怒らせちゃいました?
「あれ? マードリア、コーリー様を背負ってますけど、どうかしたのですか?」
「まあ、色々ありまして……」
「見たことある。どこかで会った?」
皇子相手にそんな態度を取れるコーリー王子様、ある意味尊敬するよ。
「僕はスーウィツ帝国の皇子、フーリンです。直近ですと、コーリー様のお兄様の誕生日パーティーでお会いしましたよ」
「そうだった気がする。犬連れてた気がする。人形みたいで覚えてなかった」
お願いコーリー王子様、フーリン皇子様は優しいから大丈夫だと思うけど、私の心臓に負荷をかけないで!
「人形……意外と的確な表現かもしれませんね」
よし、なんとか大丈夫そう! コーリー王子様がまたなんか言わないように私が繋げないと!
「フーリン様は大変そうですものね」
何この返事! 何の脈絡もないじゃん! でもなんか、フーリン様の顔を見る感じ、人形には触れちゃいけない気がしたし……。
「大変じゃないと言えば嘘になりますね」
よし、セーフセーフ。
「それよりもコーリー様、おぶってほしいのなら僕の背中がありますよ。流石に女の子に背負わせるのは……」
うん、フーリン様の言いたい事はめちゃくちゃ分かる。でもコーリー王子様には残念ながら届かないと思う。
半分私が誘ったようなものだし。
「やだ、僕はマードがいい。それに、マードが良いって言ったからいいの」
「いや、ですが他の方の目もありますし。特に──」
私には聞こえた。お兄様の名前が。
「フーリン様、大丈夫です。それよりも控室まで案内してもらってもよろしいでしょうか? 実は迷ってしまったのです」
「仕方ありませんね、それでは一緒に行きましょう」
「はい」
フーリン様は半分諦めたような顔つきをしていた。
「控室の前に着きましたよ。僕はこの後も用事があるのでここまでですね。それとコーリー様、もう一度言いますが、入る前にマードリアから下りた方がいいですからね。それでは、失礼します」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
フーリン様が角を曲がったところで、私はドアノブに手をかける。
「コーリー様、念の為聞きますが、下りる気はありますか?」
「まだいいかな」
「ですよね〜」
ドアを開けて早々、アイリーン様が迫ってきた。
「マードリア! あなたこんなに遅くまでどこに行っていたのよ! それにコーリー、あなたなんでマードリアに背負われているのよ!」
「マードが良いって言ったから」
「本当なの、マードリア?」
なんだろう、口調は優しいのに目は厳しい。
「えっと、はい……」
「そう、それでどうしてこんなに遅くなったの?」
おや? 背負っていることに関しては何も言われない。てっきり、弟を背負うなんて! 的なことを言われるかと思ってた。意外とアイリーン様ってそういうところ厳しいし。
「道に迷ってしまいまして」
「本当にあなたは! パーティーの時もそうだったわよね。これからは私もマードリアに着いていくわ!」
正直、それはとても助かる提案だ。
「アイリーン様がよろしければ、ぜひお願いします」
「マードリア、あたしも必要であれば着いていくからね」
「ありがとうチコ、その時はお願いするね──?」
あれ? なんか軽くなった。
後ろを振り向くと、お兄様がコーリー王子様を抱えているではないか!
「あ、お兄様、この度もご心配をおかけしまして、大変申し訳ありません」
「…………」
あれ? 反応がない。
「え、お兄様⁉︎」
お兄様はコーリー王子様を下ろすと、私を抱き抱えた。
「マードリア、もう僕のいないところで男と一緒にならないでくれ!」
こりゃまたすごいお願いを声デカデカと……。半分涙目になってるし。
「あっはは! 本当にカーターはマードリア様の事が好きだな」
「ビケット様はアイリーン様が男と一緒にいても心配しないのか?」
「多少はね。まあでも」
ビケット王子様はアイリーン様とコーリー王子様を抱き抱えた。コーリー王子様は、なんだかとても嬉しそうにしている。
「俺は二人のことを信用してるから」
あ、そういえばビケット王子様って普段は一人称俺だった気がする。
「一人称変わってるぞ」
「ああ、うっかり。まあいいよ、どうせばれることだし。それに、一人称が俺の人は他にもいるしね。ですよね、カヌレ様」
壁の端っこでじっとこちらを見ていた白髪に薄い茶色の目を持つ美少年がこちらにやってきた。
忘れていたので。
チコ→チョコ
カヌレ→カヌレ
ブライト→ブラック、ホワイト(チョコレート)
次話 本日中