ゆうちゃんとりーちゃん(終)
懐かしいなぁ。しばらくは一人集中したいだろうから、そっとしておこう。
ボクは真っ暗な部屋を見てそう決める。
そして次の日、おばさん達が家を出ているのが見えた。りーちゃんが見送っている。
そんな様子を眺めているとりーちゃんのお姉さんと目が合った。すると、お姉さんは何か思い出したかのように家の中に入っていった。そしてりーちゃんの部屋から声をかけられた。
「ゆうちゃん、もし凛花に何かあった時ように合鍵渡しとくね。ちゃんと受け取ってよ」
お姉さんはボクに向かって鍵を投げる。本当、こういうところは姉妹なんだって実感させられる。
「それじゃあよろしく。ゆうちゃんにもちゃんとお土産買ってくるから楽しみにね」
「あ、はい」
お姉さんは満足そうに手を振って旅行に出かけていった。
部屋に戻ってきたりーちゃんが私に紙コップを投げるように合図した。
「それじゃあゆうちゃん、しばらくさようなら」
「うん」
本当にさようならをするなんて思わなかった。
三日目の早朝、ボクは合鍵を使ってりーちゃんの家に入った。
攻略できていてもいなくても、流石にそろそろ寝させないとと思ったから。
りーちゃんの部屋からはゲームの音がする。だけど、操作しているような感じはしない。寝落ちしたのかと思ってドアを開けたボクの思考は、完全に止まってしまった。
倒れた椅子、血がついたベッド、目を閉じたまま開く気配のないりーちゃん。
「りーちゃん!」
すぐに駆け寄った。りーちゃんに触れたが冷たくなっている。普通の思考をしているのなら、それだけでりーちゃんは死んだのだと分かるだろう。だけど、その時のボクはまだりーちゃんが寝ているだけとしか思えなかった。それ以外の可能性なんて考えたくなかった。
……ボクは何をしていたのだろう。気づいたら警察やら救急車がきていて、いつの間にか病院にいた。
警察に何か言われた気がしたが、ボクは何も理解できなかった。質問にも答えられなかった。
りーちゃんの家族が来て、医者に何か言われていた。それで涙を流していた。
血の気が無くて一切目を開く気配のないりーちゃんに、涙を流しているりーちゃんの家族。
ボクはただそれをぼーっと見ることしかできなかった。
りーちゃんのお姉さんが何か謝っていた気がする。りーちゃんの両親もボクに謝って、りーちゃんのことで感謝された気がする。
それからいつの間にか日が過ぎて、ボクは葬式に出ていた。
棺桶に入ったりーちゃんを見ても何も思わなかった。動かないりーちゃん。それはりーちゃんを型取った造形物としか思えない。これはりーちゃんではないと、ボクは心の中で決めつけていた。
遺品整理の所にもボクはいた。何を思ったのか、ボクはりーちゃんが持っていたまだ完結していない百合漫画とあの乙女ゲームをもらった。
それから年月は経って、百合漫画は全て完結した。そして、ずっと手をつけていなかった乙女ゲームを無理矢理にでも時間を作ってやった。そして、全てのエンドが終わった。
その時やっと、流れるエンドロールと共に涙が出てきた。
りーちゃんがやり残したことを終わらせてしまった。りーちゃんはもうこの世にいないのだと実感してしまったのだ。
次の日、ボクは有給を使ってずっと行っていなかった墓参りに出向いた。
やっと、りーちゃんの死に向き合うことができる。
お墓の前までくると、昨日枯らしたはずの涙がまた出てこようとする。
それをボクは堪えて、りーちゃんに話しかける。
「りーちゃんはさあ、自己評価すごい低いし怖いくらい鈍感だけど、みんなりーちゃんのこと大好きだったんだよ。そこそこモテてたの知らないでしょう。よく漫画を見ながら、こんなにみんなの助けになれる人ってすごいなぁって言ってたけど、ボクにとったら嫌味にしか聞こえなかったよ。
もし異世界なんてものが本当に存在しているなら、りーちゃんはそこでも自覚なしの方向音痴で周りに迷惑かけて、でもそれも許されちゃうほど、人との信頼関係を築けていて、男女関係なしに好意を向けられているのに、鈍感なせいで全く気づいてないんだろうね。
それこそ乙女ゲームなんかに転生したら、例えモブだろうとゲームの主人公みたいになってるんだろうね。
……ボクさあ、りーちゃんのせいで人に対してのハードルが上がって、生まれてから今まで恋人無しだよ。きっとこのまま独身貴族を謳歌するんだと思う。だからさ、次会ったら絶対文句言ってあげるから、首を長くして待っててよ」
それからボクは天寿を全うした。最後に本気で願ったのは、もう一度りーちゃんに会いたいだった。
思ったより長くならなかった。
これで過去編終わりです。
次話 2月8日