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エーデルナイツ騎士団長

「ねぇサリアーデ、ヒドラが殺られたって?」

「そうなんです…。親も殺られ、薬を打った子供ヒドラさえも一撃で……」


そこは暗がりの要塞だった。そこはまるで廃墟のようで、人が住むような場所ではなかった。唯一残った部屋にあるのは、遥か昔にどこぞの王族が座った王座だけだ。そこには今、偉そうに腕を組んだ少年が座っている。


彼は明るい茶色の髪をした、可愛らしい顔立ちの人間の男の子だった。髪は短く、サラサラと艶だっていて、長い前髪は両目にかかっていた。そこから覗かせる彼の赤い瞳は、血のようにたぎった深紅色だった。


黒いローブを纏い、右腰には黒いオーラを放つ剣が刺さっている。足を組みかえ、両肘を椅子の肘掛けに立てなおすと、やたら偉そうなそのポーズで、目の前で膝をついてを低くする白髪の魔族を見下ろしていた。


魔族の名前はサリアーデ。その白髪の魔族の耳は尖っていて、人間の物よりも遥かに長かった。背中には大きな弓を担いでいる。その姿は人間とまるで同じだが、彼は人間よりも色白で、端正な顔立ちは人間の男のように見える。彼は、エルフと呼ばれる魔族であった。


「ふうん。面白いじゃん」

「私が生やしておいたバクト・ツリーも、燃やされておりました…」

「ふんふん。ヒドラに人間を襲わせる作戦は失敗かぁ。さすが人間は賢いなあ〜! それにあのヒドラを一撃なんて、さっすがエーデルナイツのボスだね!」


茶色の髪の少年は、呑気にあははと笑っていた。


「次はどう致しましょうか…レノン様」

「そうだなぁ〜」


少年は椅子から下りて立ち上がった。


「私たちエルフも、ご命令があればいつでも」

「そ〜お? まあ気が向いたらお願いするかな!」


レノンと呼ばれた少年は、にっこりと笑っている。


その笑顔は非常に無垢で、天使のように可愛らしかった。しかし彼の心は、人間を殺したい欲望で常に覆われていた。





リルイットは巨大な鳥に姿を変えると、メリアンと西軍の皆を乗せ、エーデル城へと帰還した。メリアンはもう完全に疲弊して、リルイットに乗っかると、その羽毛布団で落ちるように眠りについた。


(メリアン…お疲れ様)


全部で50人以上もいたから、相当大きな鳥になったので、エネルギーは多量に消費した。しかしリルイットも、何度も創造を続けるうちに、体内エネルギー量の感覚を掴んできていた。エーデル城まで皆を連れて行くくらいの力は残っている。


「ごっついなあ〜!」

「ロッソよりでかいですねぇ!」


ミカケたちはリルイットの姿を見ては、大変感服していた。


「忍術で姿は変えられないんですか?」とリルイットが聞くと、「そんなん出来るかいな〜」とミカケは苦笑した。


「ミカケさん、今回の遠征、俺ら報酬なしですかねぇ…」

「せやろな…。でもしゃーない。あれは相手が悪いて」

「マキさん、さすがでしたね」

「ほんまな。あの人こんかったら終わっとったな〜!」

「ほんとですよ〜!!」


(西軍ミカケさん…。気さくな人だ。西軍兵士たちからの人望も厚そうだ)


「それにメリアンのおかげやな」

「ほんとですね。それにあの場で新しい解毒剤を作るなんて、さすがですよ」


騎士たちはその上空で、眠りにつくメリアンにお礼を言った。


騎士たちが話をしている中、ミカケは1人、リルイットの頭の上までやってきては、腰掛けた。


「よいしょ! こらええ眺めやな」

「ミカケさん」

「リルもありがとうな。リルがヒドラの子を捕まえてくれたから、あの子のお母さんも助かったんや」

「いや、あれはメリアンが…」

「メリアンもそうやけど、リルのおかげでもあるやろ。1人で行くのは無茶しすぎやけどな」

「すいません…」


リルイットも笑いながら謝った。


「どうやって谷底まで降りたんですか?」

「壁行の術、いうのがあってな! 壁でも天井でも歩けんねん」

「忍術すご!」

「へへっ」


少しの間のあと、リルは彼に尋ねた。


「何で助けてくれたんですか…ミカケさんが死ぬかもしれなかったんですよ…」

「何でやろ……」

「………?」

「匂いが好きやからかなあ…リルの」

「またそれですか…?」


ミカケは何かを懐かしむような表情で、またリルの匂いを嗅いでいた。


「俺、どんな匂いなんですか…」

「鳥かな!」

「……」


(確かに今は鳥の姿だけど……え、炎の創造って、匂いも変わるのか…?)


「他にどんな忍術があるか教えてくださいよ」

「ええで。せやなあ…まずは…」


それからミカケさんに、忍術の話なんかを聞きながら、俺はだんだん赤くなる空の色をぼーっと見たまま飛び続けた。




数時間後、日が暮れた頃に、リルイットたちは無事にエーデル城に帰還した。


ミカケさんたちと別れて、リルイットはメリアンを抱えて、彼の部屋へ連れて行った。


「よくやったんだわ、イケメンリル!」


部屋から出ると、ちょうどラッツがやってきて、リルイットに声をかけた。ちょっと早いけど一緒に夜ご飯を食べようという流れになって、リルイットとラッツは食堂に向かった。


「ミカケたちから連絡があったんだわ。ヒドラも無事に倒したようだわね」


夜ご飯を食べながら、ラッツと話をした。


「マキさんて人が助けに来てくれたんだよ。ていうか、あの人何者だ?」

「イケメンリル、あの人があたしらのボスだわよ」

「えっ?!」


(ボス…ってことは…)


「マキ・ダドシアン。あの人がエーデルナイツの団長なんだわよ」

「えええええ!!!!」


とりあえずリルイットは声を荒げたが、冷静になって更に声を荒げる。


「ええええ?! ていうか、ダドシアンって……?!」


食堂の奴らは変な目で俺たちを見ていた。が、そんなこと気にする余裕はない。


(ま、まさか……)


ラッツもなんというか、絶妙な顔をしている。間違いなさそうだ…。


「あの人が、シルバの結婚相手なんだわ」

「えええええ?!?!」


食堂の奴らはうるさいぞという顔で俺を睨んでいた。だけど俺は、すみませんと謝ることも出来ずに、ラッツの話を聞いた。


「あんたもあり得ないと思うんだわよ?」

「いや、衝撃が…大きくて……」


マキ・ダドシアン、元マキ・ロメットは、エーデル城を守る、この国史上初の女騎士団長だった。


使うのは剣ではなく刀、それも二刀流。その強さは俺もこの目で見た通り。女とはいえ、エーデルナイツ最強の騎士だ。


昔も今も変わらず、口調も顔も常に怒っているように怖い。怒ったらもっと怖い。メリアンが顔面ビンタされたのを思い出した。痛そうだったな〜……。彼女を知るエーデルナイツの全ての騎士から恐れられているようだ。知らないのは俺たち新人くらいだった。


「何であのシルバが団長と……」

「知らないんだわよ。結婚するってきいた時、衝撃すぎてあたしも目が飛び出たんだわ! あと、あの人のこと団長って呼んじゃ駄目だわよ」

「え? なんで? 団長なんだろ?」

「そう呼ばれるのは好きじゃないみたいなんだわ。だから皆マキさんって呼んでるんだわよ。ま、私は影でわざと団長って呼んでるんだわよ! ふふ!」

「ふうん…(しょうもないやつだな…)」


よくわからないけど…とにかくあのマキさんという人が、俺たちのボスで、シルバの妻ということはわかった。


シルバとマキのツーショットを思い浮かべた俺は、何て似合わない夫婦なんだろう…と心底思っていた。


しばらく俺は、ラッツがマキさんのことをベラベラ(ほぼ悪口を)話すのを聞いていた。


「とにかくリルもあの鉄仮面には気をつけ……」


ラッツを見るリルイットの顔が引きつっていたので、彼女は頭に?を浮かべた。それからゆっくりと後ろを振り向くと、鬼のように怖いマキがラッツの後ろに立っているのが目に入る。


「ひいいい!! マキさんんんん!!!」


ラッツは怯えたような声を上げた。


「しょ、食堂に来るなんて珍しいですね…!」

「今夜リーダー会議をする。食い終わったら本部に来い」

「あ、そういうことですね…! わかりました! すぐに行きますね! ふふふぅ!!」


マキはさっさと立ち去ってしまった。


(ラッツのやつ……ビビりすぎて口調変わってやがる…)


「食べる気失せたんだわ…。あとはあげるんだわ、イケメンリル」


ラッツは青ざめた顔で立ち上がった。


「い、いってらっしゃい……」

「また明日なんだわ……」


ラッツは1人、とぼとぼと本部に向かっていった。


俺はラッツの残した晩御飯も平らげて、部屋に戻った。




エーデル城の本部となっている一室には、ラッツ、シルバ、ミカケと、団長のマキが集まっていた。


「ゾディアスはいないんだわ?」

「遠征中みたい。明後日には帰ってくるってマキに連絡があったよ」


そこでは今日のヒドラ討伐に関わる情報と、バクト・ツリーの種が盗まれた情報について話し合われていた。


「村の奴らに聞き込みをしたところ、1週間ほど前に村の広場の手入れをしていた白髪の男がいたらしい」


マキは話した。


その男は、フードを深くかぶって顔も見えなかったが、見慣れない奴だったから、覚えていた村人がいたようだ。村長に依頼されたと言っていたようだが、村長はそんなやつ知らないと言っていた。そいつがあの村にバクト・ツリーを植えたに違いない。


バクト・ツリーは、植えればその日のうちに成長する。見かけは普通の大木と相違ない。それが別の木だと気づく者はさすがにいなかったようだ。


「マキさん、すぐに違いに気づいてましたよね?」

「葉っぱだ。バクト・ツリーの葉には、青い斑点がある。近づいて見ればすぐにわかるが、背の高い木の葉をわざわざ凝視する者はそういないからな。気づかなかったんだろう」


バクト・ツリーを作ったのは、エーデル大国付属の研究所だ。魔族用の対抗策として作成を依頼し、数週間前に完成したばかりだったのだが、その種を何者かに奪われたというのだ。


「研究所にはドワーフに作らせた高度なセキュリティがかかっている。侵入出来るとは考えにくいのだがな」

「まさか、内部犯…?」

「の可能性も考えて、シルバに服従の紋を嵌めさせ、研究員たちに事情聴取をしたが、誰も嘘はついていないようだ」


シルバはニコニコと笑っていたが、国民に躊躇なく服従の紋を嵌めるマキに、ラッツとミカケは顔を引きつらせた。濡れ衣が晴れると、服従は解除したとのことだが…。


(ほんとに何でもありなんだわよ、この人!)

(ほんま恐ろしい女やで…)


「外部犯なんでしょうかね…」

「そちらの方向で調べてみるつもりだ」


リーダー会議はその後も行われた。








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