王女様と出会っちゃいました!
今回少し長いです。
めんどくさい挨拶をしなくてもいい場所に行こう思って、人を避けて歩いていたら、いつのまにか裏庭に迷い込んでしまったらしい。
建物に沿って歩けばまた元の場所に戻れるだろうと思い、私は大きな大きなお城の壁に沿って歩いた。
ようやく辿り着いた曲がり角を曲がると、遠くに一人の女の子が何か様子を伺っているように見えた。
面倒ごとに巻き込まれたくはないので、奥にある茂みの中に隠れて、城の壁を見ながら歩き始めた。
しばらく四つん這いで歩くと曲がり角に差し掛かった。そして、女の子がどうして様子を伺っていたのか分かった。
「ほんと、王女様には参りますわね」
「ええ、ホイリー様のおっしゃる通りですわ。権力さえなければ、あんな意地の悪い方と一緒に行動するなんてありえませんわ。こちらは常に顔色を伺って行動しているのに、王女様はそんなこと考えてもいませんよ」
「メイールの言う通りね。どうにかして彼女を蹴落とす方法ってないかしら?」
「かなり先になってしまいますが、学園では王子様だけでなく、皇子様や公爵様の御子息と御令嬢もいらっしゃいます。その時に今までの悪事を彼女がいじめるものに少しずつ送り、そのいじめられていた者によって彼女の今までを暴露してもらう。こういう計画はどうでしょうか? 貴族ですらいじめる方です、絶対平民なんて格好の獲物ですよ」
「たしかに。それはいい考えね、私達の手を汚さなくても済むでしょうし。そうと決まれば今から準備をしましょう。彼女が断罪される時が楽しみね」
結構粗のある計画を立てて、意地悪く笑う二人の顔を見て、王女様がなんだか可哀想に思えてしまう。
当たり前だけど、私自身いじめとか仲間外れには反対だ。今までそういうことをする人は、私よりカースト上位にいる人だったが為に、影で味方になることしかできなかった。この世界で私より地位が高い人は、皇子様、王子様、王女様、公爵家の御子息、御令嬢だ。
そして、今回のパーティーに公爵家は参加していない。つまり、彼女達は私より地位が低い。
私は茂みから出て、彼女達の前に姿を現した。
「お初にお目にかかります。ドルチエ王国侯爵家、マードリア・フレーバと申します。いきなりで申し訳ありませんが、そのような言動は御二方の可愛らしい容姿に泥を塗ってしまいます。それに私も、聞いていてあまり良いものではありません。ですから、そのような言動は控えていただけると幸いです」
みよ! この百合漫画を参考に、女の子を褒めつつ悪いところを指摘する! きっと二人も褒められて少しは嬉しそうにしつつ反省しているでしょう!
そう思って見た二人の顔からは血の気が引いていた。
「「も、申し訳ありません!」」
そう謝る二人は肩が震え、今にも泣き出しそうだった。
「私は別に怒ってなどいませんけど。──そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね、名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
まあ、私が名乗って向こうも名乗らないのはあれだしね。でも、そんなに怖がることないのに。肩書きのせいかな?
「ホイリー・シャティと申します」
「シャティ伯爵家の御令嬢でしたか。そちらのお嬢様はなんというのですか?」
「メイール・ラップと申します」
「ラップ男爵家の御令嬢ですね。お二人とも、今回は未遂ですので誰にも言うつもりはありません。ですが、言動には気をつけたほうがよろしいですよ。いつ誰が聞いているか分かりませんしね」
実際、様子を伺っている人ならいたし。
「ほ、本当に申し訳ありませんでした!」
二人はドレスのスカートの裾を持って走って逃げていった。
そんなに強く言った覚えはないんだけど……。少し褒め言葉も混ぜたのに……。でもまあ、女の子は特に容姿を褒められると嬉しいから、私の言葉を思い出した時、少しは私に対しての印象が良くなるといいな。
「さ、道も分かったことだし私もお兄様のいる場所に戻ろう」
二人が走った方に私も歩こうとしたタイミングで、小さな悲鳴が聞こえた。
ほっとくなんてことはできないので、悲鳴が聞こえた方に向かうと、尻もちをついた一人の女の子に、小さな子犬が牙を剥き出しにして威嚇していた。犬種的にゴールデンレトリバーの子犬に近い気がする。
「立てますか?」
私は震える彼女の手を取って立ち上がらせた。
「私の後ろにいてください」
私はそう言って、半分涙目の彼女に背を向けて犬に向き合った。
ゆっくりと近づき、斜め前の位置にしゃがみ込み、手を握ってそっと近づける。
犬は少し警戒しながら私の手の甲を嗅ぐ。敵意なしとみなしたのか、少し落ち着いた感じがする。
胸元を撫でても威嚇する様子がないので、少しずつ撫でながら頭に手をおく。
とても大人しく、頭を撫でると尻尾を振って喜んでいる。
元々動物は好きなので、こういう知識はそこそこある。
「もう大丈夫ですよ。きっと、ここに迷い込んで少し不安だったのではないでしょうか?」
「危なくないの?」
彼女はまだ少し声が震えていた。
「大丈夫ですよ。私がやった通りにすれば犬も怖がらないので大丈夫です。やってみますか?」
改めてしっかりと容姿を見ると、ほとんど日光に当たった事がないのではと疑ってしまうほどの白い肌、金髪の綺麗なロングストレートに赤い目。目は少しつり目気味でどこかで見たことのある顔。
たしか、乙女ゲームに出てくる悪役令嬢。
そうだ! 悪役令嬢を幼くしたような人だ! たしか悪役令嬢の名前はアイリーンで、階級は──
「王女様」
ついうっかり声を漏らすと、少女は少し驚いたような顔をしたものの、すぐに少し嬉しそうな顔をした。
「あら、私のことを知っているのね。そうね、せっかくだし犬と少しぐらい触れ合ってもいいかしら。あなた、ちゃんと教えなさい」
今度は私が驚いた。つい口にしてしまった階級があっているとは思わなかった。
「何をぼーっとしているの? 早くしなさい」
「あ、は、はい!」
王女様は私の指示通りに動いて、最初は警戒心をお互い出していたが、しばらくすると上機嫌で犬と触れ合った。
私はぼーっとその様子を眺めていると、自己紹介をしていないことを思い出し、慌てて王女様の前に立って自己紹介をする。
「申し遅れました、ドルチエ王国侯爵家、マードリア・フレーバと申します」
「アイリーンよ」
「はい?」
「だから、アイリーン・ミークよ。あなたのこと、少し気に入ったからこれからもよろしくしてあげるわ」
「あ、は、はい。ありがとうございます! こちらこそよろしくお願いいたします」
この時、私の頭には一つの可能性が浮かび上がっていた。それは、乙女ゲームの中のキャラに転生した。ということだ。
もっと詳しく調べる必要がある。
まあ、ほぼ八割ぐらい乙女ゲーの中ではないかと思っているが。だって、王女様の名前がちゃんと一致してるし、魔法もあるから地球じゃない事は確実だし。
「王女様、そろそろ皆さまのいる所に戻りましょう」
「待ちなさい」
王女様は私のスカートについた葉や小枝を取っていく。
「レディーが、それも侯爵家の御令嬢がこんなものをつけて会場にもどるなんて、不格好にも程があるわ」
王女様のこのような姿を見ていると、本当にあの悪役令嬢とは思えない。でも、主人公との百合ルートがあると考えるとこの行動は必然とも思えてしまう。
「これからはもっと自分のことを見なさい」
「申し訳ありません。あと、ありがとうございます王女様」
「一緒に居る私も恥をかくことになるのだから、これくらいは当然よ。それと、先ほど私はアイリーンと名乗ったのだから、その、私もマードリアと呼ぶから、マードリアも同じように私のことを呼びなさい。さあ、行くわよ」
私は少し躊躇いつつも、犬を抱き上げてからアイリーン様が差し出す手を取る。
「はい! 行きましょうアイリーン様」
王女、登場したーー!!
これからのマードリアとの絡みが楽しみ!
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改稿してて思う、この頃はまだキャラが定まっていなかったのだと。学園編とか凄そう。絶対キャラブレブレ。
次話 1月24日(2話投稿予定)