まずは一旦様子見です
私達は場所を移し、裏庭にあるベンチで話し合うことにした。
「まず、ダミアが気づいたのはいつ?」
「一ヶ月前だ。それくらいに気づいた」
一ヶ月前となると、リリーにキスをされたあたりかな。意外と時間が経つのって早いな。
……って、今はそんな思い出に耽っている暇じゃない!
一ヵ月前は魔法実技が授業でできるようになったくらいだ。
そっか、魔法実技授業が始まれば、リリーの実力も露見する。
勉強だけでなく魔法も上手いとなると、嫉妬する人はたしかに出てくると思う。
いや、でもリリーは実力をそんなにひけらかしていない。なら、どうして? そもそもリリーを目の敵にする人なんて……クレア様。クレア様なら私達を目の敵にしているからありえる。リリーが優秀だってことは入学試験の時に広まっているから、少なからずその時点で嫉妬している人がいる。特に貴族なら。
そう考えると、クレア様が魔法実技授業後に、嫉妬している人に示唆したと考えてもおかしくはない。
でも、なぜか違和感が拭えない。
「──い、おい!」
「あ、ごめん、考え事してた。とりあえず今は様子見をするしかないよ。リリーにそれとなく聞いてみるし、信頼できる友人達にも相談してみる。ダミアもそうしたら?」
ダミアは口を開こうとしない。もしかしてだけど……
「友達いない?」
「悪いかよ」
「ううん。ただ、男子生徒の目も増やしたい。ダミアのペアはどう?」
「あいつは無理だ。何考えてるか分からないし」
「誰がペアなの?」
「コーリーなんたらだ」
コリー王子様か。そりゃ今まで学園を追放されなかったわけだ。
「なら大丈夫。ペアの人に伝言お願い、マードが手伝ってほしいって言ってるって伝えてくれればいいから」
「なんで俺が言わなきゃなんないんだよ」
「自覚していないみたいだから言うけど、ダミアは私に大きな借りがあるんだからね。あそこで庇ってなければ、あんた下手したら一生リリーとさよならだよ」
ダミアは罰が悪そうにしている。本当、リリー以外の人には失礼なんだから。
「分かったよ。んじゃ、俺は戻るわ、ご機嫌よう〜」
「はいはいご機嫌よう」
こんな雑な別れ、貴族になって初めてだ。
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさい」
「ねえマードリア! リリーすごい、めっちゃ分かりやすい!」
「おお〜さすがリリー。リリーはやっぱり優秀だね」
「いえ、たまたまです。ですが、ありがとうございます」
たぶん、聞くならここだと思う。
「こんなに優秀だと嫉妬とかされるんじゃない? 今まで何かあったりしてない?」
「……いえ、大丈夫です」
あ、この顔か。我慢を、嘘をついている顔。
すごいなダミア、こんな微妙な変化に気づくなんて。
「そっか、でも何かあったらなんでも言ってね。無理に背負ったりしたらダメだよ。人の心ほど、壊れた後直すのが難しいものはないんだから」
「本当に大丈夫です。どうしたんですか? ダミアに何か吹き込まれましたか?」
「いやいや、そんなんじゃないよ」
「マードリア様、その手首……」
レンちゃんが指す先を追うと、袖が少し落ちて、青くなった手首が見えている。
「ちょっと、何これ!」
「あの時のですか⁉︎ なぜ言ってくれなかったのですか! どうしてあの時医務室に行かなかったのですか!」
あーあ、バレちゃった。案外あっさりとバレちゃったな。
「見た目ほどひどくないから大丈夫。それとガーラ、リリー、レンちゃん、この事は絶対に誰にも言わないで。無駄に心配させちゃうし、ダミアがただじゃおかなくなっちゃう。せっかく私が処罰をなくしたのに、それが無駄になるから」
三人とも何も言わない。ガーラとレンちゃんは静かに頷く。しかし、リリーは何も反応を示さず、じっと私の手首を見ている。
「リリーもお願い。これは、リリーの為でもあるし、私の為でもあるから」
リリーは痣のあとを指で滑らせる。ほんの少しくすぐったい。
「分かりました。ですが、私を叱ってください。私がすぐに動けなかったことが原因でもありますので」
これまた難しい要望を。
私怒るのって苦手なんだよね。特に親しい人だと。
「今は訳あって休戦中なの。だから、それが終わってからでいい?」
「はい!」
なぜリリーは怒られるというのに、幸せそうに笑っているんだろう?
リリーには、まだ私が知りえぬことがたくさんあるみたいだ。
次話 本日中