4. 自業自得
「断る!」!「お断りします!」
そしてラテツと言葉がハモった。
「いやいやいや! あなたは行きなよ! 首謀者なんだから」
「それを言うならお前も当事者だろう」
「ぐぅ……」
ラテツがシャンラを口角を上げて睨みつけてた。
勝手に巻き込んでおいてそれはおかしいと思う。
「いいから三人とも職員室に来なさい」
「え? 俺もですか!?」
クウルが何故か鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「なんであんたが驚いているのよ……。あの大きい穴空けたのあんたでしょ」
「くっ……そうだったか」
なにが「くっ」よ。ほんと野球以外何も出来ないんだから……。
その後、シャンラを含めた三人ともが職員室に連行された。
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「それで反省文と」
「うん」
シャンラは机に向かってひたすら文字を羅列していた。
「でも反省文で済んでよかったね」
「良くないよ~私巻き込まれただけなのに……」
まあ「弁償しろ」とかよりは断然マシだと思うけど。
「可愛そうにね。なんでラテツに狙われるようになったの?」
「知らないよ。……なんでだろ?」
「それは俺が教えてあげよう!」
シャンラが教室のドアの方を向くとクウルがいた。
「なんだクウルか」
「なんだとはなんだよ」
「クウルは知ってるの?」
フェアが聞くとクウルがこくこくと頷いた。
「ラテツってなこの学校で最強だって話があるんだが__」
「ん? 何の話? シャンラが何故巻き込まれてるのかを話しなさ__むぐっ!?」
クウルが「順に話していくからちょっと待て」
と言いながらフェアの口元を押さえつけた。
「むっ! ちょっと!」
それをフェアが叩き落とした。
「まあ、落ち着いて聞けって。で、何故ラテツは最強って呼ばれてるのかって話なんだが……それはあいつが見境なく学校中にバトシミアを挑んでるからなんだよ」
「見境なく?」
シャンラが聞くとクウルは何故か笑顔になった。
「うん、見境なくだ。同級生、先輩、先生と見境なく。そのおかげで俺の嫌いな先輩が丸くなって良かったんだけどなぁ」
うわぁー。クウルって思ったより腹黒だなぁ。
「まあ、それはそれとして。ここからが本題なんだが何故ラテツがそんな事をしているのかと言うと……」
「言うと……?」
「はっきり言って分からん」
クウルの発言にシャンラもフェアもあんぐりとした。
「どういうことよ!」
「落ち着けってフェア。だからそういうの人それぞれだろ? ただ単にマウント取りたい奴だとか有名になりたいだとか、それに大会に出たいだとかさ」
「大会? そんなものがあるの?」
シャンラの言葉に二人は呆れたように頭をかいた。
「あはは。まあ普通はみんな知ってると思うんだけどな」
「そうね。普通なら知ってるわね」
「その『普通』っていうのやめてくれない? 私が異常みたいじゃん」
フェアは唇に指を置いてしばらく考えた後シャンラの方を向いた。
「うーん。なんて説明すればいいのか分からないけど、バトシミアってシャンラが思ってる以上に全世界で人気があって……それに影響力もあるの」
「影響力?」
「うん。バトシミアの地区大会で優勝した選手には日本中からスポンサーがつくくらいだから」
「え、なにそれ」
「これ見て」
フェアはそう言うと腕に付けたプロジェクトフォンからひとつの記事を空中に映し出した。
そこにはこう書かれていた。
【バトシミア関東地区大会優勝者、年俸三億円か!? バトシミアの世界にもたらす影響力を追う】
それと一緒に大きなトロフィーを掲げる少年の映像が流れている。
「ここまでなの!?」
「やっぱりシャンラは分かってないのよ。バトシミアは人々にとって食欲、性欲、睡眠欲に並んでバトシミア欲と四大欲求になったって言ってる学者さんがいるくらいだから」
なんて世界だ……
「ところで話を戻すけど、なんで私がラテツに狙われるの? 私バトシミアなんてやった覚えないんだけど」
「あーそうそう。それな1-Aの見上って奴がラテツに捕まった時、たまたま目の前を通り掛かった人を指さして『あの人の方が僕より強いです!』って言って逃れようとしたんだと。まあその人がシャンラだった訳だけど」
クウルが何故か面白い話をするように手を叩いた。
「くくっ。その後見上はラテツにバトシミアで負かされたんだと__あはははっ」
シャンラが大きくため息をついた。
もうそれ不幸を他人にも分けただけだよね……
「シャンラ……運悪いね」
「ほんとにだよフェア! この不幸を分けてあげたいよ」
見上って人がやったみたいに。
「いらないよ」
フェアが真顔で横に手を振った。
「でもシャンラ、戦わない限り卒業するまでラテツに追いかけられ続けると思うぞ?」
「地獄すぎる……」
クウルの言葉にシャンラの顔が青ざめた。
「それにラテツのあのパンチを食らったら確実に死ぬよ」
シャンラがそう言うとフェアとクウルが常識を語るように鼻で笑った。
「フッ。いや、絶対に死なないから」
「フッ。大丈夫だよ、シャンラ」
__イラッ
今、鼻で……
「でもラテツ、床とか壁に凄い穴空けてたよ?」
厳密に言うと壁はクウルだけど。
「うん。バトシミアは人を傷つけないけど物とかは壊せるんだよ」
「え、そうなの!?」
本当に謎技術だなぁ……。
後になってシャンラが調べたが文献にも『キャメルというフランスのとある学者がテオスアパタイトの成分をいくつか取り出したら偶然そういうものが出来た』などという曖昧なものしか書いていなかった。
まあ、発明とか発見って偶然が重なって奇跡的に生まれた産物なのかもしれない。多分……
「バトシミアか~」
「シャンラはやったことないんだろ? なら自分のルートディザイアも知らないんじゃないか?」
クウルの言葉にシャンラがハッとなった。
「そっか、それで私の能力がダメダメだったらラテツも私とバトシミアをする必要が無くなるよね!」
__はむっ。
「そうだな、もしダメダメだったらだけどな__って何食べてるんだよ……」
「ガほーショほラ……ごくん。反省文書き終わったら食べようと思って買っておいたの」
「反省文?」
シャンラの机の上に広げられている原稿用紙四枚を目にしたクウルは頭を手で押さえながら苦笑いを浮かべた。
「あっ、ヤベッ……」
しかし、気づいた時には遅かった。
__ウィンと教室のドアが開く音がした。
「錦……は、書き終わってるみたいだな。で、お前は何をしている……西川?」
「はい、終わりました」
シャンラが文字がびっしり書かれた原稿用紙を渡した。
ちなみに先生が言った錦はシャンラの、西川はクウルの姓だ。
「い、い、いや、いや、あのっ……」
わぁ~慌ててる慌ててる♪ 国語の先生厳しいからね。
手をあたわたさせて必死に言い訳をしようとするクウルの肩にシャンラは手を乗せた。
「はっ、シャ、シャンラ……」
きっとクウルはシャンラが助けてくれると思っているだろうが、肩に手を置いた理由は助けるためじゃない。
「バイバイ、クウル」
シャンラは満面の笑みで言った。
自分でもここ数年で一番可愛い顔が出来たと思う。
そしてクウルの目と口が閉じなくなった。
「うそ、だろ、シャンラ……シャンラ~!」
ホラー映画のエンディングのように叫びながら先生に引きづられて行くクウルに手を振った後二人は帰路についた。
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「ちくしょう……ちくしょう……」
「とりあえず口じゃなくて手を動かしなさい」
最終下校時刻を優に超えた午後八時半、クウルはまだ反省文を書かされていた。
「なあ先生、みんなもう居ないよな。てかもうすぐ九時だよな?」
「そうだな。とりあえずお前は敬語を使うとこから始めよう、か」
先生がクウルに微笑みかけた。
その顔は陰っていた。
「あ、はい。先生様」
そしてしばらく黙って書いた後、またクウルの手が止まった。
「あの、これっていいんすか? 生徒を無理やり居残りさせてるんすよ? これっていけない事じゃないんすか!?」
「お前の両親から『今夜は帰さなくて結構です』との言葉を頂いている」
「……そっすか」
またクウルが書き始めて、また止まる。
「あの__」
「おい、ワシは帰りたいのだが!? お前は特別に原稿用紙一枚にしてやったのに何時間掛かっているんだ!」
原稿用紙はまだ半分ほど空欄だった。
「何時になったら終わるんだ……」
先生は大きくため息をついた。
「仕方ないでしょうよ! こんなに書いたら死んでしまいますわ! 先生人殺しになりますよ!? このマーダーが!」
「お前を器物損壊罪で突き出してもいいんだぞ?」
その後、クウルは一言も発さぬまま午前三時頃に書き終わりました。