洞窟、再び!
少し気になって外をみると、あたりはもう真っ暗になっていた。
どれくらいの時間が経ったのかは分からない。
時間が分からないのは少々不安要素だが、今大事なのはリリーが生きている。ただそれだけだ。
「マードリア様、そろそろ到着されます」
「今って何時くらいなの?」
「既に日付を越しています」
「そっか」
辛そうな顔のまま目を開けることのないリリーの顔を見る。
そんなに長い時間眠られていると、もう起きないのでは。と、嫌な考えが私を襲う。
「顔色がよくありませんが大丈夫ですか?」
「大丈夫。それに、私よりリリーだよ」
ほんの少しでも苦しみが和らいでほしくて頭を撫でる。
サラサラな髪、カーテンを開ければ月光に反射して映えそうな美しい銀色。
小さな顔に高くて綺麗な鼻筋。肌も美白で、赤ちゃんみたいに柔らかい。
まつ毛も長く、唇は少々厚くて色はピンク色。
三次元なのに二次元みたい。
「こんなにじっくり見ることってたぶん一生無いかもね」
早く起きて。そう願いながら、リリーをじっと見る。
「着きましたよ」
馬車から降りると、満点の星空が広がる。
こんなに綺麗な星空は初めてかもしれない。
「リリーと見れるといいな。それじゃあジェリー、行ってきます」
「灯りに従って気をつけてお進みください」
「うん。御者さんも、ここまでありがとうございました。休んでいただいて結構ですよ」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。お嬢様、お気をつけて」
私は二人に頭を下げ、洞窟内に入っていく。
五年前と同様、壁に備え付けられているランプだけが頼りだ。
「まさかここに二度も来るなんて思わなかったよ」
私は例の石扉を押す。
……しかし、一切開く気配がない。何度押しても、どれだけ力を込めようと開かない。
「もしかして」
一人じゃないと開けられない?
私は着ているローブを地面に敷き、その上にリリーを寝かせた。
そして、再度石扉を思いっきり押す。だが、全く開く気配がない。
「どうして……」
一人で押してるのに。……一人?
私の中にいるラミスも含まれるのであれば、確かに開かなくても納得がいく。
なら、ラミスには出てきてもらわないと。
そういうことだからラミス、出てきて。
──しかし、ラミスは一向に出てくる気配がない。
『我に宿りし精霊よ、汝の真なる姿を我の前に現したまえ』
詠唱をしても一切出てくる気配がない。というよりも、魔力を感じない。
「どうして……」
この先に行かなければリリーを助けられない。みんなの努力が無駄になる。
「どうすればいいの、どうすれば……」
今にも泣きそうになっていると、後ろから声がした。
「お困りですか、マードリア様」
「ジェリー……」
ジェリーは困り顔で微笑んだ。
「泣く必要はありませんよ、マードリア様。ですから、そちらの涙をおしまいください。マードリア様に涙は似合いませんから」
「でも、リリーを」
「大丈夫です。私にお任せください」
ジェリーが石扉を押すと、さっきまで開かなかったのが嘘のようにあっさりと開いた。
「どう、して」
「精霊を外に出してきたのです。さ、早く中へ」
「う、うん。ありがとうジェリー」
私はリリーを頑張ってお姫様抱っこして中に入れる。
お姫様抱っこのキツさは、背負うのとでは比べものにならなかった。
石扉が閉まると、部屋は青い光に飲み込まれる。
次話 本日中
今日中に終わります!……(たぶん)