主人公と遭遇しました!
ある程度歩いたところであることに気がついた。
学生証を鞄の中に入れたままにしてしまった事を。
過去の事例で、この学園の生徒じゃない人が替え玉で通っていたらしい。学生証は魔法が使えないとただのメモ帳になる。それを利用して、今後、替え玉や侵入を阻止する為に学園全体と学生証に魔法をかけて、学生証が無ければ学園自体はもちろんだが、学園内の部屋にも入れなくなってしまっている。
「皆さん申し訳ありません、学生証を忘れたので教室に取りに行ってきますね。皆さんは先に行ってていいですよ」
「え、あ、マードリア待ちなさい! 行っちゃった。……そもそも学生証がなければ教室に入れないじゃない」
「あの、でしたら私が追いかけます」
「ちょっと待って! 確かめたいことがあるからボクが行く」
ガーラはマードリアの後を追うように走っていった。
◇◆◇◆◇
教室に入ろうとして、思いっきり体を見えない壁にぶつけたことで気づいた。
「学生証無いと入れないじゃん……」
どうしよう、またみんなのところに戻って──ていやいや、もし講堂の中に入っていたら意味がない。
他に生徒を探す方が手取り早い。
「よし!」
「あ、あの」
立った瞬間、目の前には銀髪碧眼で私の好みドストライクの少女が立っていた。
それもそのはず、このキャラは私が作った主人公なんだから!
「大丈夫ですか? マードリア様」
「だ、大丈夫大丈夫。……あれ、私のこと知っているの?」
「あ、はい! マードリア様のことは以前から存じ上げております! それで、どのようなご用件で戻って来られたのですか?」
「実は鞄の中に学生証を入れたままにしてしまって……」
「なら私が取ってきますね。どちらの席でしょうか?」
「後ろから数えて四列目の真ん中の席のところの左からニ番目です」
「分かりました。少々お待ちください」
主人公は側から見たら上機嫌に学生証を取りにいっている。
その行動も少々変ではあるが、さほど気にするものではない。
それよりも私が気がかりなのは、何故主人公は私の名前を知っていたのか。別に名前を知っていることは変ではない。
ただ、私は民衆に顔を晒したことはないので名前と顔が一致しているのは少し妙に感じる。
考えたけど答えは出ない。だから、まあいいか。
「お待たせしましたマードリア様。入学の挨拶も始まってしまいますし、早く行きましょう」
そう言って主人公は手を差し出してきた。
私はその手を握って一緒に講堂に向かう。
しかし、アイリーン様もだがよく人の手を握るのが好きだなぁ。あ、でもアイリーン様は私からか。妹できたみたいでついやっちゃうんだよね。
「そういえば、名前を聞いていませんでしたね。何とおっしゃるのですか?」
「リリー・ホワイトです」
あーーーー! そうだ、そんな名前にしたんだった! 名前をつけるところで下心満載でニヤニヤしながらそう名付けたんだ。リリーホワイト、百合の英語名。なんかごめんなさい、そんな邪な感情とノリでつけて。
「マードリア様は婚約者はいらっしゃるのですか?」
「え?」
「あ、すみません。いきなり失礼でしたよね」
「そんなことありませんよ。私に婚約者はいません」
そう答えると何故か安心したような息をついた。それになんだか顔が赤い。そんなに婚約者の質問で焦ったのだろうか?
でも婚約者か、そういえばそんな話私に一度もきたことないな。
もしそんなに私に魅力が無かったとしても、侯爵家とそこそこの地位を持っている令嬢なら別に婚約者の候補くらいいてもおかしくない。けど、全くないのは大方お父様とお兄様の仕業だろう。
でもそれは置いといて、まずはリリーが幼なじみに脈ありかどうかくらいは確認しないと。
「リリーさんは別に好きとかじゃなくていいですけど、気になる人とか他の人よりかは少し特別かなって思う方はいるのですか?」
リリーの顔は少しずつ赤みが増していった。
「えっと、その、いるかいないかと言われますといます。その方はまるで天使のようで、本当は自分も怖いのに私の前では強がって慰めてくれますし、心に寄り添ってくれたのです」
これは、まさかのいつの間にか幼なじみルート⁉︎ いや待て待て、まだ百合ルートが消え失せたわけではない。乙女ゲームでも元々幼なじみに少し気はあったんだ。それを他の攻略対象と絡ませる事によって気持ちが変わっていった。なら、今からでも遅くはない! 頑張れ私、ファイトだ私〜〜!
最高のエンドをこの目で見届けるのだ!
ゲーム主人公登場!アイリーン様とはまた別タイプのヒロインです。
次話 2月4日