剣の特訓です!
パタンと本が重い音をたてて閉じる。
「はあ、これも良かった。敵国の女騎士との恋かぁ」
この世界には、現代にはなかった感じの百合が溢れていて、これまた新鮮だ。
「チコこれ読んでるかな? 語りたいな〜。特に裏切りの部分とか」
敵国の王女を守る為、自身を犠牲にして自国を裏切る。
ありきたりっちゃありきたりだけど、やっぱりいい。
文字だけでも伝わる、剣で元仲間を倒していく悲しみと決意は何ものにも言い表せない。
「剣術か……。そういえば、私はまだしっかり学んでいない気がする」
この本を見ると、あまり平和ボケするのは良くない気がする。
「教えてもらおう」
私はお兄様の自室──
「リアー!」
に向かうことなく、お兄様に会えた。
「あの、お兄様」
「うん、なんだい?」
見える。私には見える。大きな尻尾をブンブンと振って、少し口を開けて嬉しそうにこちらを見る犬の姿が。
「あの、お願いがあるのです。私に剣術を教えてください!」
「……うん、そうだね。やっぱりそろそろ学んだ方がいいか。よし、おいで。僕がちゃんと教えるよ」
あれ? 止められるかと思った。ま、すぐに教えてもらえるしいっか。
まずは革鎧と木剣を渡された。
盾も使うと思ったけど、違うんだ。
「まずは全力で僕に斬りかかってごらん」
「はい」
お兄様に向かって走り、剣を大きく振る。
しっかりお兄様を捉えたはずなのに、軽々と避けられてしまった。
「はい、もう一回。剣を僕に当てるまで続けて」
何度も何度も斬りかかるが、お兄様に当てることだけでなく、かすめることすらもできなかった。
そして、お兄様は木剣で私の木剣を打ち返すと、私の手からはすんなりと木剣が離れてしまった。
「色々と学んでいこうか。まず、剣の持ち方は合格だ。だから、基本的な戦い方だね」
「お願いします」
「まずリアは、剣を大きく振りすぎだ。もしこれが実戦ならば、リアの剣が相手に当たる前にリアが斬られてしまう。確かに、大きく振ればその分力は出る。だが、使うのは相手が倒れた時や、怪我とかで上手く動けない時だけ。分かったね」
「はい」
「それと、相手の動きもよく見る。相手も人間や魔物だ、動くのが当たり前。剣をかわされたら目と共に体も動かす。いっぺんにやっても分からないだろうし、少しずつ身につけていこう」
「はい」
「それじゃあまずは基本中の基本の素振りから。しっかりと剣を動かせないのなら、体も上手く使えない。僕がやるからそれを真似て」
お兄様は木剣を片手で振る。
私も同じように振るが、ダメ出しをされる。
「腕だけを動かすんじゃなくて、しっかりと体全体を使って」
「はい」
だが、素振りも結構難しく、お兄様から合格はいただけなかった。
「よし、今日はここまで。次は三日後にやろうね」
「明日はやらないのですか?」
「筋肉痛になっているだろうからね。体に無理をさせて特訓をしても意味がないから。明日、明後日はゆっくりと休みなさい」
「分かりました、ありがとうございます、お兄様」
私は汗を流してお風呂に入る。運動後の入浴は特別気持ちのいいものだ。
次話 2月25日