその性質を取り込んで自身で戦う事も出来た。
実は以前ちょろっとだけそれを見せて貰った事があるが、その強さは泰三や岡部などとは比べ物にならないレベルだった。
恐らくあの二人じゃ、二対一でも敵わないだろう。
それ位彼女は強い。
動物を使った諜報能力に加え、高い戦闘能力。
風紀委員になっていれば、今頃きっと大活躍していた事だろう。
そう考えると、四条はどうしようもない底なしのあほではあったが、人を見る目だけはあった様だ。
「シロは子供の世話で忙しいからね」
理沙が試合に出るのなら、その相方は当然狼のシロになる。
だがまだ子供は手のかかるやんちゃ盛りだ。
それを引き剥がして戦闘に参加させるのは、確かにあれか。
「そっか、そりゃそうだな。一度理沙と手合わせしてみたかったんだけど、残念」
「何言ってんだよ。私と竜也とじゃ、勝負にならないだろ」
「そうだな。負ける気は全然しない。けど、俺は理沙と手合わせしてみたいって本気で思ってはいるよ」
俺と理沙の間には、まあ確かに大きな実力差がある。
だが特殊な戦闘スタイルを持つ相手との勝負は、俺にとっていい経験になるだろう。
だから手合わせしたいというのは決して嘘では無かった。
「な、なんだそりゃ。ま、まあどうしてもっていうなら……いつかまあ、そのなんだ。子狼達が大きくなったら……か、考えといてやるよ」
理沙は何だかうつむき気味にもじもじすると、駆け足でどこかに行ってしまった。
ひょっとしたら、俺との手合わせの為に今から訓練を始めるつもりなのかもしれない。
だとしたら、油断出来ないな。
「理沙の奴、やる気満々だな。俺もうかうかしてられない」
泰三と岡部だってそうだ。
まだまだ俺の敵ではないとはいえ、この一月ちょっとで二人は見違える程に腕を上げている。
半年後には、ライバルとして俺の前に立ちはだかって来てもおかしくはない。
今の自分に胡坐をかくつもりはないが、いつまでもアドバンテージがあると考えるのは愚かな事だ。
俺も常に上を目指し続けないと。
「絶対何か勘違いしてると思うけど?」
「ん?何が?」
委員長の言葉に俺は首をかしげる。
今の流れで、何か勘違いする事などあっただろうか?
「わざと……じゃないわよね?だとしたら、あの子も随分苦労する事になりそうね」
「だから何が?」
委員長はジト目で此方を少し見た後、無言で行ってしまう。
なんなんだ一体?
ま、気にしてもしょうがない。
俺も明日の予選に備えて、とっとと訓練に励むとしよう。
「んじゃ、俺も寮に帰るわ。ああ、そうそう。今日の訓練はなしな。泰三にも言っておいてくれ」
「ああ、わかった」
別にやってもいいんだが、明日の試合に響いたら事だからな。
負け確と言っても、泰三だって全力で頑張りたいだろうし。
予選結果
鏡竜也・本選出場。
原田泰三・一回戦敗退。
岡部太郎・三回戦敗退。
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