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リネ参上

「何でユニコーンがこんなところに?!」

「構うな! 殺せ!」


エルフたちはユニコーンに向かって矢を構えた。ユニコーンは加速し、左に駆け出した。その見事な身のこなしに、エルフたちが狙った矢は当たることなく、地面にサクサクと突き刺さっていく。


「当たりませんわ! そんなもの!」

「何だと?!」


エルフたちは挑発され、何とかユニコーンを仕留めようとするのだが、矢は彼女の走り去った場所に突き刺さる。彼女の速さに全く間に合っていないのだ。


「っ!!」

「矢が!」


所持していた矢を使い切ってしまったエルフたちは、おろおろとし始めた。


「アデラ様!! 遅くなって申し訳ありません!」


そのスキにユニコーンは、角を使ってアデラの手足を縛り付ける革紐を切ると、その磔の木から彼を解放した。


(傷が酷いですわ!)


彼をそのままうまく自分の背に乗せると、その場から逃走した。


「逃がすな!」

「追え! 追え!!」


エルフたちは急いで矢を拾い、ユニコーンとアデラを追った。



リネは自然に身を隠しながら、全速力で駆け出した。登ってきたのと同じところから、ナイゴラの滝壺まで降りていき、あっという間にエルフたちを撒いて、バクトツリーからも離れた湖のほとりまでやってきた。


「ハァ…ハァ…ハァ……」


ここまで本気で走ったのは久しぶりですわ…。


リネは息を荒げながら、アデラを湖の横の草の上にそっと置いた。


リネはポンっと人間の姿になった。


(バクト・ツリーの効果は終わったみたいですわね…)


ここまで逃げる際の勢いで、矢は何本か落ちていた。そこからは血がだらだらと垂れ流されている。

特に腹部からの出血は酷く、服が真っ赤に染まっていた。


「す、すぐに助けますわ…!!」


リネは衣服を運ぶ際に使っていた袋を取り出すと、湖の水をすくった。自分の角をその水に漬ける。


ユニコーンの角が触れた水は、聖水となり、それを飲むとどんな怪我も病気もたちまち治す。怪我や病気が酷いと、聖水の量は多く必要となる。聖水を作れば作るほど、ユニコーンの角は短くなり、角がなくなると死んでしまうという。


「アデラ様! これを…!!」


袋の水を彼に飲ませようとするが、彼に意識はなく、うまくいかなかった。口内に入らず、口からだらだらとこぼれてしまう。


リネは思いついたように、その聖水を口に含むと、口伝いで彼に聖水を飲ませた。


リネの含んだ聖水が、彼の喉元へと流れ込んでいく。


「ケ、ケガの具合は…」


この量で足りないことは確かだ。ただどれだけ飲ませればいいかを目で見たくて、リネは彼のボタンシャツの服をビリっと引っ張って開いた。


「っっ!!!」


それを見たリネは、絶句した。


彼女の前に晒された傷だらけのアデラの上半身は、間違いなく男のものだったからだ。


「お、男………」


アデラ様が………男…………?


リネは動揺を隠せなかった。


「………」


ユニコーンにとって男と女は、天と地ほどに違う存在だった。


異常なまでに女を崇拝するユニコーンにとって、男はその真逆の生き物。本来視界に入ることだって嫌なのだ。身体が触れるなんて、もってのほかである。


「っっ」

「っ!」


意識はなかったが、アデラの顔が痛みでひきつった。


「あ…」


リネは心を痛めた。


(わ、私は……)




アデラと過ごした時間が鮮明に蘇る。あなたと出会ってまだほんの少しなのに、もうずっと長い間一緒にいたような心地なんですのよ。


『それじゃ、腹が満ちたからもう行く』


最初は、何て無愛想な人なんだろうと思いましたの。お礼も言えない、常識もない、お顔が私好みの美しさでなかったら、絶対に関わらないようなお方だと。


『リネはリンゴが、好きなんだろ…?』


でもずっと一緒にいたら、そうじゃないって私、気づいたんです。この人は、単純に接し方を知らなかっただけで、心から冷たい人なんかじゃないって。


『俺はあいつらみたいにはなりたくない…。仲間を大切にしない奴には…』


私、自分の方が人間らしいって思っていました。でも違いました。心の奥で私は、誰かを想う気持ちを持っていなかったんです。それは私が、魔族だからなんだと思っていました。


『その汚らしい身体でアデラ様に触れてみなさい! 絶対に許しませんわ』


知ってました? 誰かを守ろうと思ったことなんて私、生まれて初めてだったんです。


『アデラ様、大好きですわ…』



『私、女王様が大好きですわ!』


私がそう言うと、女王様はにっこりと笑いました。そしてそのあと、言いました。


『リネ、あなたは好きの意味がわかってきたようですね』

『はい! よくわかりました!』

『でもね、リネ、あなたはまだ、全ての好きの意味を知ったわけではありませんわよ』

『え…? 他にもあるのですか…?』


リネはきょとんとして、女王を見つめた。


『いつかあなたの前に、その人の全てを好きだと思える相手が現れるでしょう』

『全てを好きって?』

『その人に、リネの嫌いな部分があっても、それをひっくるめても好きだと思えるような、そんな気持ちです』

『ええ? 嫌いな部分があったら好きにはなりませんよ、女王様』

『ふふ。そうですよね。でもその人が外ではなく中で遊びたいと言ったら、リネは喜んで中で遊びたくなるような、そんな人でしょうかね』

『ええ〜…私は外で遊びたいですけれど…』

『うふふ』


リネはまたまた首を傾げた。


『ねえリネ、そんな風に誰かを好きなその気持ちは、『愛』と呼ぶんですよ』

『愛……?』

『リネもいつか、愛する人に会えるといいですね』

『……』


女王様は、にっこりと笑いました。




リネは袋の水を、もう一度口に含んだ。


そしてもう一度、彼の唇に触れて、聖水を彼に飲ませた。


「ハァ……」


何度も何度も、それを繰り返した。


だんだんと、彼の傷がひいていくのがわかった。


「んんん……」


そしてついに、彼の傷は完治して、リネは安堵の表情を浮かべた。


「うん?」


しばらくすると、2人を大きな影が覆ったので、リネは空を見上げた。そこには巨大な茶色い鳥が、バサバサと羽を動かして浮かんでいる。


「いたいた! いたんだわ!!」


鳥と背中から、見慣れた少女が顔を覗かせ、こちらに向かって手を振った。


「ラッツさん!」


鳥はゆっくりと下降して、2人の元に着陸した。


乗っていたのはラッツとトニックだ。2人はその鳥からさっと飛び降りた。


「間に合ったんだわ?」

「いや、間に合ってないっすよ!! すごい血っすよ。だからメリアンさん連れてきた方がいいって…」

「だってゾディアスのアホが、ケガ人大量に引き連れて帰還して、メリアンとられちゃったんだわよ」

「仕方ないっすね…応急処置だけでもするっす」


トニックはアデラに近づいて身体を見るが、傷が1つもない。


「あれ……ケガはどこっすか?」

「何なんだわ? うん? 無傷なんだわ?」

「ていうかこの人、男だったんすか?」

「そうだわよ? 知らなかったんだわ?」

「知らないっすよ……うっわ……何か気持ち悪いっすね」


トニックがそう言ったので、リネは怒ったように言った。


「アデラ様は美しいです!! 気持ち悪くなんかありません!!」

「……な、何であんたが怒るんすか…」

「むむむ!! こっち見ないでください! 視界に入らないでくださいまし!」

「何なんすかもう……」


すると、誰かがこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「おったおった! や〜っと見つけたで!!」

「うわあ!!」


いきなり橙色の髪の男が現れたので、リネはびっくりして声を上げた。


「ミカケ、早かったんだわね」

「潜入捜査は任しといて〜! 忍びの醍醐味やさかい!」

「お疲れ様っす」


(何なんですの?! この色黒のチャラ男は…)


「とりあえず一旦帰るんだわ。場所も把握したし、体制を整えるんだわよ」

「ほな、またよろしゅうな〜ロッソ!」

「クワックワァ!」


(ていうかこの鳥……フェネクスじゃありませんこと!)


「クワックワッ」


そしてロッソと呼ばれたこのフェネクスも、リネをユニコーンだと気づいているようで、一瞬2人は目を合わせた。


ラッツにトニック、ミカケ、そしてアデラを背負ったリネもロッソに乗り込んだ。


「わいが背負ったるって〜」とミカケに言われたが、「私たちに触らないでください!」とリネは全力で拒否した。

「さっきから何なんすかリネさん…」とトニックも顔をしかめているが、リネはツーンと彼を無視した。


(男なんて大嫌いですわ!!)


でもアデラ様は、違います…。


リネは未だに目を覚まさないアデラの身体を抱きしめるように支えながら、ロッソの羽毛の上に正座した。


西軍リーダー忍術師のミカケはあぐらをかいて、肩に背負うように持っていた謎の大きな風呂敷を、どーんとロッソの背中に置いた。


「何なんだわそれ」

「バクト・ツリーの種やがな」


風呂敷の中身は、袋になっていて、中にはバクト・ツリーの青い種が山のように入っている。


「こ、こんなに大量に?!」

「作ったんやろけど、相当大変やったんちゃうか? そう簡単に素材も揃わんて聞いとったで。レシピも原本あったから取り返してきたわ。まあ模写されとうかもしれへんけど…」

「お疲れ様なんだわ」

「他にもこんなもんがあったわ」


ミカケが次に出したのは、ビンに入ったピンクと赤の間の色をした怪しげな薬だ。


「何なんだわそれ」

「知らんけど、大事そうに隠されとったから持ってきたんや。何本かあったけど全部な〜」

「本当に泥棒に向いてるんだわ」

「泥棒言うなって!」


すると、トニックはその薬に反応して、「見せてください!」とミカケからそのビンを受け取った。


「これ…」


トニックは、懐からもう1つ別の薬をとりだした。それはトニックが作った薬で、その色がかなりに似ている。トニックの作った物の方が、少しばかり薄い色だ。


「それはあんたの? 確かに色が似てるんだわね」


トニックはミカケから受け取った薬の蓋を開けて、軽く匂いを嗅いだ。


「間違いないっすよ。これ、俺の薬の応用っす」

「うん?」

「どういうことや?」


(………何の話なんでしょうか??)


リネは1人、話の全容が掴めず、はてなを浮かべていた。それに気づいたラッツが、ここにくる経緯と共に、説明をしてくれた。








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