仲間ができちゃいました!
新キャラ登場です。
町を堪能していると、懐かしく、私の大好きな落ち着く音が聞こえてきた。
「ジェリーこっち!」
「マ、マードリア様、お待ち下さい」
私は音のする方に走って向かう。
そして着いた先は楽器店だった。主に弦楽器を取り扱っているところみたい。
私はドアは開いていてそっと中を覗いてみた。
「いらっしゃい。可愛らしいお客様だね〜」
店主らしきおじさんの手には、私のお目当ての楽器が握られていた。
「それ、その楽器!」
「お、お嬢ちゃんギターを知っているのかい?」
「(この世界で)見るのは初めてです」
「そうか、それじゃあギターの良さを知ってもらうことにしよう」
おじさんはギターを弾き始める。温かみを感じるその音は私の心も温め、懐かしい感覚を呼び起こさせる。
「おじさん、私も弾いてみていいですか?」
「いいけど、案外難しいよ」
「頑張ります」
私は昔弾いていた感覚を頼りにギターの音を鳴らす。
前世と違って手も小さく、力もない為あまり綺麗な音は出せなかった。だけど、私の気持ちは高揚している。
「お嬢ちゃん上手だね」
「私、ギター好きです」
「それは嬉しいことを言ってくれるね〜。
実はね、ギターは貴族向けの楽器じゃないし、それでいて平民が買えるほど安い値段じゃないからあんまり売れ行きは良くないんだよ。て、小さい子にこんな話をしても分からないよね」
「分かりますよ。ねえおじさん、ギターっておじさんが作ったの?」
「この店にあるギターは私が知人に教えてもらって作ったものだよ」
「そうなんだ」
私はドアの側に立っているジェリーの方を見る。ジェリーは私の目を見ると頷く。
「ねえおじさん、ギター、一つ買います」
「本当かい?」
「うん、許可がおりたから」
「そうかいそうかい、それはとても嬉しいな。どれでも好きなギターを選びなさい」
私は比較的スタンダードな、前世のものとさほど変わりないギターを選んだ。
ジェリーがお金を払っている間、私はギターを弾いた。
「お嬢ちゃん、これはほんの気持ちだ」
おじさんは替えの弦をくれた。
「本当はギターを売るのをもうやめようと思っていたんだが、お嬢ちゃんが楽しそうにギターを弾いているのを見てもうちょっと頑張ってみることにしたんだ。
いやーお嬢ちゃんを見るだけで気持ちが変わるなんて単純だよな! でも、もしかしたらお嬢ちゃんだからかもしれないな。とにかくありがとな。またいつでもおいで、弦の張り替えならお金はいらないから」
「ありがとうおじさん。また来るね」
「ああ、待ってるよ」
「あ、そうだおじさん」
「どうしたの?」
「その内絶対、ギターが飛ぶように売れるよ。私が保証する。それじゃあね」
私はギターをケースに入れてお店を後にした。
おじさんはしばらくの間手を振って見送ってくれた。
「演奏会はそれで出るのですか?」
「そのつもりだけど、だめ?」
「いいえ、マードリア様の演奏が楽しみです」
「いい演奏するから期待しててね。……あ!」
「どうかなさいましたか?」
「うん。ちょっとこのギターもって。私行ってくる」
「あ、マードリア様! ……またですか」
私は肩を落として落胆している女の子に声をかける。
「ねえ」
ビクッと肩を震わせて恐る恐るこちらを振り向く少女は、私の顔を見て少し安心した顔をした。
「あ、さっきの」
「もしよかったら一緒に本を見ない? この辺でこういう本置いてるのってさっきの本屋だけっぽいし」
「いいの?」
「うん! どこかゆっくり見られるところがあればいいんだけど……」
「それならカフェとかどうかな? 落ち着ける良い雰囲気のカフェを知ってるの」
「カフェ! いいね、そこ行こう! 私マードリア、よろしくね」
「あたしはチコ。よろしくね、マードリアちゃん」
「チコ、いい名前だね。ちゃんなんてつけたら長いでしょ。気軽にマードリアでいいよ。私もチコって呼ぶから」
「それじゃあマードリア、行こう」
「うん! ジェリーも早く!」
「これは、確実にあとで叱られますね」
「だね」
私とジェリーは二人して苦笑いをした。
◇◆◇◆◇
「はあ、今回の話も尊かった……」
「うん、とてもいいお話だったね。マードリアはどの場面がお気に入り?」
「私は、普通の方はあんまり好きではないと思うけれど、平民の主人公が王女への恋心を自覚して、報われない恋だと涙して王女と距離を取るところが好き。このシーンって、主人公が王女の事をどれほど想っているのかが伝わってきてなんか、そう、凄いのよ!」
「分かる、分かるよ! あたしは逆に、王女が主人公に距離を取られたことによって、何かしたのかと悩んで試行錯誤しながら元の距離感に戻そうと奮闘する場面が好き!」
「チコ、あなたとはいい友人になれそうだよ」
「“そう”じゃなくてなってるよ。マードリア、また語り合おう!」
「うん! 次はいつ会える?」
「ここ二週間は忙しいの。今日が最後のお出かけ。だから、十六日後にまたここで会おう。おすすめの本もいくつか持ってくるね」
「それじゃあ私もおすすめ持ってくるね。また会って語り合おう」
「うん、それじゃああたしはこれで失礼するね」
「チコ、またね」
私とチコは帰り道が真逆なので、カフェで別れた。
帰りは家の近くまで馬車で、そこからはジェリーのおんぶで帰った。
起きていたら怒られるのは目に見えているので、寝たフリをすることにした。
おかげで怒られるのは免れた。夕飯は食べられなかったけど。
そしてジェリー、ごめん……。
いいな、百合友欲しい……。
次話 1月27日
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