寮父の未来は暗いと思います
チコがガーラと同じ目で私を見つめながら帰ってきた。
「結論から言うと、マードリア関連」
みんなからはやっぱりという空気が出ていた。
「マードリア、昨日寮父さんと揉めたでしょう」
「揉めたというか、口喧嘩みたいなのはあったよ」
「それを、フーリン皇子様が帰宅後のカーター様に言って、今この状態って感じらしい」
「マードリアのこととなると仕事が早くなるのね。マードリア、あなた愛されているわね」
「あはは……」
そんな呆れたような顔して言われると複雑だよ。
「そろそろ始まるみたいです。皆さん席につきましょう」
リリーの声かけで各々座り始める。全員座ったタイミングで、会は始まった。
お兄様は紙束を教壇の上に置き、一礼した。
「皆さま、本日は急な召集にも関わらず速やかなご対応ありがとうございます。
生徒組織会長、カーター・フレーバです。早速ですが、本題に入りたいと思います。女子生徒の皆さんも、人事と思わずにしっかりとお聞きください。
昨日、男子寮の寮父が、ある貴族の女子生徒に不適切な言動を行ったことを確認いたしました。
寮父は、以前も平民の男子生徒に危害を加えるような言動を行ったこともこちらで確認しております。前回は男子生徒への謝罪と、もう一度チャンスを与えるということで事を収めましたが、今回また問題を起こしました。しかも今回の相手は貴族の御令嬢。
女子生徒に対しても危害を加えるということを重く見て、以前の事と併せ、今回の件を機に寮父への解雇投票を行いたいと思います。教室に戻り次第紙が配られるかと思われますので、賛成か否か、当てはまる方に丸をつけてください。
これにて会を終了とさせていただきます。皆さん、お気をつけてお戻りください」
お兄様が壇上から降りると、講堂にいる人達がゾロゾロと教室に向かっていった。
まさかここまで早いとは思っていなかったし、解雇に追い込むとも思っていなかった。
この学園で解雇されるとなると、今後の生活にも響くだろうけど、私には関係ないことだ。
「マードリア、一体どんな事をされたの?」
アイリーン様は今日はほとんど一日中怒っている気がする。まだ始まったばかりだけど。
私は一応覚えている範囲のことをその場にいる全員に伝えた。それを聞いて、みんな寮父の解雇には賛成みたいだ。
「そういえば、先ほどカーター様が仰っていた男子生徒って、私の幼なじみかもしれません」
「そうなの?」
「はい。寮父に殴られたって言っていました。そのこともあるので、寮父の解雇の話が出てきて安心しています」
「いくら平民だからって殴るのは良くないわ。そんな人、たとえ男子寮の寮父だろうと早く学園から去ってもらいたいわ」
「はい。それに、そんな方が寮父のままでしたら、女の平民なんてもっとぞんざいに扱われてしまいます」
「そうだね。マードリアも不運だったね」
「私はフーリン様に守ってもらえたので全然運が良かったです」
本当に、フーリン様が来なければ、下手したら手か魔法を出されていたかもしれない。それくらいの勢いがあった。
あ、そう思うと今更になって恐怖が押し寄せてきた。
微かに震えた私の手を、小さい手が握ってきた。
「マードリア様、大丈夫ですか?」
レンちゃんは心配そうにこちらを見ている。
私は笑顔ともう一つの空いた手でレンちゃんの頭を撫でて
「大丈夫だよ」
と言った。
次話 2月13日
何気に有能キャラレンちゃん