第二の転生者です(ガーラ目線)
やっぱりおかしい。
「リリーの隣にいるのがマードリア。おかしい、そんなのゲームには無かった」
ボクが知っているのは、このルートで忘れ物をしたのはアイリーン。そもそも、マードリアという侯爵家の令嬢はゲームにすら出ていなかった。なのに何故、アイリーンとチコと仲が良いんだ? しかも主人公とも仲良さそうだし。
それに、アイリーンとチコは元々仲が良いわけでもなかった。アイリーンも悪役令嬢なんだから性格は悪かった。なのに今は全然悪くない。一体どうなってる?
いや、そもそも死んだら乙女ゲームの世界のなんかのキャラに転生していたっていうのがおかしいんだけど。気づいたら目の前にチコがいるし、ボクはボクでガーラって名乗ってるし。もうほんと、意味わかんない。
「あ、行っちゃう」
ボクは二人の後について講堂に入っていく。
「マードリア、それとリリーさん、お帰りなさい」
「もう忘れ物しないように気を付けてね」
「うん、ほんと、リリーさんがいて助かったよ」
「あの、ガーラさんはいなかったのですか?」
マードリアとリリーは二人で顔を合わせた。
「いなかったよ」
「はい、いらっしゃいませんでしたよ」
「あれ〜? どこに行ったんだろう。確認したいことがあるからって行ったんだけど」
なんか大事になりそうだから出ていく。
「ボクならここにいますよ。ボクが着く前にリリーがいたから、ボクはボクでゆっくりきたんです」
なぜかみんなボクの方を向いて、はてなマークを浮かべている。
「ガーラってリリーちゃんとそんなに仲良かったの?」
「いえ、実際に会ったのは今が初めてですけど、どうしてですか?」
「だって、リリーちゃんのこと呼び捨てにしているから」
「それが何か問題ですか? ボクがその人をどう呼ぶかは勝手だと思います」
貴族二人の顔つきは明らかに険しくなった。貴族はそんなに礼儀というものを大事にするのか? 別にボクと同じ平民なんだから問題ないではないか。アイリーンやチコみたいに貴族でもなんでもないのだから。
「あなた──」
「あっははは!」
アイリーンが何か言おうとしたところで、マードリアは笑った。
まだ周りがざわざわしていると言っても、その笑い声は一際目立っていた。
「私、君好きだよ。えーっと、ガーラだっけ?」
「はい、そうです」
「改めて、私はマードリア。ガーラは私のことなんて呼ぶの?」
「別に、許してくれるのならマードリアって呼びますけど……」
「そっか、よろしくねガーラ」
そう言って見せた笑顔は、どことなく彼女に似ていた。こんな曲がった性格のボクに声をかけてくれて、友達になってくれて、いつも側にいてくれて、ボクを置いて逝った馬鹿な親友に。
「え⁉︎ どうしたのガーラ!」
そう言われて、顔が濡れていることに気づいた。
拭っても拭っても、その涙は乾かなかった。
「あー、どうしよう、ハンカチ鞄だ」
「どうぞ。あと、私は気にしてませんのでリリーで大丈夫です。マードリア様もぜひ、私をリリーとお呼びください!」
「あ、ありがとう」
「う、うん、リリー」
リリーの渡してくれたハンカチはとても良い匂いがした。
「ガーラ、マードリアを呼び捨てにするならあたし達も呼び捨てでいいよ」
「私は許可してないわよ!」
そう抗議するアイリーンに、チコは耳打ちをした。
「仕方ないわね、特別に許可するわ」
「ありがとうございます」
「は、早く座らないと始まりますよ」
「そうだね、早く座ろう」
ボク達も席に座って始まるのを待つ。さほど待たずに入学式の挨拶が始まった。
挨拶は前世の学校とほとんど変わっていない気がする。
そろそろ眠くなったので、お得意の目を開けたまま寝ることでもしようと思ったが、ゲームで見知った人物を見かけて一気に眠気が覚めた。
「皆さま、ご入学おめでとうございます。生徒組織会長のカーター・フレーバです」
男キャラもちゃんといる。これは、他の男性キャラも全員いそうだな。……ていうかこの会長、どんだけ妹のこと話してるんだ? 最初の言葉以外ほとんど妹のことじゃないか。
横を見ると目を輝かせているリリー、手で顔を覆って俯いているマードリア、そんなマードリアの肩に手を置いて哀れんでいるアイリーン、面白がっているチコ、若干引いているレンがいた。
何このカオスな並び。
そんな地獄のような時間が過ぎ、新入生代表でフーリンが現れた。
フーリンはさっきのカーターと違ってまともな挨拶だった。
ボクの心は安堵で包まれていた。
こうして、無事挨拶も終わったので教室に戻ることになった。
「マードリア、そろそろ元気出しなさい」
「そうだよ、そもそもマードリアのこと知っている人はあまりいないから大丈夫だよ。カーター様も名前までは口に出さなかったし」
何となく思っていたが、チコって少し毒混ぜながら喋っている気が……。確かゲームのファンブック的なやつにそんなこと書いてあったような無かったような……。忘れた。二次創作の設定だった可能性もあるし。
いや、そんなことよりもマードリアだ。もしかしたらボクと同じ転生者って可能性もあるからしっかりと観察しないと。
次話はマードリア目線ですが、あと何話かはガーラ目線になります。その場合、次話の横に書かせていただきます。
次話 本日中