まだお姉ちゃんが幸せな頃でした
ここは学園、つまり試験がある。もちろん入学試験もあり、なんとか二人と同じクラスになることができた。
そして、今も試験勉強をしているのだが、中々捗らない。
アイリーン様に好きと言われてからずっと、前世での出来事を思い返してしまう。
「レンちゃん、好きってなんだろうね」
「いきなりどうされたのですか?」
「……いや、やっぱりなんでもない」
「そうですか」
『好き』
このたった二文字で、人を喜ばせることも悲しませることもできることを、私は小学生で知ってしまった。
◇◆◇◆◇
あれは、私が小学六年生の時だった。
「凛花、明日俊哉が来るからゆうちゃんの家行ってもらっていい?」
「いいよ。でもどうして?」
「明日お父さんもお母さんもいないじゃん。だから二人っきりになりたいんだよ」
なぜ二人っきりになりたいのか、この頃は特に趣味もなかったので、私はその答えを知る術がなかった。
だけど、明日のことを嬉しそうに語るお姉ちゃんを見て、私は素直に従うことにした。
「分かった、ゆうちゃん家に行ってる」
「ありがとう、それでこそ我が妹だ!」
お姉ちゃんは私を抱き寄せて頭を乱雑に撫でる。だけど、乱雑なはずなのに愛が伝わってきた。
「それじゃあ行ってきます!」
「あ、待って凛花! これゆうちゃんに渡して」
お姉ちゃんからチョコレートのパックを受け取る。
「それじゃあお姉ちゃん、今度こそ行ってきます!」
「おう、行ってらっしゃい!」
歩いて十秒のゆうちゃん家のインターホンを鳴らすと、間髪入れずにゆうちゃんが家から出てくる。
どうやら玄関先で待機していたみたいだ。
「ゆうちゃん早いね」
「りーちゃんが家から出るところが部屋から見えたからね。上がって、今日親いないから自由だよ」
「奇遇だね、私の親も今日は二人とも仕事」
「大人は大変だねー」
「ねー。あとこれ、お姉ちゃんがゆうちゃんにって」
「ありがとう。って言ってもチョコレートだし、りーちゃんがほとんど食べるんだろうね」
「失礼な、ゆうちゃんが食べない分私が食べてるだけじゃん」
「そういうことにしといてあげる」
二階のゆうちゃんの部屋に着くと、さっそくゆうちゃんはゲームのコントローラーを渡してきた。
「今日こそゆうちゃんに勝つ!」
「それじゃあ今日も勝たせてもらうよ」
お互い真剣に画面を見つめる。ゲーム中に会話はない。ひたすらに相手を倒すため、試行錯誤を繰り返す。
「また負けた〜!」
「りーちゃんはアイテムを事あるごとに取ろうとするからだよ」
「だって、アイテムないとゆうちゃんに勝てないもん」
「あってもなくても負けてるじゃん」
そのドヤ顔で放たれる言葉には、私に小さな火をつける効果があった。
「それじゃあもう一戦! 今度こそ勝つ!」
「よしきた! ってあれ、動かない。電池切れかな? ちょっと探してくる」
ゆうちゃんが下に行っている間、大人しくチョコレートを食べて待つ。
「ごめんりーちゃん、電池単三だけなかった」
「それじゃあ私の家にあるから取ってくるよ」
玄関に向かおうとしたが、昨日のお姉ちゃんの言葉を思い出してやめることにした。
「やっぱり窓から行くよ。お姉ちゃんが昨日二人にしてほしいって言ってたから、こっそり行かないと」
「念のためはしご用意しようか?」
「いや、大丈夫だよ。雨じゃないし、ジャンプしなくても届く距離だから」
「分かった、気をつけて」
私達の部屋の下には、小さな屋根がある。そこを使えば、わざわざ下に降りずとも、お互いの部屋を行き来できるのだ。
次話 本日中
過去編は二部構成となっております。




