男子寮にやって来ました!
おかしい、なぜ寮の入り口に来てしまうのだろう。
えーっと、まずリリーを連れて一旦下の階に行き、リリーと別れて階段を降りた……。そこだ!
間違えて階段下りちゃったよ。階段を上らなきゃいけなかったのに……。
しかし、私は思い出した。私はいつも部屋まで必ず誰かがついていてくれたから、そもそもの自分の部屋の場所すら知らないことに……。
「寮母さん! 私の部屋ってどこですか⁉︎」
私は入り口横の受付のようなところにいる寮母さんに話しかけた。
「まずお名前は?」
寮母さんはとても優しい口調で話しかける。
「マードリア・フレーバです。一年の」
「それじゃあちょっと待っててね」
寮母さんは紙をもってくると、私に渡した。
「ここがあなたの部屋までの地図よ。気をつけて戻ってね」
「はい、ありがとうございます」
これで無事戻れると思ったのに。思ったのに……
「どうしてまた寮の入り口にいるの……」
もういっそのこと誰かに迎えに来てもらうしか……。誰に?
レンちゃんには迷惑をかけたくないという私のプライドが邪魔するし、チコに頼むとまたしばらく話のネタにされそうだし、ガーラは思い出すたびに文句言われそうだからやだし、リリーはさっき連れ出してすぐにまた呼び出すっていうのもなんか可哀想だし、アイリーン様は確実に怒られるからやだ。
どうしよう、詰んだ。もうホイリーかメイールに頼もうかな? いや、あの二人に頼んだらアイリーン様の耳に入りそうだからそれもやだ。あの二人はぽろって口を滑らすからだめだ。
「女子寮全滅……。仕方ない、男子寮に行って、お兄様にお願いしよう」
男子寮は女子寮とさほど変わらないが、今年の全生徒数は女子より男子の方が多いため、男子寮の方が少し広い。
私は早速男子寮の寮父さんに話しかける。
「あの、すみません」
「入室ですか? 許可証は持っていますか?」
「あ、いえ、別に部屋に入るわけではないです。私、マードリア・フレーバといいまして、兄のカーター・フレーバをここに呼んでほしいのです」
私は学生証を見せながらそう言う。
「カーター様? 少々お待ちください」
寮父さんは近くにある外出名簿的なのを確認すると、再度私に話しかけた。
「カーター様は現在ビケット王子様と外出をなされていますね」
「そうなんですか」
どうせ剣とか魔法で戦ってるんでしょうね。仕方ない、他の人に頼もう。
カヌレ様は正直何考えているか分からないし、チコに話いきそうだからパス。コリー王子様は部屋に着くまで長くなりそうだし、ここはフーリン様に頼もう。
「でしたら、フーリン皇子様を呼んでいただけますか?」
フーリン様の名前を出した瞬間、寮父さんの目は厳しいものとなった。
「失礼ですが、フーリン皇子様とはどのようなご関係で?」
「幼い頃からの友人ですが……」
寮父さんは見せつけるかのようにため息をした。
「いるんですよねぇ、あなたのような貴族が」
「はい?」
「自分はフーリン皇子様と仲がよろしいから会わせろと言って、会ったら会ったで初めまして。そして挙句の果てに自分を婚約者にしてくれと懇願する。そういう方が多いので、フーリン様とは許可がなければ会わせられないのです」
「いやいやいや、ちょっと待ってください! 確かにフーリン様は皇子ですから婚約者にしてほしい人がくることは分かりますが、私は違います! 本当にフーリン様と友人です! フーリン様にマードリアが来ていると言っていただければ来てくれます!」
「君、いくら貴族の御令嬢だからって限度があるんだよ。それに、そんなの嘘だって分かっているのに皇子様を巻き込めないよ」
「別に一言フーリン様に私の名前を伝えてくれたらそれでいいんです! どうしてしてくれないんですか⁉︎」
「だから言っているでしょう──」
そんな口戦がずっと行われているものだから、いつの間にか大勢の人が様子を見にきていた。
(マードリア以外が)方向音痴に気をつけすぎたせいで起こってしまった悲劇……。
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