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炎による想像と創造

あたしがデスイーターに見せられたのは、あいつがあたしを殺すための、悪夢に近い何かだったんだ。

それはわかった。だけど……


「リル……あたし、思い出したんだわ…」

「うん?」


怖くて思い出せなかった5歳のあたしの記憶。

でもあの夢を見せられて、あたし、あの時のことを思い出した。


「もしかして、一族を殺した犯人か?」

「ううん……顔は本当に見えなかったんだわ。それは確か」

「え……じゃあ何を……?」


ラッツは少し沈黙したあと答えた。


「左利きだった…」

「え?」


そう、あの時男が長い刀を持っていたその手は…確かに……


左手だった。


「ま、まさか本当にシルバだってんじゃ…」

「……」


すると、シルバがうーんと目を覚ました。


「ふわ〜! あ! デスイーター全員倒せたあ?」

「シルバ…」


シルバは呑気に大きく腕を上げると、再びふわぁと欠伸をした。


「ピィイ〜!!」


ロッソはシルバの元に飛んでいくと、頬をすりすりとした。


「あれ〜! ロッソ! そんなに小さくなっちゃったの!」

「ピィイ〜ピィ〜!」

「ご、ごめんシルバ……その……俺のせいで……」

「可愛い〜〜〜!!!」


シルバはひな鳥のロッソを両手で抱きしめては、更に頬をすりよせた。


「え……」


焦っていたリルイットは、シルバの反応に唖然としながら、ひな鳥に目をハートにする彼を見ていた。


「ピピピピィ〜!!」

「そっかぁ! リルイット君がロッソを助けてくれたんだね! ロッソもお礼を言ってるよ! 本当にありがとう!!」

「いや………うん……」

「いやあ! それにしても可愛いなぁ! このサイズならずっと一緒にいれるねぇ〜!」

「ピィピピぃ〜!!」


(怒ってないならいいか……)


呑気なシルバを見ては、リルイットはラッツと目を見合わせた。


「さすがにこいつなわけはないんだわよ」

「だな…」

「うん? 何の話〜?」

「デスイーターは無事に倒したんだわ。でもあんたが1匹逃すから大変だったんだわよ」

「そうなの〜? ごめんごめん! やっぱりリルイット君が一緒に来てくれて良かったよ〜! 本当にありがとう!」

「はぁ……」


シルバは何も知らずに、にこやかに笑っていた。

そんな彼を見ていたら、俺も何だか拍子抜けしちまった。


「あ! でもロッソがこれじゃあ帰れないねぇ」

「リル! 羽を生やすんだわよ!」

「いや、無理だって!」

「え? 何何? 羽って?」

「諦めないでやってみるんだわよ!」

「やれって言われても…」


リルイットがうーんと頭を捻っていると、ロッソがリルイットの頭の上まで飛んできた。


【スルト、目を閉じて】

(え?)

【いいから、目を閉じて】


ロッソが脳内に語りかけてくる。どうやら俺もテレパシーが使えるようになったらしい。仕方なく言われた通りに目を閉じた。


(どうでもいいけど、俺はスルトじゃねえから)

【ああ、すみません。リルイットでしたっけ】

(そうだよ。俺はリルイット。リルでいいよ。ていうか、スルトって本当に誰なんだよ)

【リル、背中に集中して】


無視すんなよ……。


背中に集中……? んなこと言われてもなあ……。


あれ……。


何だか背中が暖かく、いや、熱くなってくるのを感じた。


(も、燃えてる?!)

【リル、あなたは炎の使いです。あなたの翼は炎の造形なのです。ほら、翼を想像して】

(はあ?!)

【想像して】


何だよいきなり偉そうになりやがって……。

それにしても、何なんだこの……燃えるような……熱は………。


翼……?


バサアアア


突然、リルイットの背中に大きな翼が生えた。


「っ!!」


(出来た……)


「リル! やれば出来るじゃないのさ!!」

「すごいすごい! 何それ? 術? 飛べるの?」


リルイットは唖然とした。


俺の意思で、翼が生えた…。

ちらっとその翼に目をやった。たぎるような真っ赤な翼だ。コウモリみたいな形だ。


想像次第では鳥みたいにふわふわの羽にも出来そうだ。まあ、もう出来たからこれでいいけど。


バサ バサ


(動かせる……。俺は飛べる…)


そうだ……翼だけじゃない。

俺は炎の使い……。


想像しろ…。


「!!!」


リルイットは、巨大なドラゴンに姿を変えた。

モデルは森で殺したファイアードレイクだ。


【お見事ですね、リル】

(コツがわかれば何にでもなれるな!)

【はい。ですが大きな()()は炎をたくさん使う分、エネルギーがすぐに切れますよ】

(え? 何だそれ)

【思い当たる節はありませんか?】

(うーん…。そう言えば、長い間気絶していたことがあるな…。最初は2週間。次は1ヶ月…)


【眠りが長いほど体内に炎を生成して溜められます】

(炎ってそもそも溜めるものなのか?)

【1ヶ月も眠れば相当溜められたでしょう。ですが体内にはあまり残っていないようです】


ロッソの奴、たまに質問無視するんだよな…。


(氷山溶かすくらいには使ったかな)

【それですね。先ほども冥界の入り口から帰る時に相当な炎を使いました。その姿を維持するには、もってあと10分でしょう】

(10分?! いや、無理だろ! お前でもエーデルからここまで数時間かかったろ)

【仕方ありません。エーデル大国に着くまでは力をお貸ししましょう】

(何だよさっきから、その譲渡システムは…)

【早く出発しましょう。炎が勿体無いです】


また無視しやがった…。

炎が勿体無いって、初めて聞いたわ。


「こりゃあすごいねぇ〜!」

「想像以上なんだわよ……」


ラッツとシルバは唖然としながら目の前のドラゴンを見ていた。


「乗れ」

「普通に喋れるんだわね」

「いいから早く乗れ! 長く持たねえ」


ラッツとシルバはドラゴンのリルイットに乗り込んだ。


「ピィイ〜!」


ロッソもリルイットの頭にちょこんと座った。


「それじゃ、帰るぜ!」


炎のドラゴンは空に舞い上がり、エーデル大国を目指して、猛スピードで飛んでいった。




「あっはっはっはっは!!!! ひーっ!! お前、それは本当にやばいだろ!! あ〜っははははは!!!!」

「そうだろォ?!! 俺が怒ると皆震え上がってなあ!!! あの時の顔ったらなかった!! ぎゃーっはっはっはっはあ!!!!」


ロクターニェに向かうゾディアス一行。そこは途中で寄った街の酒場だ。薄暗い店中を提灯のように垂れ下がったランプが照らしている。机も椅子も古びた木製だ。そしてやたら賑やかな酒場だった。どんなに騒いだって問題なし。


ラスコは1人ジュースを飲みながら、白々しい目で彼らを見ている。


「あっはっはっはっは!!!!」

「ぎゃーっはっはっはぁ!!!」


(笑ってる……)


無愛想なアデラが笑っているのを、ラスコは初めて見た。それも目から涙がでるほどの大笑いだ。


「………」


ゾディアスと酒を交わした彼は、あっという間に酔っ払って、驚くほどの笑い上戸になった。ゾディアスのくそつまらない武勇伝を永遠と聞いては、声を上げて笑っている。


(何がそんなに面白いんでしょう……)


「あはははは!!!」

「ぎゃっははははぁ!!!」


2人の盛り上がりは最高潮だ。2人共、目も頬も真っ赤にして、かきこむように酒を飲み漁っている。


「ラスコも飲め!!」


アデラは酒の臭いをプンプンさせながら、ラスコに寄ってくると、グラスを持ちながら彼女の肩に手をかけた。逆の手には酒瓶を持って、ラスコの前でたぷたぷと注ぎ始めた。


「ちょっ、アデラさん!! 私は飲みません!!」

「いいから! ひひっ! すげぇ美味いぞぉ?」


(別人…っ!!)


臭いし暑いし最悪です!! 酒癖悪すぎます!!


「こらこら!! 友達に無理強いすんなよアデラ〜!」


ゾディアスはげらげらと笑いながら、巨大なジョッキにはいった強烈な臭いの酒を一気に飲み干した。


「仕方ない奴だなぁ…」

「んもう! 離れてください! 臭いですよ!!」


ラスコがグラスを受け取らないので、仕方無しにその酒を飲み干すと、グラスと瓶を机に置いた。


「でも可愛いんだよラスコは〜!!」


(ま、また……)


「嘘つかなくていいですから!!」


ラスコは怪訝な顔で彼を睨んでいる。


「ラスコはそんなに可愛いか〜?」

「ゾディアスさん! 思ってても言わないでくださいよ!」

「わりいわりい。冗談だっての!」


(失礼なおじさんです…!!)


「何を言う! こんなに可愛い顔の人間早々いない!」


アデラは完全に酔いながらもそう言い張ると、後ろからラスコをぎゅうっと抱きしめては、彼女にもたれかかった。


(ええええ?!?!)


ラスコは男の人に抱きしめられたことなんて初めてだった。アデラは彼女にとってただの仲間だけれど、身体を触れられると流石にドキっとしてしまうものだ。それが異性なら尚のこと。どんなに女の顔をしていても、彼が正真正銘の男だと、ラスコは知っているからだ。


「私の相棒だったアデリアに似ている!!」

「は?!」


ラスコは一瞬固まった。脳内がショートした。


(アデリアって……馬じゃなかったかしら? アデラさんの)


「アデリアが人間に生まれ変わったに違いない!」

「……」


(ほほう。私はアデリアに似ていると。ほほほう……)


何も知らないゾディアスは、わけもわからず笑っているだけだ。

そしてラスコは、ピキッと顔に亀裂(のような何か)が入ったあと、ふるふると身体を震わせた。


「アデラさんの……」


店の床がじわじわと揺れ始めるのを感じる。

店の店員やお客たちも騒然として、何だ?地震か?とざわつき始めた。


「バカぁああああああ!!!!!!」


その後店の床は無残に破壊され、巨大な大木がアデラを襲うと共に、一緒に生えてきた多量のツタが店中の人たちに巻き付いて、天高く伸びていった。


それはまるで、ジャックの豆の木のように。


アデラは大木のベッドで、もはや酔いつぶれて眠っていた。

悲鳴を上げる一般人たちを横目に、同じくツタに絡まったゾディアスは大笑いをしている。


それはまさに、絵に描いたような悲惨な光景だ。


ラスコは爽快な気分で、にんまりと微笑んだ。

その顔は確かにちょっと、馬に似ている気がした。

















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