新たな生活の幕開けです!
「うわっ!」
足が何かに引っかかった。状況からみて、横にいる頭がくるくるしている目つきの悪い貴族が足を引っかけてきたに違いない。
「「危ない!」」
二人が支えてくれたお陰で転ばずに済んだ。
「あなた、今わざとでしょう」
「何のことかしら?」
「あ、ああたし、み、見てたよ」
チコ、自分から人に声をかけるの苦手なのによく頑張って……成長したね。
「私は知らないわ。そこの鈍臭そうな子が勝手に転んだだけでしょう。それとも何かしら、このスーウィツ帝国で二番目に力を持つ国、パティシェル王国の王女であるこのクレア様に楯突こうっていう気?」
完全に勝ち誇った彼女だが、残念ながら帝国一力を持つドルチエ王国の三人を怒らせてしまったようだ。
「あら、気づかなくて申し訳ありません。私、“ドルチエ”王国の王女、アイリーン・ミークでございます」
「同じく“ドルチエ”王国公爵家、チコ・ブライトです」
明らかにクレア王女の顔が曇った。私の方を向いたので、私も“誠意を込めて”挨拶をする。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ドルチエ王国侯爵家、“鈍臭い”マードリア・フレーバです」
罰が悪くなったのか、彼女は私達を睨んで逃げるように寮内に入っていった。
「感じ悪いわね。マードリア、もし何かされたりしたらすぐに言いなさい」
「そうだよ、何か起こる前にあたし達を頼ってね」
そうそう起こるとは思わないけど。そもそも、本来の悪役令嬢であるアイリーン様が真っ当人間の時点で大丈夫だと思うし。けどまあ、そんなこと言えないから、ここは正答をしておく。
「分かりました、その時は頼らせていただきます。さ、ここにいてもなんですし早く寮に行きましょう」
「そうね」
「今日はいろいろやることがあるから会うのは明日かもね」
「そうだね。それじゃあ、私はこっちだから失礼するね」
そう言って離れようとすると、二人はじっと私を見てきた。
「え、何?」
「一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ!」
「不安は取り除いておくに越した事はないわ。私達もついて行ってあげるわ」
「え〜」
こうして、何故か二人に部屋まで送られる羽目になってしまった。
◇◆◇◆◇
ドアを前に深呼吸をする。ドアの先にはペアの子がいる。仲良くなれるか不安で仕方ない。
意を決してドアを開けると、藍色の髪に水色の目を持つ可愛らしい少女と目が合う。
「あ、えっと初めまして。本日よりお世話係となります、レン・ストルと申します」
「初めまして、ドルチエ王国侯爵家、マードリア・フレーバと申します。仲良くしてもらえると嬉しいです」
「そ、そんなお言葉をもらえて光栄です、マードリア様」
レンちゃんはとても固まっているようで、どことなくぎこちない感じがする。
「そんなにかしこまらなくていいよ。これからはルームメイトなんだから気楽に過ごそう」
「え、えっと、それはマードリア様への失礼に値するかと……」
「気にしないで。私は他の貴族みたいにしっかりしてないから。ちょっとずつ距離感掴んでくれればいいよ」
「さ、左様ですか」
結局、あまりレンちゃんとの距離は縮まらなかった。でも、前世でも貴族は雲の上の人たちみたいな感じだったから案外こんな感じかも。
◇◆◇◆◇
朝起きて、制服を手にする。前世のものとは違って明らかに上品さが隠し切れていない。全体的に白く、ほんの少し金色の装飾がされている。それでいてネクタイは柄の入った赤。これぞ、貴族の制服という感じだ! 知らんけど!
平民の制服は深緑色のワンピースといった感じだ。あの、よくお嬢様とかがきてそうなワンピースって感じの。
ちなみに、平民は男女で色が変わる。女子は深緑色、男子は灰色と。
「どうしよう、ネクタイ付けられない……」
前世ではカチッとはめるだけで済むリボン。ネクタイなんて付けたことがない。
「あの、お困りですか?」
「あ、うん。ネクタイの付け方が分からないの」
「なら、私が付けましょうか?」
「いいの?」
「はい」
「ありがとう、お願い」
そう気軽にお願いしたが、ちょっと緊張してしまう。ほんの少し息がかかってこそばゆい。
「できました」
「わあ、すごい綺麗に整ってる! ありがとう、レンちゃん」
レンちゃんは少し恥ずかしそうにし、ぎこちない笑顔を見せた。
「私は、お世話係ですから」
「そっか、レンちゃんはお世話係なんだっけ。それじゃあ、一緒に教室行こう。ペアは教室一緒だし」
「あ、はい。それではお荷物お持ちします」
「いいよ、これくらい自分で持てるから」
私はそばにある革製のカバンを持つ。
「それじゃあレンちゃん、行こう」
「は、はい」
私達は戸締りを確認して、教室に向かった。
次話 2月3日
クレア→エクレア
レン・ストル→シュトーレン ストル(オランダ語)