皇子様のこと、少し知れちゃいました!
司会に名前を呼ばれたビケット王子様が軽い挨拶を終えると、演奏が始まった。
最初は優しい演奏から入り、サビで激しくなる。そして、最後は哀愁を漂わせて終わった。
次にアイリーン様。アイリーン様は全体的に落ち着いた曲で、寝る時のBGMとかに最適な心地良さの演奏だった。
次は例の王子様。コーリーと名乗った王子様は、まさかのハーモニカの演奏を始めた。独特な曲調で次の音が分からない。それは、コーリー王子様自身を表現している気もする。
「コーリー王子様は前のパーティーでは挨拶出来なかったので、後でしませんとね」
「コーリー様はお噂通り少し変わった方でしたよ」
「そうみたいですね。そういえば、公爵家の方々にもしないといけませんね」
「次がその公爵家の御令嬢みたいですね」
「今度は御令嬢からなのですね」
画面に顔を戻して驚いた。私の目に映ったその少女は間違いなくチコだった。
彼女の手にはトランペットが握られている。
チコが音楽を奏でだした瞬間、なぜトランペットなのかが分かった。
女騎士とメイドの百合小説に出てくるあるワンシーン。
女騎士が虐げられているメイドにこっそりと、彼女だけにトランペットを演奏するシーンがある。
チコが吹くトランペットは、その小説の内容を知っていれば間違いなくそこの感動シーンを思い出させてくれる。
「本当に、良い友達ができたな〜」
「ご友人なのですか?」
皇子様の隣ということを忘れて、うっかり言葉遣いを間違えてしまった。
「も、申し訳ありません皇子様!」
「何を謝っているのですか?」
「その、言葉遣いが少々……」
「そんなことですか、気にしなくていいですよ。なんだか、マードリアの素を見れたみたいで個人的には嬉しいです」
「そうですか、少し安心しました。それで、チコ公女と私が友人かってことですよね?」
「はい。公爵家はビケット王子様の誕生日パーティーに出席していないはずですが、どこで知り合ったのですか?」
私だけならともかく、正直に言ったらチコも町に行っていたことがバレてしまう。
「内緒です。ですが、友人なのは間違いないですよ」
「内緒でしたら仕方ないですね。しかし、マードリアはすごいですね」
「私がですか?」
「はい。公爵家の方々には、以前お会いした時に挨拶を済ませたのですが、チコ公女様はとても人見知りな方でして、すぐに一人になろうとしてましたから。ですから、チコ公女と友人ということに少し驚いています」
あ、まあ、うん。なんとなく人見知りっぽかった気がする。
「それに、アイリーン王女様のこともです。彼女の事は僕の耳にも入っていました。
ですから、あのパーティーの時、少し離れた場所で様子を伺っていたのです。他の方への態度を見ると、どうやら性格に難ありというよりも、そもそも教えられていないのだろうって思いました」
すごい、さすが皇子様。よく見ている。
「ですが、貴族に対する態度は、何も知らない人にとっては他者を虐げているように見えるでしょう。それでも、アイリーン王女様に取り入っているホイリー公女様とメイール公女様は、ずっとアイリーン王女様の側にいました。アイリーン王女様の顔は、二人に見せる時だけ少し柔らかくなっていましたので、彼女達を友人と思っていたのでしょう。ですから、二人が自分の側からいなくなった時探しに行ったのだと思います」
あの状況はそういうことか。ほんと、とことん気の毒なアイリーン様……。
「その後のことはマードリアが知っているのではないですか?」
「そうですね。私がアイリーン様と会ったのもそこでしたから」
「僕は、羨ましいです。僕には友人と呼べる存在がいないので」
「皇子様は私と友人ではないのですか? てっきりマードリア呼びでしたので、友人だと思われているのものかと」
皇子様は驚いた顔をしている。失礼なことを言ってしまったのではないかと心臓が早く動いている。
皇子様はそのことに気づいたのか、口元を手で隠して笑った。
「大丈夫ですよ。ただ、そんな言葉をいただけるとは思わなかったので。ありがとうございますマードリア、僕の初めての友人になってくれて」
ここで変な言葉は付け足さない。この純粋で嬉しそうな笑顔のまま会話を終わらせるには、この一言だけでいい。
「どういたしまして。これからもよろしくお願いします」
「はい、お願いします」
「そういえば、なぜ私は名前呼びだったのですか?」
「マードリアはかしこまった呼び方は好きではないと思ったからです」
この子、五歳児のくせに恐ろしい。これはもう、皇子様とか関係ないんじゃないの? って思ってしまう程だ。
気づくと、もう公爵家の演奏が終わっていたどころか、私の出番が近づいていた。
「リア、そろそろ行こうか」
「はい、お兄様。それではフーリン皇子様、失礼します」
「フーリンでいいですよ。マードリアの演奏、楽しみにしています」
「はい、楽しみにしててください」
私は部屋を出て行こうとすると、お兄様が私の手を掴んだままフーリン様に向き直った。
「皇子様、いくら皇子様であろうとリアは渡しませんからね」
「ご安心ください。僕とマードリアは友人。今のところらそれ以上もそれ以下の気持ちもありません。
ですがお気をつけてください。きっと、警戒するべき対象は時間が経つにつれて増えていくと思いますよ」
「ご忠告ありがとうございます。皇子様がその対象に入らない事を、今後とも願っております」
お兄様は少し強引に手を引きながら部屋を出ていく。
別に変な心配しなくとも、皇子は主人公に恋をするから大丈夫なのに……。
まあ、その恋は絶対応援しないけどね。
王女とくっつける為に!
次話 1月28日