一緒に行きます!
お風呂にも入った、ご飯も食べた、服も綺麗にしてもらった、髪の毛も整えてもらった。
「うん、完璧!」
「はい、これならアイリーン王女様とチコ公女様に会っても問題ありませんね」
「ありがとうジェリー」
窓の外に馬車が見える。アイリーン様のお迎えだ。
「馬車までお送りします」
馬車の前に着くと、アイリーン様がわざわざ降りてきた。
「おはようございます、アイリーン様。本日はお出迎えありがとうございます」
「おはようマードリア。今日はちゃんとしているようね、乗りなさい」
「はい。ジェリー、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
馬車の中に護衛の人でもいるのかなって思ったが、誰もおず、私とアイリーン様だけだ。
「あなた達、一体いつ仲良くなったのよ」
馬車に乗って早々その質問をされた。
「まあ、ちょっと色々とありまして……」
「そのちょっと色々が聞きたいのよ」
「え、えーっと、それはチコにも影響が出るので……」
煮え切らない返事を続けていると、アイリーン様が段々不機嫌になってきた。
「もういいわ。それに、それは私が一番聞きたいことじゃないし」
「でしたら、何を聞きたいのですか?」
「あなた、彼女のこと呼び捨てじゃない」
「はい、そうですね」
身分が上の人を呼び捨てにしているのが気にくわないのかな?
「何故この私が様づけで、彼女が呼び捨てなのよ!」
え、そこ⁉︎ いやでもなんで!
「それは、その、流れで。その、お恥ずかしながら初めて会った時公爵家の御令嬢だとは知らなかったのです。それでお互い呼び捨てで呼び合っていたので、そのまま延長線って感じですね」
「なら私も呼び捨てにしなさい」
「えっ……?」
何故そうなる⁉︎
「いや、その、それはちょっと……」
「どうしてよ」
「その、アイリーン様と呼ぶのに慣れてしまっていますので……」
分かってくれ! 呼び名を変えることの気恥ずかしい感じを!
今までちゃんづけだったのを呼び捨てにできないみたいに。呼び捨てだったのをちゃんづけできないみたいに!
「その、例えとしてはアイリーン様が私のことをマードリアちゃんと呼ぶ感じです」
「マードリアちゃん……‼︎」
アイリーン様は顔を手で覆った。
「い、いいわ、呼び捨てじゃなくて」
「お願いします……」
アイリーン様は顔から手を離して私の横に座った。
「どうされたのですか?」
「座る場所を変えたらいけないかしら?」
「そんなことはありませんが」
アイリーン様の横顔を見ると少し顔が赤くなっている気がする。
熱でもあるのかな?
「アイリーン様、失礼しますね」
「え? ……‼︎‼︎」
手を当てた限り熱があるわけではない。
手だとダメなのかな? おでこ同士の方が伝わりやすいのかな? あと脈も測ろう。
「アイリーン様、じっとしていてくださいね」
「え、ちょ、マードリア⁉︎」
「じっとしててください」
顔を近づけるとアイリーン様は目をギュッと瞑る。
おでこを当てた感じでも熱はないっぽい。ただ脈は早い。
さっきの恥ずかしさがまだ残っていたのだろうか?
「アイリーン様、どこか気分が悪いところはありますか?」
顔を真っ赤にしたアイリーン様が思いっきり吠えた。
「も〜何なのよマードリア‼︎‼︎」
「い、いえ、顔が赤かったので熱でもあるのかと……。ですが、ないようで安心しました」
頬を膨らませて少し涙目でこちらを見てくる。
「あ、えと、申し訳ありませんアイリーン様」
私がアイリーン様の方に体ごと向けると、アイリーン様は私の(平らな)胸に顔を埋めてきた。
「え、えと、アイリーン様?」
「私に勝手なことをした罰よ。着くまでこの状態でいなさい。それに、今は顔を見られたくないのよ」
最後は小声ではあったものの、距離が近いためはっきりと聞こえた。
「分かりました」
んー、でも何もしないっていうのもあれだなぁ。
こういう場合って大抵頭を撫でるのだけど、ここは許可を取らないとまずいかも。
「アイリーン様、頭を撫でてもよろしいでしょうか?」
「好きにしなさい」
許可も取れたので、着くまでの間、私はアイリーン様の頭を撫で続けた。
アイリーン様がいつの間にか寝ていたのはまた別の話ということで。
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