特別話② 配りにいきます!
※本編との話の関連はありません。
(もしかしたらどこかの機会で使うかもしれません)
私が一番に渡す人はもうずっと変わらない。
「お兄様、ハッピーバレンタインです!」
ビケット王子様との剣での戦いの休憩中に差し出す。
水分を奪うクッキーにしたのは申し訳ない。
「え、初めての手作り! ありがとうリア、家宝にするよ!」
お兄様はじっと眺め、それはそれは愛おしそうにしていた。
「今年はちゃんとすぐに食べてくださいね。お兄様感想聞きたいですし!」
「……分かった、本当は嫌だけどちゃんと食べるよ」
お兄様は毎年私が急かさない限り食べないけど、今回は手作りだから本当に早く食べてもらわないと。だから、ちょっとくらいずるをしなくては。
「ビケット王子様もどうぞ」
「ありがとう。俺はカーターと違って喜んで食べるよ」
「お口に合えば幸いです」
「マードリアが作った物だから美味しいに決まっているよ。部屋に戻ったら食べさせてもらうね」
「はい」
ビケット王子様と話している時のお兄様の顔は怖かった。渡すタイミング間違えたかも。
ビケット王子様、無事でいてください。
次に渡す相手とは案外早く会えた。どうやら二人揃って図書館帰りみたいだ。
「フーリン様、コリー王子様、こちらバレンタインのお菓子です。どうぞ」
「ありがとうございます、マードリア」
「ありがとう。これ、手作り?」
「はい」
「じゃあフーリンの僕がもらう」
コリー王子様はフーリン様に手の平を差し出す。
「どうしてですか?」
「フーリン、人から貰ったものは食べられないって断ってたから」
「マードリアのは大丈夫です。変なものとか絶対入れてないから」
あ、そっか。そういうことに気をつけないといけないの忘れてた。
「すみません、市販の物にするべきでしたね」
「いや、市販の物よりもマードリアの手作りの方が僕は嬉しいよ」
「僕も、マードのがいい」
良かった、喜んでくれてるみたい。
「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」
「お返しは僕も手作り?」
「どちらでも大丈夫ですよ。別に、お返しだってなくても大丈夫です。私が勝手にあげたのですから」
フーリン様は優しく微笑んだ。
「もらったのに返さないのは紳士ではないよ。お返し、期待しといてください」
「僕も、フーリン超える」
「はい、楽しみにしています」
男性陣はあとカヌレ様だけ。
カヌレ様はいつも湖が見えるところにいるから、見つけるのは簡単だった。
「カヌレ様、ご機嫌よう」
「…………」
カヌレ様の手にはもうマフィンが三つ握られていた。
「カヌレ様、私からもバレンタインのお菓子があるのですが、受け取っていただけますか?」
カヌレ様は空いている手を差し出してきた。私はその大きな手にラッピングしたクッキーを置く。
カヌレ様はクッキーをじっと見つめている。
相変わらず無口無表情だが、大事そうに持っているのを見て安心した。
「それでは、私は失礼しますね」
立ち去ろうとすると、カヌレ様が立ちあがり、案内するかなように私の先を歩く。
私がカヌレ様と別方向に行こうとすると、カヌレ様は止まってじっと私を見つめる。
大人しくカヌレ様についていくと、そこは女子寮の入り口だった。どうやら本当に案内してくれたようだ。
「あ、ここまで送っていただきありがとうございます!」
カヌレ様は何も言わずに去っていく。本当、変わらないな。
「「マードリア様、ご機嫌よう」」
後ろを振り返ると、メイールとホイリーがいた。
「メイールにホイリー、久しぶり! クラス違うからあまり会う機会なかったね」
「そうですね。ですが、二年生では同じクラスになれるように頑張ります!」
「マードリア様、こちらホイリー様と私からのバレンタインのお菓子です」
メイールからは種類の違うチョコレートを二つもらった。一つはホイリーのものだ。
「うわーありがとう、大事に食べるね。あ、私からも二人に。手作りだから、危ないと思ったら捨てていいよ」
二人は信じられないという顔でこちらを見てきた。
「そんなことしませんよ! マードリア様の手作りでしたら、メイールのお菓子よりも大事に食べさせてもらいます!」
「ホイリー様、それは少し傷つきます」
「あはは、同じくらい大事に食べてね」
「マードリア様はどちらに行かれるのですか?」
「アイリーン様達の部屋にお菓子を届けに行こうかと」
「でしたら私が送っていきます。ホイリー様にお手間を取らせるわけには行きませんし」
「二人で行きなさいってチコ様に言われたじゃない」
「あ、そうでした」
え、チコ? どうしてチコが?
「チコに言われたの?」
「厳密にはチコ様のペアの方です。チコ様は未だに私達とは話せないみたいです。それより早く行きましょう」
チコ、別に私一人で行けるのに二人にこんな手間かけさせて……。
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
「いえ、とんでもありません。私達はこれで失礼します」
「マードリア様、お菓子ありがとうございます。私達の物もお口に合えば幸いです」
「こちらこそありがとう。じゃあね」
私は二人が見えなくなるまで見送り、アイリーン様達の部屋をノックする。
確認の言葉もなくドアが開く。
特別話は次が最後です!
しかし、久しぶりだねメイールにホイリー。忘れた方は3話(第4部)を見返してください。




