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べモル崩壊

「うん?」


ゴオオオオオと地鳴りが響いた。その後すぐに、べモル国の住民たちは、突然地面が揺れ始めるのを感じた。


「地震?」

「ちょっ……これ…やばっ……」

「ひゃああああ!!!!」


激しい地震が起きて、街の建物は大きく揺れ始めた。バリンバリン!!と、部屋の中の食器が落ちる音が響き渡る。


「きゃあああ!!」

「うわぁああ!!!」


止まることなく揺れ続けるその地面に、誰1人まともに立ってはいられない。大きな棚や家具もどんどん倒れて、窓ガラスは大きな音を立てて割れた。


「ぎゃああああ!!」

「あああああ!!!!」


怪我をする者も続出した。それでも地震は止まることなく、更に大きく揺れ始めた。


「きゃあああ!!!」


やがて地割れが起き、建物さえも崩壊していく。国の外に逃げようとする女たちをあざ笑うように、隕石が次々に落下して行く手を阻み、逃げ場を失わせた。国民の女たちはなす術なく、倒れてくる白い宮殿たちと隕石の山に下敷きにされた。




「何だ?!」

「地震ですわ!」


リルイットたちのいる洞窟もまた、激しく揺れ始めた。


「あの女ですわ!」


リネは再びユニコーンに姿を変え、精霊の力で地震を起こすステラに突進していった。


「許さない!! みんなみんな!! 許さない!!!!」


ステラは非常に起こった様子で、真っ赤な瞳を大きく見開き、術を行使した。リネの前に巨大な岩が落ち、彼女の接近を食い止める。


「ステラ!! やめろ!!」

「許さないっ!!!!」


リルイットが声を荒げたが、ステラには聞こえていないようだ。ステラがその手を上に掲げると、こちらに向かっていくつもの岩が降ってくる。


「落石が!!」

「リル! この女は岩を操れる精術師だ!」

「んの野郎!!」


リルイットはすかさず剣を構えると、岩に向かって振り上げた。


ゴオオオオオ


剣が触れた岩は激しく音を立てて燃え、その周りの岩をも吹き飛ばした。しかし岩の硬さに、その剣はボキっと折れてしまった。


(折れやがった…!)


新たな落石が止まることなく、リルイットを襲ってくる。


「だったら直接燃やしてやるよ!!」


炎を創造する…! それだけ!!


「燃えろぉおおお!!!」


ゴオオオオオ!!!!!!!


落石は見事に炎に覆われて、リルイットたちを襲う前に灰と化して消え去った。


「なっ……」


ステラは驚いた様子だったが、彼女の隣に立っている岩の精霊と一瞬目を合わせると、うんと頷き合った。ステラの真上の天井が突然ぽっかり空いて、スポットライトのように日差しが彼女を照らした。ぐううんと巨大な岩がステラの足元から現れて彼女を持ち上げると、瞬く間に洞窟の外へと脱出した。


「逃がすかっ!!」


リルイットはその岩に向かって炎を放った。岩は激しく燃えて崩れ去ったが、既に彼女は洞窟の外に身を置いていた。


「生き埋めにしてあげます!!」


岩に押し上げられ空高く飛び上がったステラは、その洞窟を見下ろしながら、ほくそ笑んだ。


ゴオオオオオオオオ!!!


とこの世の終わりを奏でるような、不気味な地鳴りが洞窟内に響き渡った。


「っ!!」


リルイット、そしてアデラとリネは、崩れ落ちるその天井を見上げた。リルイットは炎を打ち出すが、次々と落ちるその岩の山を押し返せない。


(重いっ?!?! 俺の炎で……燃やしきれない?!?!)


「死になさい!!! みんなみんな!!! 死んでしまえええ!!!!」


ステラの怒りは、留まることなく、破裂した。




『ブース!! もう学校来んなよ!!』

『だっせ!! 気持ち悪いんだよ! そばかす女!!』

『ひゃあっ!!』


幼いステラは、その帰り道、クラスの男の子たちに突き飛ばされた。尻もちをついたステラを見て、男の子たちは彼女を指さしながら、ゲラゲラと声を上げて笑った。


ステラは両手で顔を隠しながら、身体を震わせた。


(無理……ムリっ……近寄らないで……)


怖い………怖い…怖い………


『何だこいつ。きんも…』

『行こうぜ』


男の子たちはその場を立ち去った。


『ハァ……ハァ……』


その頃にはもう、重度の男性恐怖症が発症していた。


もう無理……


死にたい…………


そしてステラは、高い崖までやってきた。下に広がるのは広大な海。ここは自殺の名所と呼ばれている。


自分の顔が、嫌いだった。

たくさんのそばかすがついた、不細工な顔が嫌いだった。


そのせいで酷い目にあって、耐え難い恐怖が毎日私を襲う。

もうこの苦しみに、耐えられない。


この顔で生きていくなんて、きっとこれから辛いことしかないに違いない。惨めだ。もう無理だ。


死のう。


ステラはその崖から、ふっと飛び降りた。


ふわあっと身体が浮くような感じがした。いや、違う。落ちているだけだ。


すごく速く、落ちていくだけ。


ステラが真下を見ると、大きな岩が彼女の落下先に待ち構えていた。


ああ、海に落ちるんじゃないんだ。

あの岩に、衝突するんだ。


ステラはふっと目を閉じた。


真っ暗な闇が、視界を襲った。


『くぅ………』


ステラはゆっくりと目を開いた。ハっとして起き上がると、最後に見た巨大な岩の上で寝転んでいた。


『あれ…?』


無傷だった。何の痛みもない。


『何で……?』


コンコンとステラはその岩を手でたたいた。確かに硬い。なのに何で。


『大丈夫…?』

『?!』


ステラがびっくりして振り返ると、岩の精霊がこちらを向いて立っていた。


肩幅の広い、たくましく凛々しい男の姿だった。ステラにはそれが精霊だとはわかったのだけれど、その姿に反射的に呼吸困難になり、声が出ない。


(男っっ!!!)


『ああ、ごめん』


岩の精霊は謝ると、その姿をゴツゴツした岩のおばけのような姿に変えた。非常に醜い顔となって、もはや人間にすら見えない。そもそも人間ではないのだけれど。


『これなら大丈夫?』

『っ……ハァ………精霊………』

『俺は岩の精霊…』


ステラも彼が自分を守ったのだと察した。


精術師の親の元に生まれたステラだったが、精霊を見たのはこの時が初めてだった。そしてその後も、彼以外の精霊を呼び出せることはなかった。


『どうして助けたの…』

『どうしてだろう』

『……』


岩の精霊は無口で、ボソボソとした口調で話をした。一度死にかけたことで、ステラも我に返ったようで、自分が生きていることを確かめようと、その手をグーパーと動かした。


『お礼は言わないわよ…』

『別にいいけど…』


ステラはその後、もう1回自殺しようとはしなかった。




力を感じる。

それは強い力で、酷く……

憎しみに満ちた力だ。


その力は私の血液を巡る。

これは私の怒りであると共に、誰かの憎しみなんだろうか。


彼女の暮らした国は既に、崩壊していた。地中の岩たちが激しく揺れ動き、地割れを起こして、美しい宮殿やバラたち諸共、人間たちを飲み込んだ。生きている者は、恐らくいない。


(やった……)



ついにあの女たちを殺すことが出来た。チャムを殺したエーデルナイツももう死ぬ。私の勝ちだ。私は……勝ったんだ…。




ついに巨大な隕石が空に現れると、物凄い勢いと音を立てて洞窟に向かって落ちていく。


「くそ!! 駄目だっ!!」

「無理ですわ!! 潰されますわ!!!」

「っ!!」


そしてついに、隕石は洞窟に直撃する。リルイットが放った炎も吸い込まれるように消えてしまった。彼らはなす術なく、愕然とした表情を浮かべた。


「アデラ様!!」

「リネ!!」


リネはアデラのそばに寄ると人間の姿になり、2人は身体を寄せ合って目を閉じた。


「くぅううっ!!」


リルイットは死を悟って、顔の前に手をやって、目を瞑った。


「っっっ!!!!」


耳をつんざくような衝撃音が聞こえた。大きな爆発が起こった時の音だ。


「ぅう……」


痛みがない。感じる暇もないほど、即死したんじゃないかって、最初そう思った。だって、ほんとに俺の目の前まで、岩が来ていたんだから。


「……」


俺は、ゆっくりと目を開けた。


「え………」


目の前は真っ暗だった。しかし遠くに、光が見える。


(一体どうなって……)


そこはすごく、狭かった。暗くて見えないのだが、俺の身体に何かが当たっているから。俺は何かに、守られるように、囲われているから。

それは少し固くて、ざらついて、何だろうこの感触、俺もよく知っている何かのような、気がするんだけれど。


俺はゆっくりと身体を動かして、光の方へと進んだ。


「っ!!」


(外!!!)


そこからの景色を見て、俺は唖然とした。


(なんだこれ……)


俺は、巨大樹の中にいたんだ。






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