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振られました。

作者: Velem

生きていればこんな経験あると思う。でもいつまでも下を向いていることはないと思う。周りをよく見れば誰かは味方になってくれるはずだから。

 私には人生を捧げてもいいと思えるほどに愛を抱いていた相手がいます。


 付き合って一か月というあまりにも短い時間。しかし十分すぎるほどに私は幸せだった。ただ漠然と、こんな幸せがずっと続くと疑いもせずに感じていた。


 それが大きな間違いだった。




 ーーーそう、彼女と私は別れたのだ。




 どうしてそうなる。私の何がいけなかったのだというのだ。もし気に食わないところがあったというならすぐにでも直そう。キミが望むなら私は何物にもなろう。だって私にはキミがすべてなのだから。


 しかし彼女はただ一言、あなたを信用しきれない私が悪いの。と言って私のもとを去っていった。


 何を言うかと思えば、キミが自分自身を責める必要などどこにもない。悪いのは私だ。私なのだ。キミの信用を勝ち得るほどの努力をせず、私の独占欲のためだけに君を束縛していた私の責任だ。だからそんな悲しい顔をしないでおくれ。涙を流さないでおくれ。キミ自身を責めないでおくれ。恨むなら私だけを恨んでくれ。


 私が何を言ったところでもうそこにいないキミは私の問いかけに振り向きもしないし、返事もしない。ぽっかりと心に穴が開くとはよく言ったもので、実際に体験するとその言葉の意味がよくわかる。本当にまるで穴が開いたかのように虚空が生まれるのだ。人はそれを「孤独」と呼ぶのだろう。


 ただ、私もいつまでも立ち止まっているわけにはいかないということくらいは理解しているつもりだ。失敗は誰にでもある。特に初心者ともなれば当然失敗はつきものだ。ただ衝撃が大きいだけの失敗、良い経験になったと思えば悪くはないはずだ。彼女だって、私なんかがまとわりついて気持ち悪かったのかもしれない。うざかったのかもしれない。本当に申し訳なかったと思う。もしかしたら新しい出会いを見つけたのかもしれない。だから私は用済みになったのかもしれない。ははっ、何とも単純なことではないか。とどのつまり私はどこまで行ってもいい人どまりなんだということか。


 高校の頃もそうだった。結局彼女のかの字も出てきはしなかった。当たり前と言っては当たり前で、何しろ工業高校出身だから男女比が九対一くらいのものなのだ。女子と仲がいいのはグループの中でもムードメイカーの生徒たちだ。しょせんモブキャラの私たちに彼女なんて存在は高望みというものだったのだと痛感させられた。


 悲しいものだ。嘆かわしいことだ。この年になってまで世の女性とまともに会話したこともないなんて。合コンなんて話もなかったわけではない。しかし、合コンは今時非効率的なうえに、無駄に費用が掛かる。結局私なんて陽キャの男たちからしてみれば自らをたたせるための一道具としか思っていないのだろう。


 私は今回大きな失敗をしたと思う。少ないチャンスを棒に振ったのだ。これを失敗といわずなんというのか。わかっている。重要なのは切り替えだ。この先もっといい女性と巡り合うかもしれないのだ。その時をまた待とう。一人寂しく部屋の隅で丸まっていよう。誰かが手を差し伸べてくれるその時まで……。


 「なんてひどい顔…。」


 鏡に映る私の顔は、今まで見てきた顔のどれよりもひどかったと思う。


 「くそっ… 、なんでなんだよぉ…」


 大事なのは切り替えだ。先ほども言い訳したがこれもよい経験だったのだ。今後の糧として私の中で生き続けるだろう。またいつか大きな恋愛という波の中で役立つときがあるはずだ。だから前を向こう、後ろには後悔しかない。ただ前を見つめ続けよう。なぜなら未来はいくらでもい可能性があるのだから。


 なのになんでだろうなぁ。鏡に映る自分が、視界のすべてが歪んでいくのは。目の奥からこらえきれない熱いものがあふれてくるのは。止めたくても止まらなくて、涙の一滴を拭ってくれる相手もいなくて、寂しさと心の虚空がひたすらに痛く感じる。私という存在を小さく見せる。愚かで、阿保な圧倒的弱者。


 しばらくは立ち直れそうにないな。やらなくてはならないことがたくさん残っているというのに困ったものだ。だが許されるのなら、しばらくはこのままでいさせてほいしい。そうすればいつもの、ひたすらに楽観的な”ただ優しいだけの人”になれるから。




 ーーー…私は、惨めだ。




 時は過ぎて、一年後。


 私は大学を出て、社会人になった。


 社会の厳しさは教授たちや周りの大人たちがさんざんっぱら勧告していた。が、それ以上の苛烈さを感じる。ただ忙しいからか、あまり彼女のことを思い出すことがなくなった。正直に言うと気が楽になった。何かあるたびに彼女のことを考えていた当時は、ひたすらにどうかしていたと思える。


 毎日が失敗の連続で、上司にダメ出しをくらい、挙句無能の烙印を押されお先真っ暗で私自身の価値を見失いそうになる中で、唯一彼女の存在だけはいつまでも私の中で光り輝いていた。


 キミは今頃どこで何をしているのだろうか。願わくば、キミの幸せを祈っています。私の幸せは君が最も幸福に案れる場所を見つけられることだから。


 今はただそのことだけを思う。


 「この先の君の長い長い人生において過多なる幸福で満たされますように」


 高層ビルの屋上から落ち行く私が見た景色は今まで見てきたどんな景色よりも美しく輝いて見えた。私の頬を撫で行く風があらんかぎり祝福をしてくれる。私はこの時初めて満たされた気分になった。




 ーーーただ最後にキミの笑顔を見たかった。




 固いアスファルトの地面を間近に感じながら私の閉じ行く短き人生が終わりを迎えた。

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