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内緒で町に来ちゃいました!

 ここ最近、私は暇さえあれば図書室に通うようになった。

母が読書家なので、図書室はめちゃくちゃ広い。何たって二階全てと三階の半分が図書室なのだから。

噂によれば、貴族の中で一番本を保有しているとかなんとか。


そんな我が家で私はある本を見つけた。

それが、私が図書室に通う理由(わけ)でもある。

その本はいわゆる百合小説。


 以前、ついうっかりジェリーに女性同士の恋物語がないかと聞いたときに見つけてくれたのだ。

さすが、本の所有数貴族一の我が家だ!


「マードリア様は少し変わった方ですよね」

「個性があっていいと思わない?」

「……そうですね」


そこの間については何も言わないでおこう。


「ねえ、ジェリーってよく私のやりたい事に協力してくれるじゃない」

「そうですね。マードリア様のお役に立つのが私のメイドとしての使命であり、誇りですから」

「ふっふっふ、そんなジェリーにお願いがあるの」

「何でしょうか?」

「私ね、町に行きたい!」


ジェリーは目を見開いた。うん、予想通りの反応だ。


「それはなりません! 侯爵家の御令嬢が町にいるなんて知れたら大騒動です!」

「だから、ちょっといいところのお嬢さんになりすまして行くの。私の顔なんて貴族の方々しか知らないから大丈夫だよ」

「ですが……」

「お願い! この小説の続きが今日発売なの。だから、どうしても今日買いに行かなくちゃだめなの!」


それがオタクってもんだから!


「今日行かなくても少し待てば奥様が買ってくるはずですよ」

「お母様が買うのは早くても一月(ひとつき)先だろうし、お母様は自分が読み終わってない本は本棚に並べないじゃん。だから、それを待っていると読めるのは一年後になると思うの。ね、お願い〜」


ジェリーは困ったように笑顔を浮かべる。


「バレたら私もただでは済みません。ですから、こっそり行きますよ」

「うん! ありがとうジェリー!」

「その代わり、そろそろ本格的に演奏の練習をしてくださいね」

「う、私あんまり好きじゃない」

「そう言って、一回触ったっきりじゃないですか」

「だって〜。はあ、まあ、演奏会に参加しない訳にはいかないから明日からやるよ」

「そうしてください。それでは着替えましょうか」


 私は紫のワンピースに着替えて、ジェリーと一緒にこっそり裏口から外に出る。


「内緒のお出かけなので馬車は使えませんからね」

「歩きだとどのくらいなの?」

「大人ですと一時間半ですが、マードリア様に合わせますと二時間半でしょうか」

「それじゃあ、抱っこしてもらうほかないね」

「そう言うと思いましたよ」


私がジェリーの背中に乗ると、ジェリーは立って歩き出した。


「重くない?」

「大丈夫ですよ、羽みたいに軽いです」

「それは言い過ぎだよ」

「いいえ、そんなことありませんよ」

「それならいいけど。──ジェリーの背中は暖かいね」

「快適ですか?」

「うん、とっても」

「それなら良かったです」


 しばらく歩いていると、一台の荷馬車が私達の隣で止まった。


「嬢ちゃん達、どこ行くんだ?」

「町へ買い物に」

「女の子背負って町まで歩くんか。そりゃ大変だろう。どれ、乗り心地は悪いが荷馬車の後ろに乗るか? この荷物を届けるのに町に行くからついでだ」

「よろしいのですか?」

「ああ、かまわんかまわん。さあ、乗れ乗れ」

「ありがとうございます」


私達はおじさんの荷馬車に乗った。確かに乗り心地は悪いが、予定より早く着いたので十分満足だ。


「ここでいいか?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「どういたしまして。ちっこい嬢ちゃん、乗り心地はどうだったか?」

「悪かったよ」

「ははは! 素直でよろしい。また会ったら気軽に挨拶してくれよ。んじゃ、あばよ」

「あばよ〜」

「マードリア様! いえ、マードリア、そんな口をきいてはいけません!」

「はっはっは! 姉さんの方は厳しいみたいだな。それじゃあ今度こそさよならだな」


おじさんは上機嫌で荷馬車を走らせた。

私は大きく手を振っておじさんを見送った。


「マードリア様、くれぐれも口調にはお気をつけ下さい」

「はーい」

「それでは行きましょうか」

「うん!」


 町の中で一番大きい本屋に入る。

この世界の本は前世とは違い高価なので、本屋には富裕層しかいない。

私も富裕層になのだが、貴族とバレない為に一番地味な服装で来たので本屋の中では浮いている。


こそこそと何かを言われている気がするが、それは無視して目的の本を探す。


あった……‼︎


私は目一杯背と手を伸ばす。お目当ての本が手に触れた時、その本にはもう一つ小さな手が添えられていた。

思わず隣を見ると、私と同じぐらいの背丈で、透けて向かいが見えそうなぐらい艶やかな白い髪に焦げ茶色の目を持つ美少女がこちらを見ていた。


「え、あ、その、どうぞ!」


女の子は本から手を離してそう言った。


「いえいえ、大丈夫です。こちらこそどうぞ!」


私は本を棚から出して女の子に差し出した。

女の子は一度受け取るとすぐに私に押し返した。


「あ、あたしは別の本屋で買うので大丈夫です! それでは失礼します!」


女の子は早歩きで本屋を後にした。


「別のって……。この時代の百合本なんて需要があまりないからこの近くじゃここしか置いてないのに……」


 私は独り言をこぼした後、ジェリーと一緒に本の会計をした。


「本も無事買えたことですし帰りましょうか」

「ちょっと待って! 町なんてくる機会全然ないから少し見て回りたい!」


ジェリーはまるで私がそう言うのを分かっていたかのような顔をした。


「それでは、少しだけ回って帰りましょうか」

「ありがとう」


町は活気に溢れていて、人と人とが交流している。富裕層から平民まで様々な人たちが交じり合う。

そんな様子を見ていると、新鮮であり、それでいてどこか懐かしくも感じる。

本屋でお互いの手が触れ合う……。いいな、しかも美少女。


次話 本日中


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