ゆうちゃんとりーちゃん①(途中からガーラ視点)
チコとガーラの部屋のドアをノックする。
「どちら様ですか?」
「マードリアだよ」
ガーラがドアを開いて出てきた。
「たぶん用があるのボクですよね?」
「うん」
「別に今日じゃなくても良かったのに」
「ガーラ的には早い方がいいでしょう?」
「まあ、そうですけど……。分かりました、行きましょう。チコ、ボクは少しマードリアと話してきます」
「夕食の時間までには戻ってくるようにね」
「分かってます」
ガーラはドア付近にある鍵を持って、私と人気のないところまできた。
「ここならいいでしょう。まずは遠回しに聞きます。マードリアは異世界転生という言葉の意味を知っていますか?」
心臓が飛び跳ねるのが分かった。遠回しもなにも、明らかに転生者ですか? と聞いているようなものだ。でもそう考えると、ガーラも転生者の可能性が高くなる。
「知っているよ。ガーラ、もう直球に聞いてきていいよ」
「なら単刀直入に聞きます。マードリアは異世界転生者ですか?」
やっぱりそうきた。この質問に対する返答は決まっている。
「うん、そうだよ。それじゃあ私からも一つ、ガーラも異世界転生者?」
「そうですよ。前世では、唯一の友人であり親友に"ゆうちゃん"と呼ばれていました。その親友は、頭をベッドに強打して、十七歳で旅立っていきました。マードリアは心当たりありませんか? "りーちゃん"と呼ばれていた記憶はありませんか?」
ゆうちゃん。偶にノートで名前を見て、その度に思い出しては忘れていた。だけど、今その元ゆうちゃんと思わしき人物が私の目の前に現れたことにより、朧げだった記憶がだんだんと鮮明になっていく。
「その親友とは、小学生の時に転入した学校で知り合った?」
「はい」
「百合が好きなことがばれて焦ったけど、次の日には親友もハマっていて驚いた?」
「はい」
ここらへんからは、もう確信に変わっていて、お互いの目からは涙が溢れてきた。
「その親友と一緒に、漫画を、作った?」
「うん……」
「ゆうちゃん!」
「りーちゃん!」
◇◆◇◆◇
一体何年ぶりの再会だろうか。りーちゃんがボクを置いて逝った時のこと、今でも鮮明に覚えている。あれは、夏休み真っ只中の事だった。
「はあ! 三徹する⁉︎ あんた本気で言ってるの?」
「あったり前じゃん! この私としたことが、乙女ゲームに百合ルートがあったなんて盲目だった。遅れた分取り戻さないと。それに、明日は私以外の家族みんなで三泊四日の旅行に行くから大丈夫!」
そんな嬉しそうにグッドポーズされても……。
「何、りーちゃんは行かないの?」
「うん! 百合ルートの為に断った。それに、抽選で当たった旅行券四人までだから私が行かなくて丁度いいんだよ。元はおばあちゃんの為の旅行だしね」
「りーちゃんの百合への執着はもうボクを超えたね。ま、おばさん達が許してるならいいと思うよ」
──本当はこの時、意地でも止めるべきだった。いや、あんな未来が待っているって知っているのなら、ボクは迷わずりーちゃんのゲーム機を壊していた。
りーちゃんの家からは、ボクの部屋にまで届く声で、おばさんがご飯だと家族を呼んでいるの。
「ほら、ご飯だって。早くいきなよ」
「うん。あー、明日が楽しみ」
「左様ですか。無理はしないように」
「大丈夫大丈夫。じゃあ行ってくるね」
りーちゃんは紙コップをほっぽったので、今日はボクが回収した。
小学生の時から何気にずっとお世話になってる糸電話。今はスマホだってあるから普通ならいらない。でも、糸電話なら充電なんてしなくていいし、何よりお互いの顔を見ながら話ができる。
別に、家が隣同士だから紙コップが無くても声は聞こえるが、これがボク達のポリシーみたいなものだ。
「一体おまえは何代目の糸電話だろうな」
確かりーちゃんと初めて糸電話で話したのも、夏休みだった気がする。
次話 2月6日
しばらく過去編続きます。