確かに天然みたいですね
容姿忘れていたので付け足しました。
私は早歩きで部屋を出た。
私が抜けて少し心配もあるが、まあ、大丈夫でしょう。
「てあれ、トイレ、どこ?」
そういえば、トイレの場所なんて確認していなかった。
戻ろうにも、同じようなドアばかりでどこからきたのかも覚えていない。
こうなったら自覚するしかない。私は、前世に引き続き方向音痴だ……。
「うう、一人で来るんじゃなかった」
先ほどまでの自分の行動を後悔しつつ、私は出来るだけ波が押し寄せないようにちょっとずつ歩く。
その途中で、誰かがじっとこっち見ているのに気づいた。
金髪に少し垂れ目気味の緑色の目を持つ男の子だ。
「えっと、コーリー王子様ですよね?」
「変わった歩き方だね、楽しい?」
さすが不思議のコーリー王子様。
「いえ、その、トイレに行きたいのですが、場所が分からなくて」
「トイレ、そっか、トイレに行くんだね」
コーリー王子様は私に背を向けてしゃがんだ。
「え?」
「僕の方が早く着くよ」
「えっと、失礼します」
コーリー王子様は私をおぶって立ち上がろうとした時、頭から床に落ちてしまった。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「世界が逆さまになった。すごいね」
コーリー王子様は再び立ち上がる。今度は何事もなく無事歩き出せた。
「あの、ありがとうございます、コーリー王子様」
「兄上が姉上によくやってた。兄上が女性には優しくしないとって言ってた」
「そうなんですか。それで、さっきから片っ端にドアを開けているのは何故ですか?」
「トイレ行きたいんでしょ?」
「はい、そうですけど」
「だから、トイレ探しているの」
トイレの場所知らなかったんかい‼︎
いや、でもあのままよりは全然いっか。
そしてついに、私のオアシスをやっと見つけることができた。
が、何故かコーリー王子様はそれをスルーして、次のドアへと向かった。
「ま、待ってくださいコーリー王子様! 先程の場所であっています!」
「僕の知ってるトイレと違うよ」
「男と女ではトイレの構造が異なるのです。ですから、あそこで合っているのです!」
「そっか」
コーリー王子様はトイレの目の前まで連れて来ると、私を下ろした。
「これでいい?」
「はい、ありがとうございます、コーリー王子様。できれば音を聞かないように、部屋に戻ってください!」
私は勢いよくドアを閉め、下着を脱いで幸せを噛み締める。
「はぁ〜スッキリスッキリって、コーリー王子様!」
なんと、トイレから少し離れた場所で、コーリー王子様は耳を手で塞いで待っていた。
「別に先に戻っていらしても良かったのですよ」
「もう耳いい?」
まだ手で耳を押さえながら聞いてくる。
「大丈夫ですよ」
私は耳から手を離すジェスチャーでそう伝える。
「戻りましょうか」
コーリー王子様は頷くと、さっきみたいにしゃがんだ。
「もう大丈夫ですよ、コーリー王子様。もしあれでしたら今度は私がおぶりましょうか?」
後半はほんの冗談のつもりだったが、コーリー王子様は本気にしたみたいだ。
何故か少し嬉しそうに縦に頷いた。
「え、本当にいいんですか?」
「いいよ」
えー、マジですか。でもまあ、コーリー王子様のキャラ的に冗談とかは空回りしてた気もする……。
私は先程のコーリー王子様のようにしゃがんだ。
手で私の肩を持つ。私はコーリー王子様の脚を抱えて立ち上がる。
最初少しふらついたものの、すぐに立て直す。
そういえば、三歳まではお兄様にこうしておぶってもらってたな〜。久しぶりに頼もうかな?
「コーリー王子様、どこか違和感はありませんか?」
「ないと思うよ」
「では良かったです」
「ねえ、名前は?」
「そういえば名乗っていませんでしたね。ドルチエ王国侯爵家のマードリア・フレーバです」
「名前長いね。えっと、ド、ドル?」
「そこは名前ではありませんよ。私の名前はマードリアです」
「マードリア? 僕覚えられないかもしれない」
「でしたら名前を短くして呼ぶっていうのも手ですよ。私のお兄様はリアって呼びます。それ以外の呼び方でしたらなんでもいいですよ」
「じゃあ……」
何故そこまで言ってから考える! 本当に、ゲーム通りだったかは覚えて無いけど、変わった王子様。
「マードって呼ぶ。僕の場合はどうなるの? あ、僕の名前コーリーっていうの」
「存じ上げていますよ」
「なんで知ってるの?」
「演奏前に名乗ったじゃないですか。その時覚えたんです。それに、先程から名前でお呼びしてましたよ」
「そうだった気がする。マード、覚えてくれたんだ」
「さすがに王子様の名前は知っておかないといけませんし」
コーリー王子様は手を首に回して、抱きつく形で私に密着した。
「どうしましたか?」
「マードに甘えたい」
ド直球‼︎ でもまあ、あの素直じゃない王女様に比べれば全然いっか。
「満足させられるかは分かりませんよ」
「傍にいてくれるだけでいい。マード、少し変わってる。みんな僕と距離をとるから」
「人には相性というものがありますからね。コーリー王子様は、相性が合う人が少ないだけですよ。いつか、心の底から一緒にいたいと思う人が現れますよ」
ゲームの主人公が。
「コーリーじゃない。別の名前」
ああ、あだ名で呼んでほしいのか。
「でしたら、コリーなんてどうでしょうか?」
「うん、いいよ。マードは僕から離れない?」
「離れません」
「なら、もう大丈夫」
コーリー王子は嬉しそうに頭を擦りつけてくる。
なんだか犬みたい。
「しかし、全然部屋が見つかりませんね。もうすぐフーリン様の演奏が始まってしまいます」
「マード見て、あそこだけ昼と夜が同時にきてるよ」
コーリー王子様の指す方に目を向けると、そこは舞台下だった。
なんとも変わった表現の仕方。
舞台上から自己紹介が聞こえてくる。
「あ! フーリン様の演奏の番だ!」
これは流石に聴いとかないと、他の貴族たちに睨まれる。
「コリー王子様、フーリン皇子様の演奏が終わりましたら一緒に戻りましょう。その方が確実に戻れますし」
「マードがそうしたいならいいよ」
私達二人は係員に見つからないように、フーリン皇子様の奏でるピアノを聴く。
フーリン様の演奏は、この短い時間だけでも、相当練習したことが容易にうかがえる。下手したら、指が意思通り動くようになってから練習しているかもしれない。
それくらい、他の奏者とは一線を画していた。
大きな拍手が鳴り響く中フーリン様は私達の目の前へとやってきた。
次話 1月29日