心配させちゃいました……
本日は待ちに待ってない演奏会。
余所行きのドレスを着て、お兄様と一緒に馬車に乗る。
着いた場所は大きな劇場。オーケストラ会場なんかに近い。
控室に入ると、既に多くの貴族の御子息御令嬢がいた。
この演奏会は貴族のみの伝統行事。
魔力を宿していない貴族の子どもたちが、自ら選んだ楽器で大勢の大人達の前で演奏するという、地獄のような行事だ。
私と同じ歳くらいの子たちはみんなすごく緊張しているが、八、九歳あたりの子たちは慣れているのか平然としている。
ちなみに、お兄様は緊張という文字がそもそも存在していないのか? ってぐらい、いつもと変わらない。
「リアは緊張するかい?」
「はい。お兄様は平気そうですね」
「もちろん! だってリアがいてくれるから」
「お兄様はお兄様ですね」
お兄様は褒め言葉だと受け取ったのか、より笑顔が強まった。
別に褒め言葉でもなんでもないのだが。
周りの人達にお兄様と一緒に挨拶をし終わったところで、フーリン皇子様とビケット王子様、第二王子様とアイリーン様が入室した。
「あら、マードリアじゃない。もう来てたのね」
「はい。と言っても、今来たところですが」
「その手……」
「練習を頑張った証です」
「そう、でも気をつけなさいよ」
アイリーン様は私の指を優しくさすっている。
「これからは程々にします」
「それで、こんなに指をボロボロにしたマードリアは何の楽器を演奏するの?」
「ギターという楽器です」
「初めて聞く楽器ね。ケースの形状からして大きなヴァイオリンみたいね」
「音は全然違いますけどね。アイリーン様は何を演奏するのですか?」
「私はフルートよ。お兄様はヴァイオリンを演奏するわ」
「ビケット王子様はお兄様と同じ楽器なのですね」
二人の方を見ると、ビケット王子様が一方的にお兄様に火花を散らしていた。
お兄様はライバル視されていることに気付いているのか否か……。
「そういえば、アイリーン様には双子の弟様がいらっしゃいましたよね? 誕生日パーティーでは挨拶できなかったので、できれば本日したいのですが」
「ああ、あの子ね。さっきまでいたけどまたどっか行ったわね。あの子は何というか、未だによく分からないわ……」
第二王子に対する態度はゲーム通りのようだ。
談笑の時間はあっという間に過ぎ、演奏会の時間がやってきた。
私の出番はまだまだだが、ミーク家とドルチエ王国の公爵家は出番がすぐなので、別部屋へと移動していった。
公爵家は元からこの部屋にはいなかったが。
「おはようございます、マードリア」
「フーリン皇子様、お久しぶりです」
「誕生日会以来ですね。手、痛みますか?」
「いえ、それほど大袈裟な物ではありませんよ」
「それなら良かったです。話は変わりますけど、クッキーは君のことをたいそう気に入ったみたいなんです。いつも君が会いに来ないかと、門の外を見ているんですよ」
「そうなんですか、好かれるというのはとても嬉しいことですね」
「そうですね。僕もあんな風に家族以外に懐くクッキーを見たことがないです。君はとても良い人なんだと思います」
「普通だと思いますが?」
「さあ、どうでしょうね。 ──そろそろ始まるみたいですよ」
私達は魔力で写し出されているモニターに目を向けた。
次話 本日中、又は1月28日