二次災害発動です!
私の朝は、レンちゃんの顔と共に始まる。
「おはようございます、マードリア様。学校に行く支度をしますよ」
「おはようレンちゃん。悪いけど濡れたタオル持ってきてもらってもいい?」
「もう用意してますよ」
レンちゃんから受け取ったタオルで顔を拭いて、ベッドから出る気力をもらう。
ベッドから出たら顔を洗い、窓を開けて全身で朝を感じる。
「よし、今日も一日頑張ろう!」
「はい、頑張りましょう!」
忘れ物のチェックをし、寮を出る。
「おはようございます、マードリア様、レンさん」
「おはよう二人とも。今日は早いのね」
「おはよう、アイリーン様、リリー。レンちゃんがしっかりと準備してくれたおかげで、今日は早く出れたんだ」
「アイリーン王女様とリリーちゃんは相変わらずお早いですね。あ、おはようございます」
「私達はマードリアのように手を焼く必要ないからよ。レンさんも色々と苦労してそうね」
「いえ、意外と楽しいので全然大丈夫です!」
そう笑顔で答えるレンちゃんに、人知れず不安が押し寄せている。
その考えでいると、たぶん社畜まっしぐらだよ、レンちゃん。
私は密かにこれからはちゃんとしようと心に決めた。
後ろからガーラとチコが歩いて来ているのが見える。
そうだ、チャンスだ!
「レンちゃんごめん、ちょっとだけあの二人のところに行っててもらっていい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ごめんね、ありがとう」
レンちゃんはほんの少し首を傾げたが、何も言わずに二人の方に行ってくれた。
「どうしたのですか? レンさんを二人のところに行かせるなんて」
「二人に聞きたいことがあるから、ちょっと私に近づいて」
二人は一度顔を見合わせると、私の側に寄ってきた。
私は声量を抑えて、本人達に聞いてみることにした。
「ねえ、アイリーン様とリリーの好きな人って誰?」
二人は一旦きょとんとした表情をすると、みるみるうちに赤くなっていった。
リリーに好きな人がいるってことは知っていたけど、アイリーン様も本当にいたとは……。
リリーは幼なじみだとして、アイリーン様は誰だろう? ゲーム的にはフーリン様だったから、フーリン様かな? いや、でもゲームと状況変わってるってガーラが言ってたし、お兄様の可能性もありえる。いや、もしかしたらチコの可能性も。
私としてはリリーのことが好きであってほしいけど。
「マ、」
「マ?」
マから始まるアイリーン様が好きになりそうな人っていたっけ?
「マードリアに言えるわけないでしょう‼︎」
えぇ〜、何もそこまで言わなくても……。
アイリーン様は体の向きを変えると、チコ達の方に歩いていった。
「リリーはたぶん幼なじみだよね?」
「え、どうして私に幼なじみがいることを知っているのですか?」
「え、ええっと、どこかで聞いたんだよ。うん、どこかで」
「そうですか。私の好きな人が彼なのかは内緒です。ただ、一つヒントを差し上げます。私の好きな人は、意外と身近な方ですよ」
身近……。やっぱり幼なじみと考えるべきだよね。なんとかして恋の矢印をアイリーン様に向けたい! でも、本当にリリーが幼なじみと結ばれたいのなら、私は余計なことできないな。
「マードリア様、お話の途中すみません」
レンちゃんが縋るかのように私の手首の裾を握った。
「どうしたのレンちゃん?」
「アイリーン王女様が──」
◇◆◇◆◇
アイリーン王女様が私達の側に来ると、とても爽やかな笑みに怒りを浮かべた。
「怒らないから、どちらがマードリアにあんなことを言わせたのか言いなさい。あの鈍感マードリアが一人であんなこと考えつくなんてありえないのだから。さあ、どちら?」
怒らない、その言葉は嘘だということが、第三者の私でも分かる。
「え、えっと、ガーラだよ!」
「はぁ! でたらめな嘘つくな! 貴族だからってボクは守ったりしない!」
「でも、元はといえばガーラでしょう!」
「でもマードリアに変なこと吹き込んだのはチコでしょう!」
「だって、普通は探るとかするでしょう!」
「あのマードリアがそんなことできるわけないじゃん!」
二人の喧嘩に気を取られていると、パンっという音がした。音の方に目を向けると、そこには手を合わせて笑顔が消え失せたアイリーン王女様がいた。
「そう、二人の所為なのね、そうなのね。レンさん、あなたは無関係なのだから、マードリア達の方に行っていなさい。私はこの二人とすこーしお話があるから」
そのアイリーン王女様の笑みが優しすぎて、逆に怖かった。
◇◆◇◆◇
「──ということがあったのです」
そっか、二人が戻ってきたら一応謝っておこう。
そう私は二人を哀れんだ。
次話 本日中