結構な修羅場に遭遇してしまいました……
父親との様子を見る限り、ガーラは上手くやっているようだ。
「元気そうで良かったよ」
「ああ、もしかしてそれで来たの?」
「うん、そうだよ」
「僕はアウダーさんとはあまり話したことがないからね。リアがお世話になっているから、交流関係を築きたくて」
「とか言って、本当はボクのことが好きだったり?」
ガーラが悪戯に笑いながらお兄様にそう言うが、お兄様はそれはそれは爽やかな笑顔で
「それは断じてありえませんので安心してください」
と、ばっさり言い切った。
「はい、安心します」
ガーラも負けじと爽やかな笑顔。
「それで、チコはどうしてガーラの家に?」
「チコ、最近ボクの家に押しかけては勉強させてくるんだよ」
なんだ、良いことではないか。
「良いことじゃん。何がダメなの?」
「ほぼ毎日来られたら、学園で授業受けるのと変わらないじゃん」
「ガーラがちゃんと勉強してないのが悪いんでしょう。まだ宿題に一切手をつけていないとか信じられない」
宿題に、一切……? あの前世の宿題の量とは比べものにならない量の宿題を?
「アウダーさん、夏休みの宿題は今から真剣に取り組まないと、テスト勉強にまで手が回りませんよ。何人もの生徒が落第して涙を流してきたのを見ています。夏休み明けが第一の山と言っても過言ではありません」
「ほら、カーター様もこう言ってるじゃん! そろそろ真面目に取り組んで!」
「いやーでもさ、実感湧かないし」
「このままではチコ様とのペアも解消されますよ」
流石のガーラもこれには何も言えないみたいだ。
「……別に、チコがまたボクのテスト結果に近づけてくれればそれでいいじゃん」
「ガーラ、一体何を言ってるの? あたしそんなことしてないよ」
「あのさチコ、しらばっくれてもマードリアはともかく、ボクには意味ないよ。ボク、こう見えて人の変化に気づくのは得意な方だから。合わせてくれたんでしょう?」
私ならともかく……。
「ち!」
「神に誓って?」
「──がわない、けど……。あたしはさ、これでも公爵家の令嬢なんだよ。優秀じゃないと居場所が無くなるの。自由になれなくなるの。だから、また成績が酷くなったら、今度こそ見放される。それに──」
「それに?」
ガーラ、そこまで聞いてそれを言ったら本当にチコを怒らせるよ!
どうして人間観察は得意なくせに人の気持ちを考えるのは苦手なの!
「あ、あーえーっと、ガーラ、勉強しよう! ガーラもチコと離れるのは嫌でしょ!」
「別に。たしかに、どちらかといえばチコと一緒のままの方がいいけど、運命には抗えない──」
「アウダーさん!」
突然お兄様が大きな声を出す。あまりにも突然だったので、私まで体が反応してしまった。
「本来、平民は貴族に口答えをするだけでなく、対等に話なんて出来ないのです。だけど、リアやチコ様が許しているから、君は友人の貴族を呼び捨てにできるし、敬語で話さなくてもいい。
君は甘えすぎだ。何も言われないからって、自由にしていいことではない。
さっき自分で言っていたではないですか。人の変化に気づくのが得意だって。なのになぜ、相手の気持ちを考えてあげないのですか!
チコ様がどうして、何度も何度もわざわざアウダー家に足を運んで、勉強をさせようとしているのか分からないのですか?
正直に言いますが、今のアウダーさんのままならば、僕はリアに君との友好関係を制限してほしいところです。
しっかりと自分を見つめ直してください」
ど、どうにかしないと。
「あ、あのねガーラ、そういうことだからチコの気持ちも──」
「いいよ、別に。人に言われてからじゃ意味ないよ。さようなら。それとマードリア、今日……しばらくは、あたしの家には来ないで。ごめんね」
チコはそのまま本当に帰ってしまった。
お兄様の声が外まで聞こえていたのだろう、一瞬見えたガーラのお父さんの顔は青くなっていた。
「ガーラ」
「…………」
私はため息を一つつくと、お兄様の方を見る。
「お兄様、このような事態になってしまい申し訳ありません。私のわがままではありますが、先に馬車に向かっていただいてもよろしいでしょうか?」
お兄様は何も言わずに立ち上がる。
「急がなくていいからね」
私の頭を一撫ですると、そのまま外に出ていった。
次話 本日中
喧嘩回やりたかったんですよ……