役割分担です!
私とレンちゃんはある場所に向かう。
この学園で唯一、生徒が手紙以外で遠くの人と会話ができる手段がある場所に。
一際豪華な茶色い扉をノックする。
「一年、Sクラスのマードリア・フレーバです」
「同じく、レン・ストルです」
「どうぞ、お入りください」
許可がもらえたのでドアを開けて中に入る。
「どうしたのリア? 分からない問題とかあった?」
「いえ、お兄様にひとつお願いがあるのです」
「そっか、それじゃあ聞こうか。ひとまず二人とも、席に座って。ずっと立っているわけにはいかないしね」
お兄様に促され、私達は席につく。
お兄様はわざわざお茶とお菓子を用意してくれた。
「単刀直入に言いますと、ある魔道具を使わせて欲しいのです」
「なんの魔道具?」
「魔話水晶です」
お兄様は何も言わず、一口お茶を飲む。
「兄、カーター・フレーバとしてはリアの願いを叶えたい。だけど、生徒組織会長としては、理由を聞いて判断しなければならない」
お兄様はカップを置いてこちらを見る。
「理由を聞かせてくれないか?」
「友人を救いたいのです」
◇◆◇◆◇
なぜお兄様のところに私とレンちゃんがいるのか。
それは、役割分担のためだ。
「みんな、手伝って」
「具体的には何をすればいいのかしら?」
「まず、アイリーン様はリリーの側にいてください」
「呪いの本によると、リリーにかけられている呪いの効果の一つに、呪い保持者の周りが、対象に対して負の感情を持っている者しかいない場合、負の気持ちを増大させ、精神的、身体的負荷をかけるって書いてある。だから、アイリーンが側にいれば少なくともこの呪いはかからない」
ガーラはその呪いの内容が書いてあるページをアイリーン様に見せる。
「そういうことなら分かったわ」
「次に、フーリン様とコリー王子様、それにダミアは、この学園から精霊の洞窟までの地図を作ってほしいのと、どうやって内緒で馬車を用意すればいいのか考えてほしいです」
「おう」
「馬車は手紙以外で伝えたら?」
「それができたら苦労しませんよ」
今回もいつものやつだと思ったけど、違うみたい。
なぜなら、フーリン様が反応しているからだ。
「コーリーの言う通り、手紙以外の手段があります。生徒組織に魔話水晶があるみたいなんです」
魔話水晶はいわゆる電話のようなもの。
水晶に魔力を貯めれば貯めるほど、遠い場所との通話が可能となる。
ただ、魔力がなくなれば通話が切れるので、公衆電話に近い感じだ。
「なら、そこは私とレンちゃんで行きます。最後にチコとガーラ」
「はい」
私は二人を見据えて口を開く。
「チコはガーラの勉強を見てあげなさい」
二人は拍子抜けた表情をしている。
「というのは半分冗談で」
「半分……」
「顔を隠せるローブとかあると助かるんだけど、持ってる? 二枚」
「ローブ……。ガーラ持ってなかったっけ?」
「えー、どうだっけ……。あ、あったね、あの薄汚れたローブ」
「私もローブ持ってます」
「そのローブ借りていい?」
「うん(はい)」
二人の了承がもらえたので、とりあえずテスト前の準備の役割分担はこれで終了だ。
「よし、次の二人の出番はテスト後。うまく寮母さんの気を逸らして、私とリリーが外に出るのをバレないようにするのと、夜の見回りの時にうまく二人になりきること」
「え、なんかあたし達何気に一番負担大きくない?」
「ま、頑張って。一番最初に見回りに入るのが二人の部屋だから仕方ないよ」
「なんか気乗りしないけど、仕方ないか。失敗しても文句言わないでよ」
「怒られる時はみんな一緒だよ」
ガーラとチコはため息をついた。
「たしかにそうね、それくらいの覚悟は必要ね。それじゃあ各自そろそろ動き出すわよ。明日がテストということは、実質今日しか時間がないのだから」
「うん、そうだね。それじゃあ行こうレンちゃん。みんなもよろしくね」
そして、私達はお兄様の元へきたのだった。
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