なんとか戻れました!
コリー王子様も加わり、三人で女子寮へと向かう。
「それで、二人はどこ行くの?」
知らずについてきたのか……。
「女子寮です。マードリアが、部屋の場所が分からないみたいで」
「フーリンは知ってるんだ」
「いや、知らないよ。だからそんなに怒らないでくれ」
「え、怒ってるんですか?」
これで? 私にはあまり変化がないように見えるけど……。
「……? 別に僕怒ってないよ。それよりマード、僕も迷路について行く」
「ある意味的確な言葉ですね」
「迷路じゃないですよ。ちゃんと地図ありますから。だから女子寮の人たちに頼むよりかは安心出来るかと」
「マードはいじめられてるの? 僕が守るよ」
「違います。思い浮かべてください、私がまた迷子になったなんて言ったら、今度こそどこに行くにも監視付きになります。本当に、大袈裟ですよ。ちょっと道が分からなくなっただけなのに。そう思いませんか、フーリン様、コリー王子様」
フーリン様はなぜか私から目を逸らした。
「ならどうしてマードは今ここにいるの?」
コリー王子様がそう言うと、フーリン様は嬉しそうにコリー王子様の肩を叩いた。
「部屋の場所が分からないからですよ。別に、部屋の場所さえ知っていれば一人でも大丈夫ですよ」
「でも地図持ってるんだよね?」
「この地図分かりにくいんですよ。全て平面に書かれていて、どこからどう行けばいいか分からないのです」
「ちょっと借りていいですか?」
「どうぞ」
フーリン皇子様は地図をじっと見てから、目を細めて私の方を見た。
「この地図のどこが分かりにくいのですか? すごく丁寧に書かれていると思うよ」
「私はフーリン様ほど頭は良くないですから。それに、ちゃんと私が軽度の方向音痴ってことくらい理解していますよ。その地図は方向音痴にとっては難解な迷路としか思えません」
「けい、ど……? 本気で言っていますか?」
「当たり前じゃないですか。初めての場所では必ず迷うのですから、軽度の方向音痴だってことくらい分かってますよ。逆に、フーリン様はそんな私を見て方向音痴じゃないと思っていたのですか? でしたら、この際にその考えを改めてください」
「マード、ムキになってる」
「ムキにだってなりますよ。だって、方向音痴じゃないのならただの馬鹿じゃないですか」
「そうなんだ」
「そうです」
フーリン様は少し不敵に笑うと、私に近づいてきた。
「そうかそうか、マードリアは軽度の方向音痴だったのか。それは気づかなくて申し訳ない。きっとみんな、マードリアが軽度の方向音痴だってことは知らないだろうから、僕からちゃんと伝えておくよ。さ、寮に着いたよ。僕がちゃんと部屋の前まで送ってあげる。でもその前に、寮母さんに事情説明と挨拶をしてくるね」
フーリン様はそのまま寮母さんの方に挨拶しにいった。
私の心臓が結構やばいと警告を鳴らしている。調子に乗って強い口調で話してしまった。
「フーリン、怒ってる」
「はい……」
「でも、ちょっと嬉しそう。いいな、僕もマードに怒ってみたい」
コリー王子様はどうやったらそんな方向に思考がいくのだろうか?
まだまだコリー王子様を理解するのは無理みたい。
「マードリア、コーリー、行きますよ」
なんとなく、フーリン様と顔を合わせにくい。わざわざお願いを聞いてくれてここまで付き添ってくれたのに、あんな態度をとってしまって……。やはり、ここは早いうちに謝ろう。私に非があるのだから!
「フーリン様」
「どうしました?」
「申し訳ありません! いくら友人とはいえ、わざわざ私に付き合っていただいているのに、あのような上からの態度をとってしまって。本当に申し訳ありません‼︎」
精一杯頭を下げると、フーリン様が少し笑った声がした。そして、膝をついて私の顔を覗くようにした。
「顔を上げてください。そうですね、今度はマードリアが僕のお願いを聞いてくれるのでしたら許します」
私は顔を上げて、立ち上がったフーリン様の目をしっかりと見据えて宣言する。
「もちろん聞きます! 私ができることでしたら何でもやります!」
「楽しみにしています」
フーリン様は最近の癖なのか、私の前では良く顔半分を手で覆い隠して笑う。なんとなく、照れている笑い方みたいで私としては好きな笑い方。
それにしても、許してもらえたので良かった良かった。未だ敬語なのも、寮内だからだよね? そうだよね?
「フーリンずるい。マード、僕も」
「そうですね、コリー王子様にもわざわざ付き合ってもらったのですから、私が出来る範囲のお願いなら聞きますよ。考えといてください」
「うん、考えとく」
コリー王子様はほんの少し顔を赤らめて、嬉しそうに微笑んだ。
そこはやっぱり双子だからなのかなと思ってしまう。
「それではマードリア、僕達はこれで失礼しますね」
「マード、今度は僕の部屋においで」
「はい、ありがとうございました」
私は二人が見えなくなるまで見送ってから、ドアの鍵を開けた。
まさか、この後地獄が待っているなんて、この時の私はまったく想像もしていなかった。
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