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スカウト

「それにしても本当に美人な姉ちゃんだなあ!」


ゾディアスはリネを見ながら言った。

リネはにっこりと微笑んでいたが、内心では(クソきめえなこのおっさん! 私の目が腐ったらどうしてくれるんじゃボケ)的なことを思っていた。


「名前はなんだって?」

「リネだ」


鉱石採掘を無事にやり終えたゾディアス一行は、ロクターニェのレストランで食事をしていた。そこには何故だか、リネも同席しているのだった。




それは、数十分前の話だ。ラスコはアデラがリネに怪我をさせたと知って、土下座する勢いで彼女に謝罪した。しかしリネは、アデラが襲ってきたグレイウルフから自分を守ってくれたのだと、アデラを擁護した。


それでもラスコは何かお詫びをさせてほしいと言った。

ブスだけどいい子じゃないか、なんてリネは思っていた。


結局ご飯を奢ってあげるということになって、ゾディアスと合流し、皆でレストランに向かったのだ。


ロクターニェのレストランは、その盛り付けもまた芸術的だ。

そのプレートは額縁のようで、盛られたその料理は、まるで1枚の絵画のようだ。異国ではもはやネタにもされている、ロクターニェの名物料理である。


そして、それと共に振るまわれたワインをアデラが気にせず飲んだら、一瞬にして泥酔した。


「リネは、超強いんだよ!!! 頭でゴツーンと一撃でさぁ! あはっ! あははは!! あっはははははぁ!!!!」


アデラは1人大爆笑しながら、必要以上にリネの強さを語った。


「そんなに強えなら、エーデルナイツにスカウトしたらどうだ?」

「あははは!! スカウトぉ?!」

「ああ、そうだよ。スカウトされたやつが入団して実績を残すと、スカウトしたやつにも一部報酬が入るんだぜ。よくある紹介制度ってやつだよ」

「あはは!! 何だ? そんなものがあるのか? いいじゃないか! スカウト! スカウトするよ! リネ!!」

「えええ!!」

「ちょ、ちょっとアデラさん、そんな勝手な話して! リネさんが困ってますよ!」

「困っていない。ひひひ……入るだろ? なあ、リネ」


話を聞きながら、リネも大体のことは予測できた。


こいつらはエーデルナイツという名前の魔族討伐のための組織に加入している人間共ですのね。流れでこの私もそこに入らないかという話になっているんですわ。


そしてそこに加入することによる、リネの利点は2つある。


1つは、そこにいれば人間に襲われる心配がないということだ。サンドゴーレムを倒せるほどの力のある人間共だ。相当強い集団に違いない。リネは魔族だが、正直自分が無事に生きてさえいられれば良い。仲間の命より自分の命! 私のモットーですの!


もう1つは言うまでもない。アデラ様のおそばに、いられるということ!!


「入りますわ!!」


リネは2つ返事で入団を決意した。

ラスコは目を丸くして、ゾディアスはがっはっはと笑っている。


アデラは酒で顔を赤くしたまま、リネにがばっと抱きついた。


(アデラ様ぁ!!!)


その時のリネは超有頂天だった。


(酔っても美しいれすぅ〜!!!)


「一緒に魔族を殺しまくるぞ!!」

「はい〜!! アデラ様ぁ!!」


(アデラ()ぁ?!)


ラスコは不審な表情でリネを見ていた。


(まさか、惚れさせたの…?! いや、まさか……リルじゃあるまいし……)


しかしリネは終始デレついていた。


(完全に惚れている……。まあ、私が口出すことじゃありませんか……)


そんなこんなで、ゾディアス一行は、素性の一切知れぬリネを仲間に加えるのであった。




リルイットがシピア帝国の遠征から帰還して、3日目になった。


1日目はメリアンと話をして仲良くなった。そのあと一緒に食堂に行って夜ご飯も食べた。


そのあと俺は、落ちるようにすぐに寝入った。もしかしたらこのまままた1ヶ月眠ってしまうんじゃないかとも思ったが、起きたら普通に次の日だった。


逆にどうやって長い眠りにつくのか甚だ疑問だ。


しかし1日寝れば、それなりに体内の炎エネルギー(?)的なものも回復したような気がする。

ロッソに教えてもらったやり方を試してみたら、人差し指にろうそくのごとく炎がついた。その炎は、俺が想像する形に変化した。丸でも四角でもハートでも、もう自由自在だ。

だが炎の無駄遣いになりそうだったので、程々にしておいた。


2日目はラッツにも言われたので休養日とした。

まだゆっくり見れていなかった東軍アジトや、城内の通行可能なところを軽く散策したあと、エーデル大国を見て回った。


大国は広すぎて1日では見回れなかった。

見たこともない食べ物もたくさんあって、ブルーバーグとシピア帝国の各遠征の報酬でもらったお金で、ちょっと贅沢をした。


薄々気づいてはいたが、エーデル大国はシピア帝国よりも発展している。特に科学面で…。

アジトに設置されていた自動螺旋階段もしかり、そんな感じの機械じかけな建物がたくさんあったのだ。自動ドアに自動階段はもはや常設、洗面台も手をかざせば水が出るのだ!


あっという間にその日も終わって、何となく1人旅でもしたような気分で、思いの外、息抜きになった。正直自分が今何をしているのか、わからなくなりそうだったよ。


そして3日目、朝食堂にやってくると、メリアンと鉢合わせて、また一緒に朝食を食べることになった。メリアンは話していて結構気が楽だ。


彼はこれまでにあんまりつるんだことのないタイプなのだけれど、歳も一緒だからか、なかなか話が合うんだ。


「へぇ、リルはそんなにモテそうなのに、彼女がいたことないんだね」

「なかなか運命の出会いってのがなくってね!」

「あはは。そう簡単に出会えたら苦労しないよぉ!」


その時俺たちは、そんな話をしていた。


「メリアンは?」

「え? 僕? いないよ彼女なんて!」


お! 俺と同じパターンか? こいつ気が合うし、もしかして…。


「じゃあこれまでにいたことは?」

「それは…あるけど…」

「何だよあんのかよ〜」


リルイットはがっくりとうなだれた。


(だよな〜。この歳で恋愛経験ないなんて、俺ぐらいかぁ……。いや、アデラの奴も絶対いない! あのアホは絶対いない! 俺の同士!)


すると、「イケメンリル〜!」と声が聞こえて、まもなく俺の背後からラッツが抱きついてきた。「うわ!」と俺も声を上げた。


「びっくりさせんなよ…」

「うふふ〜! やっと見つけたんだわよ〜」

「朝から何なんだよ…仕事か?」

「あ、メリアンも一緒にいたんだわね。ちょうど良かったんだわよ!」

「はあ?」

「え?」


ラッツはいつもの調子で俺の腕に自分の腕を通しながら、俺の隣に座って話を始めた。


ミカケという名の男が率いる西軍、彼らは数日前に、大陸西部のドルムン谷に生息する、ヒドラと呼ばれる大蛇の魔族の討伐に向かったらしい。


しかしヒドラの討伐には失敗し、先ほど撤退した模様だ。多数の負傷者が出ているため、ただちに帰還したいからとロッソの派遣を要請したが、知っての通りロッソは今、ひな鳥である。


「それで俺に行ってこいと」

「うふふ! 話が早いんだわ! 負傷者も多いそうだからメリアンも連れてって現地で治療してほしいんだわ」


(なるほど…ロッソは()()として働いていたんだな…。そしてロッソがひな鳥になった今、俺はエーデルナイツの頼れるアシってわけね…)


「わかったけど…そもそもどうやって西軍の奴らと連絡を?」

「これなんだわ」


と、ラッツが出したのは、黒い四角い形をした機械だった。


「なんだそれ」

「無線機ってやつなんだわ。遠くにいても連絡がとれるんだわよ」

「そんな便利なものが……」

「ドワーフたちに作らせたんだわよ」

「ド、ドワーフ?!」


(って確か、俺とアデラがミルガンで襲われた髭面の奴らじゃ…)


「元々エーデル大国に住んでいたドワーフなんだわ。でも今は、ロッソと同じように服従の紋をかけてる。彼らは天才発明家集団で、城の地下の工場で働きながら暮らしているんだわ」

「なるほど…」


(ミルガンにいたドワーフ(やつら)が全部ってわけじゃないもんな…。というか、服従されている仲間の魔族は、ロッソだけじゃなかったってことか)


城の地下までは足を踏み入れなかったな…。なるほど、エーデル大国の科学が発展しているのは、ドワーフのおかげか。


「リルにも1つ渡しておくんだわ」

「どうも」


俺はラッツから無線を受け取って、使い方も教わった。


ちなみにこの無線、立ち上げ時にロッソを使って、エーデル大国の周りの国には一通り配り終えた。自国及び近隣で魔族の襲来及び目撃情報があった場合は、これを使ってエーデルナイツ本部(王族と団長などのお偉いさんの集まりらしい)に連絡が行く。その連絡を元に、事務員に頼んで、その情報を依頼の紙におこし、掲示板に張り出しているという仕組みだ。緊急案件の場合は各軍のリーダーに直接連絡が行く。


無線は各リーダーが常に所持しているが、現在量産中だ。ドワーフも発明に明け暮れている。今はまだ数が足りず、騎士全員が所持するには至っていない。リーダーが持つ数台の予備を、必要に応じて団員に持たせてまかなっている。


「それじゃ、朝ごはん食べたらさっさと行ってきてくれなんだわ」

「わかりましたっ!」

「はいよ」


ラッツはそれを伝えると、さっさとどこかへ行ってしまった。


そのあと残っていた朝食を食べ終えると、俺とメリアンは食堂の外に出た。
















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