私だって怒ります!
リリーは私達の様子を見て少し笑った。
「なんだか、ガーラさんはマードリア様の保護者みたいですね」
「うーん、似たようなものかもね」
「えぇ〜どこが保護者? 確かに、私よりはしっかりしているけど」
「マードリアは案外抜けてるもんね〜」
「チコまで……。レンちゃん助けて!」
「え、ええっと、マードリア様はいざという時は頼りになります!」
レンちゃん、頑張って擁護してくれてありがとう。だけど、いざという時はいらないよ〜。
「とにかく、周りの評価通りマードリアは隙が多いのだから、もし男性に触れられたりしたら逐一私に報告しなさい。触れられなくても、何か変わったことを言われたら知らせなさい。たとえ女性であっても、マードリアが少しでも疑問に思うようなことがあれば私に──」
「あ、相手が女性ならあたしに教えてね。加害者になるかもしれない人に教えちゃ駄目だよ」
チコはたまにみせるからかうような、面白がるような不思議な顔をしていた。
アイリーン様はそんなチコに何か言いたげだけど、何も言えないみたいでずっと口をパクパクと動かしている。
加害者。うーん、考えてもどんなことかよく分からない。
「ねえチコ、例えばどんなこと?」
チコはとてもいい笑顔を見せた。それはそれは清々しいほどの笑顔を。
「そうだねぇ、例えば」
チコは私の手に指を絡め、肩に手を置き、顔を接近させてきた。
思いっきり目を瞑ったが、何もされてこなかったので一安心してると、チコが私の耳元で囁いた。 「好き」 と。
その瞬間、私の顔がものすごく熱くなってくるのを感じる。全身の血が昇り、まるで炎天下にいるようで、体に熱を感じる。
「チコ! ふざけてそんなことしないの! そういうことをするのは本当に好きな人だけにしなさい!」
チコは驚いている。チコだけじゃない、この場にいるみんな驚いている。
「ご、ごめん。そんなに怒るとは思ってなかった」
初めて見るチコの顔。いつもは注意してもほんの少し申し訳なさそうにしている顔が、今は驚きと困惑、それに恐怖が混じっている顔だ。
「チコ、今のはやりすぎよ」
アイリーン様は俯いて額に手を当てている。
レンちゃんは驚きのあまり固まっていて、リリーの顔はよく見えない。
ガーラはチコの肩に手を置いて、私を見た。
「すぐそばにいたのに止めなかったボクも悪い。だから、ボクも謝る。ごめんなさい。それとマードリア、ずるいと思うけど、チコをあまり責めないで。マードリアは優しいし、大抵のことはそのまま流すからチコもいつものようにからかったつもりなんだよ」
「言い過ぎたとは思わない。だけど、私もちゃんとチコを理解していなかった。あんな風に言ったらチコがふざけてくるのは分かっていた。だから、私も悪い。でも、私が謝る必要はない」
「うん、そうだね。ごめんねマードリア。あたし、マードリアに甘え過ぎてた。これからは気をつけるよ」
本当にずるい。そんなこと言われたら、私の中に罪悪感が芽生えちゃうじゃん。
私はそっとチコの頭を撫でた。
「うん、お願い。それと、私はチコのことが大好きなのは変わらないから、安心して」
「本当に、マードリアはずるい」
チコは小さく笑みを浮かべた。
一応、チコの恐怖が混じった顔とマードリアの言葉の解説です。
チコが人見知りなのは皆さんご存知だと思います。そして、今現在のチコの交友関係はガーラ以外全てマードリアのおかげでできたものです。なので、チコはマードリアに嫌われればこの交友関係は終わってしまうと思い、自分の周りから人がいなくなってしまうという恐怖があったのです。
マードリアはそれを見抜いたので、最後にあのような言葉をかけたのです。
どうしてマードリアはこういう時だけ鋭いのか……。本当に、マードリアはずるい!
次話 2月12日
(何気にチコ×ガーラを応援しています)