銀行強盗@ケツダイナマイト
昨夜、中学時代の友人である猛から妙に重苦しい雰囲気で電話があった。
学生時代はバカをやってあそんだり、隣村まで自転車で駆け、少し過激な本を買って女性の神秘に触れたものだ。
「懐かしいな猛! 元気か!? 昔は神社でエロ本読んだりケツに花火入れて火傷してり色々やったなぁ……!」
しかし、残業でそれどころではなかった俺は、猛には申し訳ないと思いつつも「後でかけ直すよ」と電話を切った。そして、帰宅した後、俺はうっかり電話を握り締めたまま寝てしまった…………。
「このバッグにありったけの札を詰めろ!!」
目出し帽に拳銃を所持した男が、昼下がりの銀行に突如として現れた。
たまたま結婚式で渡す、ご祝儀用のピン札を交換しに来ていただけなのに、そのたまたまがこの様だ。実についていない。
「全員手を上げろ!! 妙な真似したら火を付けるからな!?」
男はケツにダイナマイトを入れていた。左手のライターがチラチラとケツの近くを彷徨き、ケツから半分近く飛び出したダイナマイトが、危険な芳香を漂わせている。
銀行員、客、警備員、そして俺もが手を上げた。今にも火を付けそうな程に激昂した銀行強盗に、抗う術など無かったからだ。
「おい! そこの新人!! 早くバッグに金を入れろ!!」
胸の名札に書かれた初心者マークが仇となった、若い受付の女性が、脅えながら席を立った。責任者と思しき髪の薄い中年に狼狽の眼差しを送ると、毛髪の少ない中年は、無言で頷いて金庫を指差した。
「カギィ!!!!」
銀行強盗が頭皮が露出した中年に拳銃を突き付ける。しかし毛根に根性の無い中年は、惚けるように首を捻った。
「火ぃ付けんぞコラァァ!!!!」
銀行強盗がライターを後ろに回すと、毛根が棺桶に片足突っ込んでる中年は、酷く怯えて金庫のカギを銀行強盗に向かって投げ付けた。
女性が金庫からバッグに金を入れると、銀行強盗は満足げにバッグの重みを確かめつつ、バッグを近くに置いてあった台車に載せ、拳銃をチラつかせながら店内を見渡した。
「一人、人質になってもらう!! そうだな! 女が良いな……それも俺好みの女だ!!」
此方にも幾度か拳銃が向けられる。その度に生きた心地が全くしないと言って良いほどの虚無感、いや、解脱感が心の臓を襲ったが、人質が女と決まった瞬間、何とも言えない背徳感が俺の心の臓の周りを汚らしく覆うように染めていった。
「女全員コッチ来い!!!!」
銀行強盗の怒号にその場に居た女性達が酷く竦み上がった。そして銀行強盗の近くに集められた女性達は、今にも泣きそうな表情で手を上げ、自分達の身にこれから起きるであろう出来事を悲観した。
「20歳から35歳までは残れ!!」
銀行強盗がそう告げると、オバサン達やギリお姉さん達が、次々と隅の方へと下がっていった。
「次! Dカップ以上は残れ!! ウソついても無駄だからな!! 俺はグラビアアイドルのバストを見抜く事に冠してはズバ抜けて得意だからな!!」
真顔でとんでもない事を口走る銀行強盗。そう言えば中学時代、猛がグラビアのバスト当てが得意だったなと、ふと思った。
「最後だ! 良い感じのぽっちゃりは残れ!!」
淡い色のワンピースを着た若い女性だけがその場に残された。いや、正確に言えば最後の問いだけは正解が無い。つまり彼女は逃げ遅れたのだ。
「ついてこい!!」
銀行強盗が女性を連れて行こうと拳銃を突き付けるも、酷く抵抗する女性。しかしケツのダイナマイトにライターを近付けると、あっと言う間に抵抗を止め、大人しくなってしまった。
女の横顔が、猛が好きだったグラビアアイドルによく似ているなと、ふと思い出し、俺は確信した。
「待て! ……お前猛か!?」
その問いに、銀行強盗は暫し沈黙し、そして小さく頷いた。
「昨日の電話──もしかして!!」
猛は良い感じにぽっちゃりした女の脇腹の肉を摘まみながら、俺に拳銃を突き付けた。
「そうだよ……俺が友達の連帯保証人になっちまったばかりに、3000万の借金野郎になっちまった!! 最後の望みでお前に電話したのに…………お前はあの後電話をくれなかった!! 俺を裏切ったんだ!!!!」
俺はその言葉にとんでもない罪悪感を感じた!
まるで俺が猛の人生を狂わせたかのように!
猛は俺のせいで銀行強盗になってしまったかのように!
俺のせいだ……!
俺が電話をかけ直さなかったからだ…………!!
「すまん……! すまん…………!!」
俺は涙を流し、猛に何度も詫びた。
「この金で、俺は人生をやり直す! じゃあな!!」
そう言うと、猛は女を連れ、銀行を出て行った。
「──こっちに来るなぁ!!!!」
直ぐに外で猛の大声が聞こえ、俺は慌てて外へと出た。
外では警察が大挙しており、猛は女を人質に橋の上で警察に向かって叫んでいた。
「無駄な抵抗は止めて人質を解放しなさい!」
警察が拡声器で猛に投降を求めている。しかし猛は女の二の腕を揉みながら、ライターを頻りにケツの近くへと向けている。
機動隊が猛に迫る勢いでその距離を詰めていく。国家権力はケツダイナマイトを恐れないらしい……。
人質の女が、一瞬の隙を突いて猛から逃げ出した!
「あ! 待て!! まだ太股を触ってないぞ!!!!」
猛が咆えるが、女は既に警察に保護され、機動隊が突入し出した!
「──こうなったら!!!!」
猛の手に持つライターがケツに向かって勢い良く降ろされた。
俺は慌てて近くを探り、近くに居た女子高生がたまたま手にしていた空気圧の水鉄砲を奪うようにして借りた。
「間に合えーっ!!!!」
猛が橋の上から飛び降りた。
水鉄砲から放たれた水は、猛のケツに当たり、猛のケツは水浸しになった。
そして猛が川に落ちる。ダイナマイトは音を立てず、猛は落ちた後、直ぐに浮かび上がってきた。
機動隊が投げ縄を放り、猛は直ぐに御用となった。
「……猛」
俺は警察に連れて行かれる猛に向かって声を掛けた。
「…………ありがとう。助かったよ」
猛が静かに言葉を発した。
俺は猛に何と言えば良いのか。何と元気付けてやればいいのか……ただ、一つだけ確かなことがある。
「……また今度。一緒に神社でエロ本見ような…………」
猛は涙し、嗚咽混じりの声で俺に返事をした。
その後、女子高生の持っていた水鉄砲は、瞬く間にSNSで話題となり、爆発的売り上げを見せた。今日も映えを気にする女子高生達が、公園で水鉄砲に興じている。
そして、俺はあの事件をきっかけに、人質となった女と付き合うことになった。
「……猛。ぽっちゃりって……いいな」
膝枕で耳掻きをしてもらいながら、俺は心の中で呟いた。
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(*´д`*)