りんご飴の食べ方
「ねえ! あれ東軍のリルイットじゃない?」
見知らぬ女たちが騒ぎ立てる声がふっと聞こえた。
「本当だー! やばっ! 超イケメンじゃん!!」
「今年のミスターは絶対リル君よ!」
「ね! 優勝間違いなしよ! 私絶対投票するもん!」
ラスコもまたそれが耳に入って、リルイットに声をかける。
「噂されてますよ」
「んあ?」
「リル君は今年のミスター間違いないって」
「ったく…何で国民に名前知られてんだよ」
女たちをちらっと見ると、キャーっと騒ぎ始めた。いつものように目がハートになって、こちらに手を振ってきたから、にこやかに笑って手を振り返した。
すると、見知らぬ女3人がひそひそ話をしているのが聞こえてくる。
「隣の子、誰?」
「え? 何? まさか彼女?!」
「いや、さすがにないでしょ! ブスすぎる!!」
ラスコはピクッと自分への罵声に反応した。
(ええそうですとも!! さすがにありませんよ〜?!?!?!)
「おじさ〜ん、タピオカミルクティー3つくださ〜い」
その女たちは、屋台の飲み物を頼むと、怖そうなおっさんからそれを受け取った。
「ラスコ」
「な、何ですか?」
「見てろ」
リルイットが顎でその3人組をさすと、ラスコも彼女たちを見た。
「いっただっきま〜す!」
女たちは揃ってそのタピオカジュースを勢いよく飲み込んだ。
「熱ぅううううううう!!!!!!!!」
女たちが突然悲鳴とともに叫び始めた。
「熱い熱い熱い熱い!!!」
「ちょっ!! 何なのよこれぇええ!!!」
女たちが顔をしかめるのをみて、リルイットは大爆笑していた。
「あっはははは!!!」
「ちょ! リル?! 何したんですか?!」
「あはは!! タピオカにほんの少〜し熱を与えただけだよ」
「ええ?!」
「火傷はしねえぜ? 鍋でグツグツ煮だった豆腐くらいだよ! あはははは!!」
ラスコはぎょっとしながらも、あまりに慌てる女たちを見て笑ってしまった。
「ちょっとおじさん! 何よこれ!」
「火傷したらどうすんのよ!!」
「こんなのいらないわよ! お金返して!!」
女たちがタピオカ屋のおっさんに言いがかったが、その強面のおっさんは「あああぁんン?!!?!?!」とガンをつけかえした。
「ひっ!」
「やっぱり何でもないです!」
女たちはおっさんの威嚇に敵わず、慌ててその場を立ち去ろうとした。すると
ズテーン!!!
と3人揃って何かに突っかかって盛大に転んだ。それを見ていた周りの人たちは皆揃って彼女たちを笑い者にしていた。
彼女たちを転ばせたのは、突然生えた1本の木の枝だった。しかし彼女たちがこけたあとスルスルとその姿を消したので、誰も気づかなかった。
「な、な、何なの〜?!?!」
「嫌だーもうっ!!」
「最悪ぅ〜!!!」
女たちは恥ずかしさのあまりに半泣きで、颯爽とそこから立ち去った。
「あっははは!!!」
リルイットは超爆笑していた。
「ラスコ! 最後のはやべえって!! あっはははは!!」
「私じゃないですよ。ポニーが勝手にやったんですよ…」
「あっはは! そうなの? ナイスポニー!」
地面の中から木の枝が生えてきて、グッドポーズをすると、再びすっと消えた。
「あはははは! ほんとおっかしいわ!」
「笑いすぎですよリル」
しかしあまりにもリルイットが笑うので、ラスコもつられてまた笑ってしまった。
「気にすんなよラスコ、あのアホな女の言ったことなんてよ」
「別にしてませんよ…(ちょっとはしましたけど…)」
「女をバカにする女は好かねえ!」
「そんなこと言って、そもそも誰のことも好きにならないんでしょう」
「いや……そうだけど……」
俺はそう言って、ラスコも笑っていた。
「それはラスコもだろ?」
「ええ、そうですよ! 特にイケメンは好かないですね!」
「はいはい! イケメンで悪うございました!」
「んま! 本当自分でよく言いますよね!」
「うっせ!」
「これでミスターコン優勝できなかったら、笑い者ですよ!」
「言うねえ! まあ黙って見てろっての!」
リルイットは俺もタピオカミルクティー飲みたくなったわ、なんて言って、さっきのおっさんの出店に行った。
「おっちゃん! タピオカミルクティー2つね!」
「あいよ」
ラスコもそのおっさんの顔をよく見ると、ハっとした。
「ゾディアスさん?!?!」
「あぁン? 何だ、ラスコじゃねえか」
「えっ? ゾディアス?!」
(南軍のリーダーじゃなかったっけ?!)
そういやラスコとアデラはゾディアスとロクターニェの依頼に行ったって言ってたっけ…。この人がゾディアスかよ! クソごついな!
「何でこんなところでタピオカ売ってるんですか…」
「俺は毎年ここで出店やるって決めてんだよ。クソ儲かるからな! タピオカは今年の流行だぜ? 俺は流行りも抑えてんのよ! おらよ! サービスでタピオカ倍にしてやったぞ」
ゾディアスは意気揚々とコップの半分までタピオカが入ったそれを2人に渡した。
(そんなにいらねえっっ!!! タピオカと氷で満ぱんじゃん!! 飲むとこあんのそれ!!)
「んで、隣の兄ちゃんは?」
「俺はリルイットです…」
「何だ、お前が噂のリルイットか」
「噂になってるんですか…」
「ああ、エラいイケメンの新人が入って、エーデルナイツの中でファンクラブが出来てるってな!」
(噂、そっち!!?!)
「どれ、俺がマネージャーしてやるからそっちの副業で大儲けしねえか?」
「いや、遠慮します……」
「そうか? 気が向いたらいつでも言えよ! ファンクラブから大金むしり取るなんてチョロいぜ?」
「……」
(ラッツといい、何で金にがめつい奴ばっかなんだ…)
「そういや、さっきアデラがリネと歩いてたぜ」
「え? あ、そうなんですね…(2人も祭りに来たんですね!)」
「何だよラスコ。女友達ほっぽって、イケメン彼氏とデートかよ」
「ち、違います! リルは彼氏じゃありません!(デートはあっちの2人ですしね!)」
「ゾディアスさん、ラスコは俺みたいな顔がすげえ嫌いなんですよ」
リルイットもそんなことを冗談混じりに言った。
「ああ、俺もあんまり好きじゃねえよ! お前みたいなスカシ野郎の顔はな!」
ゾディアスにそう言われ、リルイットはずっこけた。
(何か2回も振られた気分……)
「ま、お前もエルフ討伐の選抜に入ってんだろ。俺も入ってるからよ、クソすかしたエルフ共を一緒にぶっ殺そうぜ」
「……努力します」
(口も悪いし怖え〜…)
まあでも1番怖いのは……
リルイットはマキの顔を思い出して、身体を震わせた。
(ゾディアスさんはまだまし!!)
リルイットとラスコはタピオカミルクティー、いやほぼタピオカを食べるだけのそのコップを持って、ゾディアスの店をあとにした。
「アデラ様! 見てください! りんごですわ!」
「うん?」
祭りにやってきたアデラとリネは屋台に立ち寄った。そこには異常にきらびやかなりんごが、長い棒に突き刺さって並んでいる。
「りんご飴、300円だよ」
店番をしているのは紅色の髪の女だった。髪は腰まであり緩く波打っている。目付きが悪く愛想も良くはないが、美人である。真っ赤な口紅が印象的で、腕を組んで偉そうに屋台の奥の背の高い丸椅子に座っている。
(まあ! うっつくし〜女ですこと!!)
リネは美人を見ると条件反射で目をハートにする。
「これは飴ですの?」
「うん。甘いよ」
「ふぅ〜ん…」
リネは物珍しそうにそのりんご飴をじろじろと見回していた。
「買ってやろうか」
「えっ? いいんですの?」
「欲しそうだから…」
アデラは300ギルを店番の女に渡した。
「好きなの、持ってきな」
女はお金を受け取ると、ボソっとそう言った。
「え〜! じゃあこの大きいのに!」
リネは嬉しそうにりんご飴を1本とると、女に手を振りながら屋台を去った。
リネたちが去った数秒後に、年老いた優しそうな顔の男が、女の元にやってきた。
「おお〜ティーサ。すまなかったね、店番ありがとう」
「じいちゃん、今1本売れたよ」
「本当か。そりゃあすごい。うん。それじゃあティーサ、わしはここにいるから、好きなもの買っておいで」
老人はティーサと呼んだ女にお小遣いらしきものを渡そうとしたが、「じいちゃん、私はもうそんな歳じゃないよ」と言って、受け取ってもらえなかった。
「またトイレ行きたくなったら呼んで」
「ほっほ。ティーサは優しいのう。それじゃあ気をつけてまわっておいで」
「はーい」
ティーサは大通りの人混みの中に消えていった。
アデラとリネは、その店から少し離れたところで座るスペースを見つけると、りんご飴を食べていた。
「本当ですわ! めちゃくちゃ甘いですの! アデラ様も一口どうぞ」
リネはりんご飴をアデラに手渡した。
「固っ。全然りんごが食べられないけど?」
「うふふ! アデラ様、飴は舐めるんですのよ」
リネはべーっと長い舌を出して見せた。それを見たアデラもべーっと舌を出して、りんご飴を舐めた。
「甘い」
「あの女の人の言っていた通りですね!」
「ん」
アデラはリネにりんご飴を差し出した。リネは彼に持ってもらったまま、りんご飴をペロペロと舐めた。
(確かに、りんごまでたどり着けませんわね〜)
(動物にエサやってるみたい)
りんご飴を舐めさせる2人の姿はなかなかシュールだった。そしてはたからみれば2人共女の子に見えた。街行く人は2人を怪訝な目で見ながら通り過ぎる。しかし、実はこの中に女はいない。
「あー見つけた!」
「?」
アデラたちが「ん?」と顔を上げると、リルイットとラスコが料理をそれぞれ両手に持ってやってきたところだった。たこ焼きにクレープ、焼きそばにりんご飴だ。
リルイットは2人の横にどーんと座り込んだ。ラスコも軽く会釈して
「何だ、リルとラスコか」
「まーたイチャイチャしてんのか!」
「だから、イチャイチャとは?」
「2人で仲良くすることですよ」
「何だ。別にいいじゃないか」
「いいけど…見てるこっちが恥ずかしくなるんだよ!」
「何故だ」
「何故でもだ!」
「ふうむ…」
アデラは顎に手を当てて首をひねっている。その間も彼の持ったりんご飴を、リネは犬みたいにペロペロ舐めていた。
「ラスコもりんご飴買ったんですわね!」
「はい! お祭りといえばこれなんで!」
と言ったラスコのりんご飴は、もう3分の1ほどりんごが食べられていた。それも、真っ直ぐに。
「まあラスコ! どうやってりんごにたどり着いたんですの?!」
「ああ。切って食べたんですよ!」
ラスコは焼きそばを自分の横に置くと、空いた手のひらから葉の刃をしゅっと出した。りんご飴は見事に5ミリほどにスライスされて飛び上がると、手に持っているりんご飴の上に見事に乗った。
「さっきからそれ、けん玉かよ!」
「けん玉とは?」
「うるさいなあもう!」
「りんごと飴を一緒に食べたら美味しいですよ! リネさんのもやってあげましょうか!」
「お願いしますわ!」
ラスコは手のひらから葉の刃を連続で飛ばすと、シュシュシュシュシュっと、見事にスライスされ、それらは同じくりんご飴の上に乗った。
「おおお!!」
見た目はシュールだが、食べやすく、そして物凄く美味しかった。
その後も4人は楽しく料理を買っては平らげ、ミスターコンの時間が近づいてきたので、皆で広場に向かうのであった。




