ゆうちゃんとりーちゃん③
次の日、彼女はボクに会っても挨拶しかしなくなった。彼女の目が真っ赤に腫れているのを見て、罪悪感がさらに大きくなっていった。
今日が終わればもう夏休みだ。そうなれば本当に彼女の中からボクという存在が消えてしまう。……そう思っていた。
「優李、引越しの片付けも終わったことだしお隣さんに挨拶しにいくわよ」
「お母さん一人で行けばいいじゃん」
「そういうわけにはいかないのよ。それに、今回のお隣さんとは長い付き合いになるのだから」
お母さんに引っ張られるような形でお隣に連れて行かれた。
お母さんがインターホンを鳴らすと、無機質な機械から声が聞こえる。
お母さんが隣に越してきた者と言うと、家の中から慌ただしい足音がした。
ドアが開くと、母親と同じくらいの年の女性と、ボクと同じくらいの女の子が出てきた。
その女の子を見て、思わず顔を背けてしまった。
「ほら、優李も挨拶しなさい」
「優李、です」
彼女の顔を見たくない。どんな顔をしているのか分からない。
ボクは耐えられずその場を逃げ出してしまった。
「あ、こら優李! ごめんなさい、あの子あまり人付き合いが得意じゃないの」
「優李ちゃんのお母さん、優李ちゃんは人と関わるのが嫌いなんですか?」
「ううん、違うよ。ただ、引っ越しが多くて何度も友達と離れてね。最初のうちは手紙でのやり取りがあったんだけど、それも無くなって。きっとあの子は、友達を失うのが怖いんだよ」
「そうですか、ありがとうございます。私、ゆうちゃんを追いかけます!」
学校の通学路以外の道は知らない。帰れるか分からないのにとにかく離れることしか頭になかった。気づくと全く知らない公園のベンチに座っていた。
段々と空が暗くなる。それと同時に不安が増していく。
「う、うう……」
もう家に帰れないんじゃないかという不安がボクを襲う。誰もボクを見つけられないのではないかと怖くなる。
「見つけた」
ボクの耳にそんな天使の囁きが聞こえた。顔を上げると、彼女が少し息を切らして顔を赤くしながらも笑顔でボクを見ている。
「どう、して。どうして」
「ゆうちゃんが本気で私のこと嫌いじゃないって分かったから」
彼女のハンカチがボクの涙で濡れていく。
「帰ろう」
彼女の差し出す手を今度は握ることができた。彼女の横に並ぶことができた。
それだけで、ボクは救われた気がした。
「あ、あれ? ここどこ〜?」
彼女についていったせいで余計に分からない場所にきてしまった。だけど不思議と、なんだか嬉しくなった。
「一緒に、探そう」
近所のはずなのに家に着くまで二時間かかってしまった。
お互い親にこっぴどく叱られたけど、なんだかおかしくなってしまった。
「ゆうちゃん、またね」
「うん、またね。……りーちゃん」
そう呼ぶと、りーちゃんはとてもとても嬉しそうだった。
その後、家に戻ったボク達はお互いの部屋が向かいだということに気づいた。それからは窓を開けてお互い話していたが、夜遅くまで話すこともあり、そのたびにお互いの親が叱りにきた。
そして夏休みのある日、りーちゃんといつものように窓を開けて話していたら、りーちゃんが糸電話を作った。
「ちゃんと受け取ってね」
りーちゃんが投げた紙コップは真っ直ぐボクに向かってくる。
「耳に当てて」
言われた通り耳に当てると、不安定なりーちゃんの声が聞こえてきた。
「これで夜話していても怒られなくて済むね」
悪戯っ子の顔だ。イシシという笑い声が似合いそう。
「そうだね」
それからボク達はずっと、糸電話を使って話続けた。
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