次の依頼
「アデラ様、城に戻って朝ご飯を一緒に食べませんか」
「いらない。リルともう食べた」
「ぐっ……」
(くっそあの野郎……アデラ様と親しくしやがって…2人きりで飯まで食うとは、許すまじ…!!)
リネは心の中で、酷い口調でリルイットを罵った。2人は宛もなく城下街を歩いていた。
「リネは、アクセサリーは好きか?」
「え? さっきのお店のやつですか」
「うん」
(人間が身体につけるのが好きなアクセサリーですか……女王様も確かにたくさんつけていましたが)
「別に好きでも嫌いでもありませんが」
「…あ、そう」
(リルのやつ、全然駄目じゃないか…。店が開いていなくて良かった。変なものを買うところだった)
「アデラ様、どうしてあの男と一緒にいるのですか? 私を置いていって…」
「リネはリルが嫌いなのか?」
「ええ! 大嫌いですわ!」
「何故だ」
「そんなの、男だからに決まって…」
リネはハっとして口をつぐんだ。
(あ、アデラ様も男でしたのに! 私としたことが!)
「……」
アデラはただ、黙っている。
「ま、まあでも、男もそこまで嫌いじゃありませんわ!(本当はクソ嫌いで視界にも入れたくありませんが! もちろんアデラ様は別ですけど!)」
「え?」
「ええ! アデラ様のお友達ですものね! そうですわ! せっかくなんで一緒に仕事に行くのはどうですか? ブスコ…じゃなかった、ラスコも一緒に!(ラスコにリルイットの相手をさせときゃいいですわ! 私はアデラ様のおそばに! うふ! うふふ!!)」
「……」
アデラはきょとんとした顔をしたあと、ふっと笑った。
(お、お美しい! 美しさに男も女も関係ありませんわ! アデラ様!!)
「なら、掲示板を見に行くか」
「はい!」
アデラとリネもエーデル城に向かって歩きだした。
「いたいた! いたんだわよ!」
「ラッツ?」
依頼を見ていたリルイットとラスコの元に、ラッツがやってきた。
「何?」
「何?じゃないんだわよ! リーダーに向かって! 失礼なやつだわね!」
「何を今更。んで、どうした?」
ラッツは指を4本あげて前に掲げると、2人に言った。
「4日後のエルフ討伐軍の選抜に選ばれたんだわよ」
「4日後?」
「選抜?」
首を傾げる呑気な2人に、ラッツは話をした。
どうやら、各軍から優秀な人員を選抜し、5日後にエルフ討伐に向かうことが昨日のリーダー会議で決まったようだ。つまりはあと、4日ということだ。リルイットとラスコ、それにここにいないアデラも、選抜メンバーに選ばれたようだ。
「ブルーバーグの魔族を倒したあんたたちが選ばれるのは当然なんだわ! 期待のルーキーなんだわよ。他の軍のやつらに東軍の力を見せつけるんだわ! あたしの分まで頼むんだわよ」
「え? ラッツさんは行かないんですか?」
「あたしは今回はパスなんだわ。詳しい作戦が決まり次第、改めて連絡するんだわよ。そうだ、これ。はい、リルイット」
「おっと」
ラッツはリルイットに無線を放り投げた。
「何だこれ」
「無線ですね」とラスコは、その黒い箱型の機械を覗き込んで言った。
「ブスコちゃん、リルに使い方教えといてほしいんだわ」
「わかりました」
「最新型なんだわ! 連絡がきたら振動があるからすぐにわかるんだわよ! まあでも防水じゃあないんだわ。風呂の時以外は肌見離さず持つんだわよ!」
「わーったよ」
「んじゃ、それまでは依頼をこなしておいてちょうだい! リルなら日帰りで帰ってこれるでしょ! よろしく頼んだんだわ!」
そう言って、ラッツは足早に去っていった。
「選抜だってさ」
「みたいですね…」
(敵は問題のエルフか…。俺の背中に矢をうったのもエルフらしいな…)
「エルフはかなり頭がいい魔族です。油断できませんね」
「だな…」
しかしその日までまだ4日ある。それまでサボるわけにはいかない。予備軍に落とされて今更寮生活ってのも嫌だしな。
「さて、何受けよう」
リルイットとラスコは、掲示板にはられた依頼を順に見ていった。東軍の依頼も数が増えていて、更に遠いエリアの情報が多いみたいだ。
依頼の紙には魔族の出現場所が明記され、大体馬車で何日かかるということが記載されているが、このくらいの距離なら俺が飛べば数時間だ。それにしても、エーデル大国の周辺はもうほとんど魔族がいないって感じだな。もちろん他の場所から移住してくる可能性はあるけど。まあとにかく、ラッツがリーダー目指している第2本部を建てるのも近い未来にはなりそうだ。
「他のやつらが行くのが大変になるから、遠くから攻めるってのはどうだ?」
「そうしましょうか。なら無難にこれでしょうか」
と、ラスコが手にとったのは、シピア帝国の遥か南東のべモルという国が発した依頼だった。国の奥の洞窟に魔族ブルートロールが出現したらしい。その討伐依頼だ。
「べモル……って知ってるか?」
「聞いたことがありません。あまりに遠いので、植物づてに情報を探るのも時間がかかりそうです」
「まあとりあえず行ってみるか」
「そうですね」
ラスコはその紙を持って受付を済ませた。シピアの南東に位置するということだが、国の入り口に検問所があるらしく、そこを通ってくるようにとのことだ。
しかしラスコは、その紙にかかれた入国の注意事項を、見逃していた…。
「待ってくださいまし〜!!」
「うん?」
掲示板の前に、リネが走ってやってきた。後ろからアデラもやってくる。
「私たちも同行致しますわ!」
リネは胸に手を当てて、リルイットに笑顔を見せていた。もちろん作り笑いである。
突然のリネの変貌にリルイットとラスコは顔を見合わせて首を傾げたが、断る理由もないので4人でべモルに向かうことにした。
外に出るとリルイットは、3人を乗せられる鳥の姿に変身した。
(睡眠とって炎が回復したか…。問題なく使えるみたいで良かった)
「リル、これは…」
ラスコたちは皆驚いたような顔をしている。彼に翼が生えた姿は見たことがあるが、鳥に変身するのは初めて見たのだ。
「ああ。術…なのかはわかんねえけど、姿を変えられるようになったんだ」
「すごいですね…」
「ふうむ」
リネは1人、リルイットを不審な顔つきで見ていた。
(この男…何なんですの? 人間と魔族、一体どっちだというんですの?)
…まあでも、皆の前で探りを入れて、私がユニコーンだとバレるのだけはごめんですわ! ここは特に触れないようにするんですのよ…。
リネはリルイットから放たれる魔族特有の匂いに反応していた。彼が術と呼ぶその能力を使うと、更にその匂いは強くなった。
3人はリルイットの背中に乗ると、空に飛び上がった。
「速いな」
「アデラ様、気をつけてくださいまし」
「これではポニーがもう必要ありませんね」
あっという間にエーデル城は小さくなった。目指すは遥か南東だ。10分もせぬ間に、リネのお腹がぐーと鳴った。
「そういえばまだ何も食べていませんでしたわ」
「そういえば私もです」
「あ〜そっか。ラスコとリネは朝飯まだだったのか。食べてくりゃ良かったな」
「俺も腹が減ってきた」
「お前はもう食っただろ!!」
「土がないので食べ物が出せません」
「リル、着陸だ」
「何やねん!!」
…出鼻をくじかれたが、女共が朝食に、ラスコの出した野菜と果物を食べて満足したところで、再び空の旅を再開した。リネはアデラの言った通り、ニンジンをむしゃむしゃ頬張っていた。アデラはもっと食べたがっていたが、キリがないので無視した。べモルの場所は受付時に確認したからな。3時間もあればつくだろう。その頃にはちょうど昼飯時だ。
「眠くなってきた」
ふわ〜とアデラは欠伸をして、俺の背中にゴロンと寝ころがった。俺とラスコがいるからか、リネの前でも落ち着けるらしい。やがてイビキをかいて寝始めた。
(珍しく早起きなんてするからだよ!)
リネはアデラの顔を覗き込んで、よだれでも出そうな勢いでデレついていた。
「やっぱり寝顔が素敵ですわ〜お美しい〜」
「リネはそんなにアデラの顔が好きなのか?」
「話しかけないでくださいまし!」
「え……」
(アデラ様が見てないところで仲良くする必要はありませんの! 私がアデラ様を愛でる大切な時間を、ブスコならまだしもこのクソ男との会話で邪魔されるなんて、言語道断ですわ!)
(なんだよ…すげぇ嫌われたままじゃねえかよ……。何でついてきたんだよ…)
「リネさんは本当にアデラさんが好きなんですね」
「大好きですわ! 私、アデラ様のお顔を眺めているだけで幸せなんですの!」
リネは両頬に手を当てながら、ラスコに向かって満面の笑みを浮かべた。
(顔を眺めるだけで幸せなんて…言われてみたいです…! 一生無理ですけれど!!)
(ほんとに顔が好きなんだな…)
リネは寝入った彼の頭を撫でながら、頬を赤らめていた。
(でも私、今はアデラ様の全てを愛しています。例え貴方が男でも、このお顔が変わって美しくなくなっても、お傍にいたいと、そう思うんですのよ)
そんなリネの顔を、ラスコはぼうっと見ていた。
(恋してる女の子って、可愛いなあ〜…)
数時間の飛行を経て、リルイットたちはべモルの検問所に到着した。寝ていたアデラも起こされて、着陸して検問所に向かう。
「それにしてと、国に入るのに検問なんて…何なんだ? 魔族の侵入でも規制してるのか?」
「えっ?!」
リネは顔を引きつらせたが、他の皆は特に気づいていない。
「まあ、行ってみましょう」
「だな〜」
「ふうむ」
国の周りは高い城壁で囲われている。無理やり超えられないことは全然ないけれど、国のルールには従おう。
検問所の入り口には女の兵士が2人、槍を構えて立っている。リネはただ1人非常に焦っていた。
(やぁ〜ばぁ〜いぃ〜〜ですわ!!)
「エーデル大国から魔族討伐の依頼で来ました」
ラスコが依頼の紙を見せると、検問所の兵士は道を開けた。
(ほっ…)
しかし、全員が通ろうとすると、兵士たちは槍を向けた。
「そいつは通れない」
「えっ?!」
皆は振り返ると、槍を向けられた1人を、びっくりしたように見ていた。
「えっ……俺?!」
通行禁止を言い渡されたのは、リルイットだった。
「この国は男子禁制だ。男のお前は入れない」
(な、な、何〜〜〜?!?!?!)
ラスコが見逃していた注意事項、そこには、『※入国は女性のみです』と、記載されていたのだった。




