ミスコン開始
「あれ……」
ミスターコンの参加者が出揃った。モニターで見る限り、確かに皆イケメンだ。子犬系、草食系、筋肉系、爽やか系……まあなんというか、色々だ。
「リルがいませんね」
「あら、本当ですわね〜」
「おかしいですね。確かに受付に行っていたはずなんですが…」
今年は新しく自由アピールタイムがあるという。剣技を披露する者や、ギターを持ち込んで弾き語りをする者、重いダンベルを持ち上げて筋肉自慢をする者など、様々だ。リネはつまらなそーにそれを見ていた。できることなら、見たくはない。
「全部同じ顔に見えますわ〜」
「ええ? 全然違いますけど……」
(それよりリルはどこへ行ったんでしょうか……)
優勝は審査員が決める。審査員はミスターコンとミスコンごとに異なり、各10人が10点満点で点数をつける。その総合得点が高いものが優勝だ。
得点発表は、ミスコンのアピールタイム終了時に、ミスターコン、ミスコンと、順に行われる。
あっという間にミスターコンは終了した。仕方がないのでラスコは無難な爽やかイケメン剣士に1票を投じた。
「さあさあ! それではっっ男性諸君は目を見開いてよ〜〜く見てください!! これが今年のミスコンの参加者だあああ!!!!」
「うおおおおお!!!!!」
男たちの激しい歓声が聞こえ、1人ずつミスコン参加者の女の子たちがやってくる。
「まずは1人目!! エーデル大国老舗旅館の若女将、ディルリーちゃんだああ!!!」
「うおお!! ディルちゃあんん!!!」
「着物だああ!!!!」
黒髪の清楚系美人のディルリーと呼ばれた女性が、ステージにやってきた。着物と呼ばれる和装束をまとって、ステージ上に現れる。
「うひょおお!! 何という美人! このミスコン! 私のためにありますわ!!」
「リ、リネさん落ち着いて!!」
興奮するリネを、周囲の客たちは少し不審な目で見ていた。
「2人目は、我らがエーデルナイツ最強の東軍リーダー、ラッツちゃん!!」
「うおおお!!! ラッツさんだあああ!!!」
「最強の騎士だあ!!!」
「まじか! ラッツさん?!?!」
「うおお! 可愛すぎるぅう!!!」
ラスコとリネも驚いたようにステージを見た。
「ラ、ラッツさん?!」
「あ、ラッツさんですわね」
ステージ上のラッツはロリガール満載の服に着替えていた。控室には何着か着替えも用意されていて、好きな服を着て挑戦できる。もちろん自前でも構わない。
参加者の中では最年少。その幼さを武器に、可愛さアピールのためか無駄にぶりっ子している。目をパチパチと瞬きして、審査員にアピールした。審査員たちは目をハートにしてラッツを見ていた。
(ふっふっふー! 優勝はラッツ様がいただきなんだわ!)
「やっぱりラッツさんは可愛いですものね〜!」とリネも同じく目をハートにしている。
「確かに可愛いですけど…」
(目が金になっている……気がします……!)
「ラッツ〜!!」
別の席ではシルバが手を振って、彼女を応援していた。
そのあと3人目、4人目、5人目と続いた。ちなみにこの順番はエントリー順ではなくランダムで、各個人の控室から出ていく仕組みだ。過去に参加者が、開始前に揉めて喧嘩し、参加できなくなる事態に陥ったことがあるそうだ。そういったことがないように、参加者はコンテスト開始まで他の参加者が誰かを知らない。
ラッツは常に愛想を振りまきながら、次々やってくる参加者たちを凝視した。
(ふっ! どう見ても私が一番きゃわいいんだわ! 優勝はいただきだわね!!)
リネも観客席で身体中からハートのオーラを放出しながら、参加者たちを舐め回すように見ている。異常に興奮しているようだ。
「全員可愛すぎますわぁ〜ん!!」
「リネさん! 落ち着いて!」
(やっぱり彼女はユニコーン…美女に目がありません!!)
「続いて6人目は、エーデルナイツ期待のルーキー、気高き女弓使い、アデラちゃん!!!」
「えええええええっっ!!!!」
「アっアデラ様っっっ!!!!」
ラスコは発狂して立ち上がってステージを見た。リネもあんぐりと口を開けた。後ろから睨まれたので、ラスコはハっとして席についた。
(しかも超女の子の服着てる!!)
アデラは髪色に合わせたブルーのおしゃれなワンピースドレスを纏っている。白く輝くボレロを羽織っており、完全に女だ。
「誰っ?!?! めちゃ美人だ!!!!」
「胸はねえけどな〜」
「エーデルナイツだって…」
「うおおお!!! 超絶俺好みなんだけどぉお!!!」
会場は見知らぬ美人の参戦に大盛り上がりだ。
アデラは何となくドヤっという表情で歩いてくると、誰よりも偉そうに5人目の横に立った。
(ア、アデラぁあああ?!?!?!)
ラッツは顔を引きつらせた。
「ちょっとあんた! 何考えてんだわ! 何でこんなとこにいるんだわよ!!」
ラッツは顔を覗かせながらアデラを怒鳴りつけたが、アデラは口元に人差し指を当てた。
(黙れクソチビ)
(はぁああああ?!?!?!)
「ラ、ラッツちゃんの顔が怖い……」
「すげえ6番の子を睨んでるぞ」
ラッツはハっとして顔つきをぶりっ子に戻し、何事もなかったかのように振るまった。
「続いて7番目! 2冠を狙うは、去年の優勝者、街の踊り子ティーサちゃん!!!」
「うおおお!! 待ってましたぁああ!!!」
「ティーサちゃん!! 俺の女神ぃいい!!!」
次に会場にやってきたのは、紅色の髪の女だった。踊り子の真っ赤な衣装を身に纏っている。ビキニのようにへそが出ていて、その他に肩、腕を、足と、露出もかなり多い。透けているレースを羽織っているが、それが更にエロさを引き立てている。完璧に化粧を施しているが、アデラは彼女が誰か気づいた。
ティーサが横に来ると、アデラは呟いた。
「りんご飴」
そしてアデラにも気づいたティーサは、彼にふっと笑いかけると小声で呟いた。
「毎度あり」
「ふうむ」
その子はアデラとリネにりんご飴を売ってくれた女だったのだ。
去年の優勝者ティーサの登場に、会場は更に大きく湧いた。
(むむむ! 何なんだわあの美人! 去年の優勝者ぁ?! 今年も大金をふんだくるつもりか? そうはいかないんだわ!! 70万円はこのあたしがもらうんだわ!!)
ラッツはきっと彼女を心で睨みつけた。
そして、8番目、9番目と続いた。美女揃いだ。リネは大興奮で男共に負けないくらいの大声で会場を盛り上げていた。
「そして最後の10人目! これまた謎の美女登場だあ!! 田舎の村娘、リルアちゃん!!!」
「?!?!」
会場の脇から現れたのは、栗色の髪の美女だった。緑から青に変わるグラデーションの美しいドレスをまとっている。緩く結ばれたその髪は、流れるようにさらさらとしていて、そばを通る参加者たちに、うっとりするような華の匂いを与えていった。
(うわあ……いい匂い……)
(バラの匂いでしょうか……)
「う、嘘……」
ラスコは口をあんぐりと開けた。
(ユッグ………)
「可愛い!!! 可愛すぎるぅう!!!」
「今年はやばい! レベルが高すぎる!!!」
「うおお!! リルアちゃあんん!!! こっち向いて〜っ!!!」
「どこの村だ?! あんな美人いたか?!」
観客席も大盛り上がりだ。
「リルアちゃんですって〜! 美しすぎるぅ〜……」
リネはうっとりしながら彼女を見ていた。
(リルアって……まさか……リルなの……?!)
ラスコは顔をしかめていた。
「さあ! 参加者が出揃いましたね! それでは自由アピールタイムの前に、インタビューをしてみましょうか! 審査員さん! 何か質問ありますー?」
司会者がそう言うと、審査員の1人がさっと手をあげて言った。
「男性のどんな仕草が好きですか?!」
「いいですねえ!! では順番に聞いてみましょうか!! ディルリーちゃん、どうですか?」
司会者は順に彼女たちにインタビューを始めた。アピールタイムだけでなく、これらの解答やその振る舞いなんかも全て審査対象だ。
「そうですねぇ。ウチは旅館で、力仕事もありますけれど、男性従業員が重い荷物を持ってくれた時には、きゅんときはりますねえ」
「おおお!!!」
旅館女将のディルリーは、おしとやかだが気品のある喋り口調だ。腕っぷしに自信のある男たちは、それを聞いて大盛り上がりだ。
「俺もディルちゃんの旅館で働こっかな!!!」
「ああずりぃ! 俺も〜!」
そんな声も飛び交って、ディルリーは微笑みながら言った。
「従業員も募集してはりますよ。もちろんお客さんとして泊まりにも来てください。老舗旅館『華の兎』、どうぞよろしゅう」
「うおおお!!」
(何かこいつうまいこと宣伝してるんだわよ!!)
ラッツは隣のディルリーを見て顔をしかめていた。
「さあ、次はラッツちゃん! ラッツちゃんは、男性のどんな仕草が好きですか?」
ラッツは司会者のマイクを受け取ると、ぶりっ子な声を作り出して、ぶりぶりと答えた。
「う〜ん! そぉですね〜? あたしやっぱりまだ子供なんでぇ、大人っぽくて気が利く男性の人ってかっこいいな〜って思いまぁす!」
「ラッツちゃーん!!」
「可愛い〜!!!」
(何であんなぶりっ子するんですか…)
ラスコは白けた目で彼女を見ていた。しかし審査員は皆男性だ。彼らにウケれば何でもアリだ。そして案の定、ウケている。
「なるほどぉ! ちゃっかりランチの会計済ませちゃったりィ?」
「ですぅ〜!! それからぁ〜……」
司会者とのノリもぴったりだ。ノリのいい女の子設定のようだ。案の定ウケている。
(ラッツは大人っぽくて気が利く人がいいんだぁ〜……知らなかったなぁ……)
観客席でシルバは、ラッツがインタビューを受けるのをぼーっと聞いていた。
こうして客観的に見ると、やっぱり可愛いなぁ〜…。変な喋り方してるけど…ラッツは頭がいいから、審査員たちの気を引くためにやってるんだろうな。本当に器用だなぁ〜。
大人っぽくて気が利く人……僕とは真逆だなぁ……
(いつかそんな人と、ラッツは結婚するのかなあ……)
しばらく司会者と語り合っていたラッツだったが、最後に言った。
「やっぱりいざって時に女の子を守ってくれると、惚れちゃいますぅ!」
そう言ったラッツの顔は、これまで振りまいていた愛想笑顔とは少し違っていた。
「………」
すごく、女の子らしかった。
「なるほどぉ! でもラッツちゃん、東軍リーダーなんでしょ? 強すぎて守ってもらう時ないんじゃないのぉ〜?」
司会者の男が冗談混じりでそう言うと、「あたしより強い騎士さん、募集してま〜す!」と言って、会場の笑いを取った。




