開場
あたしがシルバと2人でエーデル祭に行くのは、初めてじゃない。何ならシルバがあの人と結婚するまで、毎年行っていた。
結婚したあと2年はこいつとは行っていない。だからこれは、3年ぶりにこいつと行く祭りなんだわよ。
「ねえラッツ! 輪投げやろうよ〜」
空いている輪投げ屋を見つけると、シルバは店を指差した。
「はあ? あんたその歳で何言ってんだわ?」
そんな彼を心底バカにするラッツだったが、今日はキメキメの勝負ワンピースだった。前日この大人コーデを完成させるためにカーディガンをわざわざ買いに行ったり、朝のヘアメイクをするために随分早起きをしたものだ。
(これはデートじゃないんだわ! 隣人のへたれ兄さんと遊んでやるだけなんだわ!)
「いいじゃない! 昔はよく勝負したじゃない? 今日もやろうよ!」
「あんた、私に勝ったことないんだわよ」
「ふふ! だから今日はリベンジだよ!」
「ったくもう…」
仕方なくラッツは財布を出そうとすると、シルバがそれを止めた。
「今日は、僕の、おごり」
「っ!!」
ラッツはドキっとして顔を赤くした。
(やっぱりこれ、デートなんじゃ……)
「お兄さん、2人分!」
「あいよ」
シルバとラッツは5本ずつロープ製の輪っかを受け取った。地面に貼られたビニールテープのところから輪っかを投げて、縦横斜め1列に並んだら景品がもらえる。5本全てが入ったら2つもらえる。
と言われてラッツが景品を見ると、それは子供向けの玩具だった。光る鈴や、音楽の鳴るマイクにBB弾鉄砲……etc!
(いや、いらないんだわ!!)
10年前のあたしでもいらないんだわ!
「うわ〜緊張するね〜!」
シルバはにこにこと笑っている。
(いや、景品なんていらないんだわ! そうだわよ。このアホとデートできるなんて、こんなチャンス滅多にないんだわ! マキの大アホめ! 私に夫を盗られる心配はないと、たかをくくったんだわね!! ふん! こうなりゃ楽しませてもらうとするんだわよ!)
「おお! ラッツ…やる気充分だね!」
ラッツはドヤっという顔を浮かべて彼を見た。
「絶対負けないんだわよ!」
「僕だって!」
2人は同時に輪っかを投げた。
「やったんだわ!」
「あちゃ〜…」
ラッツは見事に真ん中に輪っかを入れることに成功した。隣を見ると、輪っかが枠に届いてすらいないアホの姿。
「すごいねラッツ!」
「いやあんた! 届いてないんだわよ?!」
そして2投目…3投目…ラッツはその器用さで、見事に輪っかを棒に入れていく。そしてついに、パーフェクトを達成した。シルバは不器用を極めて、棒に入るどころか、全部場外にぶっ飛ばしていた。
「あんた、真面目にやってるんだわ?!」
「やってるやってる! よーし。最後の1本! それ〜!」
(げっ)
シルバの5本目の輪っかは、ぽよ〜んと飛んでいくと、ラッツの輪投げの的に入った。
「うわあ! 入ったよ!」
「他人の的はノーカンだよ」
「あちゃ〜…」
シルバはヘラヘラしながら頭をかいていた。
(あちゃ〜じゃないんだわよ!)
というか、何これ!
男女逆だったらいいわよ? 不器用な女の前でパーフェクト決める男かっこいいじゃん? でもこれは? これ意味ある? あたし可愛いとこないし? アホはくそダサいし? 何なんだわこれ! 誰得っっ!!!
「やっぱりラッツには勝てなかったか〜」
「っっ!!」
彼の満面の笑み、それを間近で見れるあたし。
(やっぱあたし得かっ!!!)
「景品2個どうぞ」
「ああ……じゃあこれにするんだわ……」
ラッツは光る鈴を2つとって、鞄にしまった。
そのあともあたしはこのアホと、何だかんだ祭りを堪能していた。
「ラッツはミスコン出ないの?」
「はあ?」
シルバは唐揚げ棒を手に持ちながら、そんなことを言った。
「15歳から出れるんだよ! 出てみたら? いい線行くと思うけどなぁ〜!」
「まあね! このラッツ様が出れば、優勝間違いなしなんだわ!」
「今年はね、自由アピールタイムってのがあるらしいよ! 面白そうだよね!」
「ふう〜ん」
歩いていると広場にたどり着いた。ミスコンの景品を見つけると、ラッツは目を輝かせた。
「お嬢さん美人だね! どう? まだ間に合うよ! ミスコン出てみない?」
「こ、これがもらえるんだわ?!」
「そう! 優勝者には、本物のルビーのペンダント! ロクターニェの職人が…」
「これ、売ったらいくらになるんだわ?!」
「えっ……」
ラッツの目は、金になっていた。
「宝石は本物だからね。まあこの大きさだし70万くらいで売れると思うよ」
「な、ななじゅうまん!!!!」
「ラ、ラッツ……?」
ラッツはキラリと目を光らせると言った。
「出るんだわ!!」
「おお!!」
そうしてラッツは受付を済ませた。
「……これっすね」
そんな祭りの最中、トニックは研究所で魔族強化剤αとステラの死体解剖結果の検証を行っていた。
魔族強化剤αに含まれる謎の血液、仮に血液xと名前をつけた。魔族強化剤αを魔族に混入しても、魔族強化剤と同じ効果が現れただけだった。魔族はバーサクになるが、死ぬということはない。
人体での実験は死者が出る恐れがあって出来ないため、採取した人間の血液に魔族強化剤αを混入させ、その反応を調べた。
「……」
「どうです?」
「うーん……」
しかし、何の反応も出ない。
「駄目っすね……」
何でだ…。人体を強化できるのはわかる。作りはおいらのドーピング薬と一緒なんすよ。
「この血が混ざることで、人体の身体に有害な影響を与えて死ぬんだろうと予測しておりましたが…、そういうわけじゃないみたいです」
「うーん……」
何で、人間は死んじまうんだ…。
この血液は…何なんすか…。
トニックは目を細めて、その混濁した赤色の血を睨みつけた。
「やっぱり生きた人間に飲ませることで、効果が現れるんすかね…」
「そうかもしれませんね」
ステラの死体、解剖結果は、心臓破壊だった。何かに握りつぶされたような、物理的な何か。だけどラスコたちは、何もしていないのに血を吹き出してそのまま死んだと言っていた。
(くそ……)
おいらの作ったドーピング薬で人が死ぬなんて……正直気分悪いんすよ…間接的に殺したみたいで……
「ちっ」
トニックが苛立つのを見て、他の研究者たちは若干退いていた。
(ステラって人の死を無駄にしないって、リルイットさんたちには言ったけど、これは無駄になりそうっすね…)
「なあ、そろそろミスターコン始まりますよ」
「よっし! 参加だけでもしねえとな! ちょっと休憩にして見に行くか!」
「そうですね!」
研究者たちは立ち上がると、彼にも声をかけた。
「トニックさんも行きませんか?」
「いや、いいっす……」
「そうですか。じゃあ僕たちは少し出てきますね」
「勝手にどうぞ」
研究者たちは部屋を出ていった。
「何だよあいつ」
「ほんと無愛想ですよね…」
「そもそも魔族強化剤α、あいつが作ったドーピング薬が元らしいぜ」
「ええ? そうなんですか?」
廊下に出ると研究者たちは、トニックの悪口をさんざん言うのであった。
「ったく……エーデルナイツが襲撃の日を控えてるのに、呑気な奴らっすよ…」
トニックはそのあと1人で黙々と作業を続けた。
「あれ? アデラさんは?」
「飲み物買っていくから先に席とってろって」
「そうですか」
ラスコとリネは、ミスターコンとミスコンの開始前になったので、広場のステージの観客席に入っていった。
「はいどうぞ」
ラスコたちは入場ゲートを通ると、1枚のカードを渡された。
「何でしょう?」
しかしそのカードを見る暇もなく、後ろからどんどん人が押し寄せる。
「す、すごい人ですわね!」
「本当ですね!」
観客席は大混雑だ。警備員によってどんどん席につめて座らされていく。
「はい! こっちこっち!」
「あ、あの、あとからもう1人…」
「あわわっ!!」
後ろからどんどん人がやってきて、ラスコとリネは会場の中へと押し込まれていった。
「これ合流できなくないですか?!」
「というか、もう出られないですわ!!」
祭り参加者の全員が会場に集まっていると言っても過言ではない。観客は数千人はいるのではないだろうか?
何とか2人幅をとって、アデラが来たときに座れるくらいのスペースはありそうだが、この人だかりで見つけられるだろうか。
「それにしてもこのステージ、すごいですね!」
きらびやかないくつもの照明がステージを照らしていた。ステージは数百人は乗れるくらいの広さがある。
遠くの席の者もよく見えるように、2つのスクリーンが両端に設置されている。毎年このステージでミスター及びミスコンが行われるのだ。作ったのはもちろんエーデル大国に住むドワーフたちだ。
広場で宣伝と参加者募集をしていた赤と青の服の男がマイクをくるくる回しながらやってきた。彼が司会進行のようだ。
「さぁて〜! 皆様お集まりありがとうございまぁあす!!! 今年も始まるよっ!! エーデル大国一の美男美女は誰だぁ?!?! 各優勝者を当てた人には抽選で10名に、な、な、な、なんとぉ、国から10万ギルが贈呈されまっす!!」
「おおお!!!」
「参加者が出揃ったあと、最初にお配りした電子投票カードのボタンを押すだけ! わからない人は裏面をよく読んでね〜!」
観客席は激しく湧いていた。
「これですか!」
ラスコは最初にもらったカードの両面をちらちらと見た。
表にはカードナンバーがかかれ、1から15までのボタンが2列ついている。その中でミスターコンは1から8、ミスコンは1から10までのボタンが押せるように光っていた。予測するに、今年の参加者とその番号を表している模様だ。
裏面には注意書きだ。ミスターコン、ミスコンとそれぞれ予測する優勝者のボタンを押す。ボタンは投票終了の合図があるまで、何度でも押し直すことが出来る。終了時に押していたボタンが確定とされ、カードナンバーごとに本部に投票を把握される。コンテスト終了後、正解したカードナンバーから抽選で番号を呼ばれ、お金をプレゼントしてもらえるという仕組みだ。
「なるほどですわ!」
リネは裏面を読むと、そう言った。
「リネさん、文字が読めるんですね」
「当たり前ですわ! 何年人間にお仕えしたことがあると思っていますの?」
「いや、知りませんけど…。でも、私達もお金がもらえるチャンスがあるんですね!」
「10万ギルって相当ですわよ?」
初めて祭りに参加したラスコとリネは知らなかったが、このプレゼントは毎年行われている。だからこその、この観客数だ。
「随分大盤振る舞いなんですわね」
「出店の収益の何%かは国に収めなくてはいけないみたいです。この規模ですし、元がとれるほどお祭りは儲かるのではないでしょうか」
「ふう〜ん。まあ何でもいいですけど、早く始まってほしいですわ!」
(ミスターはどうでもいいですが、ミスコンはまさに神イベント!! 一体どれほどたくさんの美女たちが見られるんでしょうねっ! ぐふっ! ぐふふっ!!)
「ミスターコンは絶対リルが優勝しますよ!」
「ああ、そう言えば参加するって言っていましたわね」
「そうです。リネさんも応援してあげてくださいね!」
「どうでもいいですわよ、ミスターコンなんて」
「そんなこと言わないでくださいよ〜」
リネはちらちらと後ろを振り返る。
「アデラ様……まだ来ませんね」
「これだけ人がいますからね。見つけられないんでしょうか…。他のところに座ってるんでしょうか」
「アデラ様と一緒に見たかったですわ〜」
男にベタぼれのユニコーンを、ラスコは感心しながら見ていた。
「〜それでは、まずはミスターコンの参加者を紹介します! どうぞ〜!!」
司会者の説明も終わり、激しいテンポアップな音楽と共に、ミスターコンは最大級の盛り上がりで幕を開けた。




