約束しちゃいました
カヌレ様と呼ばれた少年は私達の前で頭を下げた。
「ビケット王子様、誕生日パーティーに出席できず申し訳ありません。マードリア様、お初にお目にかかります。ドルチエ王国公爵家、カヌレ・ブライトでございます」
「あ、えっと、ドルチエ王国侯爵家、マードリア・フレーバです」
「この方はあたしの兄様ですよ」
チコのお兄様、なるほど、美少年なのにも納得がいく。
「それでは、我々は失礼します」
「え、兄様、でも……」
「明日、家に招待するのだろう。なら早く帰って父様達に伝えないと」
「それもそうですね。ではマードリア、王女様、また明日お待ちしております。いついらっしゃってもよろしいですからね」
「チコ、また明日ね」
「明日、マードリアと一緒に行くわ」
え、一緒に……?
チコは私達に手を振って部屋を出て行った。
「リア、僕たちも帰ろうか」
「え、あ、そうですね」
「マードリア、もう帰るの?」
「そうですね、明日のこともありますし」
「兄上、下ろして」
アイリーン様が下りたので、私も下ろしてもらう。
「あなたは寝坊するかもしれないから、明日は私が迎えに行くわ」
「一緒にってそういうことですか。お兄様、アイリーン様に送ってもらってよろしいでしょうか?」
「それを判断するのは王家だよ」
お兄様はビケット王子様に目配せをする。
「俺は構わないよ。それと、せっかくだし俺もマードリアって呼んでいい?」
「はい、それは構いませんよ」
「ありがとう。まあ、侯爵家が問題なければいいんじゃないか? 父上には俺から言っとくし、ワルフ閣下には今手紙を書くよ」
「そうだな。王家からの正式な許可も出ればお父様達も顔を真っ青にしなくて済むし」
アイリーン様に向き直ったら、安堵の表情を浮かべている。
「マードリア、そういうことだからちゃんと待ってなさいよ」
口は相変わらずだが、表情は少し素直になっている気がする。
「はい、今度はしっかり起きて、正装でお待ちしております」
「……? その手は何?」
あ、つい前世の癖で小指を向けてしまった。
「約束を交わすときにするんです。そうですね、約束を守りますという誓いみたいなものですね。この小指にアイリーン様の小指を交わらせるのです」
アイリーン様は手を握って小指だけを立たせる。
私とアイリーン様の小指が交わる。
「私は正装でアイリーン様を待っています。約束です」
「や、約束!」
「絶対守りますからね」
私は指を離す。ほんの少しだけ小指に温かさが残る。
「それではアイリーン様、コーリー王子様、ビケット王子様、これで失礼いたします」
「違う、マードはコリー」
「はい、コリー王子様。また会う日を楽しみにしています」
私はドアの前で一度頭を下げてから、部屋を後にする。
「僕、あんな誓い知らないよ」
「私のオリジナルです。──あの、お兄様」
「どうしたの? 手繋ぐ? いや、繋ごう!」
「そっちではなくて、久しぶりにおぶっていただけませんか? 少し、懐かしくなりまして」
お兄様の顔がただでさえ笑顔なのがより明るくなった。
「いいよ! ……もう絶対にリアは誰にもあげない」
「どうしてそうなるんですか。……失礼しますお兄様」
小さい背中なのに頼りになる。
頼りになる人が周りに多いとついつい私も子どもっぽくなってしまう。
せめて、周りが許してくれている間くらいは子どもでいたい。そう思ってしまう。
次話 1月30日