対戦・デスイーター
「やったんだわ…?」
ラッツが下を覗き込むと、1匹の骸骨が物凄い勢いでやってきた。
「きゃああっ!!」
ラッツは驚いて尻もちをついた。
「ラッツ!」
リルイットはその骸骨を睨みつけた。
(デスイーター?!!)
黒いローブの中身は骸骨だ。その手には大鎌を持っている。その姿、まさに死神だ。
ハッとしてシルバの方を見ると、バタリと気絶している。
「シルバ!」
「こいつは今のでもうエネルギー切れなんだわ! しばらく眠って起きないんだわよ! リル! さっさとこの死に損ないを殺るんだわよ!」
「わかってるけど…!!」
ここでかよ……!
そこは遥か空の上、足場はロッソの背中だけだ。
座ってるだけならいいが、立ち上がるだけでもなかなか……勇気がいる…ぞ……?! 高所恐怖症じゃあねえけどさぁ!
リルイットは剣を抜いて構えた。
(下を見るな……下を……!)
リルイットはデスイーターに向かって剣を振るった。
「おおっとォオ!」
しかしデスイーターは、後ろにすぅっと退いていくと、その剣をかわす。
(くっそ……これ以上は前に出られねえ…!)
リルイットは剣の構えを続けたまま、デスイーターを見据えた。
「ぎゃっはははははぁ!!! 俺様は見てたぜェ? 空からお前らが飛んでくるのをなァ!! 攻撃の前に上の結界を解いただろ! そのスキに逃げてやったのさァ!!」
「気づいていたのに自分だけ逃げたんだわ? あんたの仲間は皆死んだんだわよ!」
「ぎゃはははは!!! だから何だよ!! どうでもいィんだよそんなのォオ!!!」
デスイーターは横にすぅっと移動していき、再びこちらに近づくと、銀色に光るその鎌を、ラッツに向かって振り下ろした。
「ラッツ!!」
「グワッグワッ!!」
ラッツが避けるよりも先に、ロッソはデスイーターから距離をとった。
「人間の味方なんてするとはなァ!!! フェネクスよぉ!!」
「グワッグワァっ!!!」
ロッソはデスイーターに向かって炎を吐いた。
「ロッソ!」
「グワァっグワッワワァ!!!」
デスイーターはそれをかわした。あいつは羽もなしに空を飛べる…その動きは非常に滑らかだ。旋回がいらない分、こちらより明らかに速い。
「当たるかよ、そんなもんよオオ!!」
デスイーターは、何本か欠けている歯をカタカタカタとかち鳴らして、ニヤっと笑った。
「おらぁっ!!」
そのまま姿を消したかと思うと、ロッソの懐にいつの間にか回り込んでおり、その大鎌でフェネクスの羽を斬り裂いた。
「グワアアアア!!!」
ロッソは叫び声をあげて、そのまま体制を崩した。羽を損傷し、飛ぶことができない。
「まじ?!」
「きゃああああ!!」
そのまま地面に向かって急降下した。俺とラッツはロッソの背中に必死で捕まる。
「ギャハハハハハ!!!! このクソ鳥がァ!! まとめて全員死ねェ!! 俺の餌にしてやるよォオオオ!!!」
デスイーターは高らかに笑い、ロッソたちが落ちるのを面白そうに見物していた。
「落ちる! 落ちるんだわ!!」
「うわぁあっ!!」
横では気絶中のシルバがふわっと浮いて、空中に放り投げられた。
「シルバ!!」
(くそ……っ!!)
「グワァっっ!! グワワァアアア!!」
ロッソも何とか空を飛ぼうとするが、片翼が完全にやられてしまっている。
(このままじゃ、地面に衝突する……っ!!)
【…を……助けて……スルト……】
(え?!)
聞き慣れない声が、リルイットの脳内に響いた。
【シルバを……助けて……】
(ロッソか?!)
その瞬間、リルイットの背中には、あの時と同じ翼が生えた。
そのことに驚いている暇もなく、リルイットは飛び立つと、空中のシルバを抱きかかえる。
「リル!!」
リルイットはそのまま急降下して、シルバを左腕で抱えると、ラッツに右手を伸ばした。
「ラッツ!!」
そのまま彼女の身体を何とかキャッチした。
「うん?」
デスイーターは突然空を飛んだリルイットが、仲間を助ける様子を、不思議そうに見ていた。
「あいつ、さっきの……」
なんだあの姿は…。術師か何かかァ?!
(ったく……)
デスイーターもリルイットたちのところに飛んでいった。
「ロッソが!!」
「わかってる!!」
頼む………燃えてくれ……!!!!
リルイットが念じると、ロッソの墜落地点が激しく燃え上がった。
「ロッソ!!!」
フェネクスは燃え上がるその炎の中へと落ちていく。炎はまるで柔らかい絨毯のように、フェネクスを包み込んだ。
【スルト……ありがとう……】
(ロッソ……)
ロッソは炎に全身を包まれると、小さなひな鳥になった。炎はやがて跡形もなく消え去り、そこでは薄い肌色の可愛らしいひな鳥が、ピィピィと鳴いているだけだ。
リルイットも2人を抱えたまま、ロッソのそばに着地した。
シルバを横たわらせると、彼のそばにひな鳥が飛んできては、ピィピィと鳴いて頬をすりすりとしている。
「た、助かったんだわ…」
「ったく…天国見えたっての…」
安堵するのもつかの間、先程のデスイーターが大鎌を手に、こちらに向かって襲いかかってくる。
「おいおい!! この死に損ない共がよォ!!!」
リルイットとラッツもハっとして振り返る。
「また来やがったんだわ!」
「今度は仕留めてやる!!」
リルイットもまた、その翼で飛び立つと、デスイーターに向かっていくと、剣を振り切った。
(擦り抜けたっ?!?!)
「効かねえよォお!! 俺様にそんなものはよォ!!」
くっそ…物理攻撃はそもそも当てられねえのか…。
当たらないと燃やせないってか?!
だったら直接炎で…!!
「まずは雑魚からいくぜ! くそ女ぁ!!!」
デスイーターはラッツに標的を変える。
「ラッツ?!」
(させるかっての!!)
リルイットはデスイーターに向かって炎を吐き出した。
しかしデスイーターはパっと姿を消してしまう。
(また消えやがった…!)
デスイーターは瞬時にラッツの後ろに回り込んだ。
「っ!!」
ラッツはハっとして振り向いた。底なしの穴のような骸骨の目がこちらを覗き込んでいる。
「ギャハハハ!! 見つけたぜェ? お前の弱点をなァ!!」
「な、何のことなんだわ?!」
すると、デスイーターは再びラッツの前から姿を消した。
「ギャハハ!! それじゃ、冥界で俺様と遊ぼうぜェ!!」
デスイーターはパっとラッツの背後に姿を現す。
ラッツも振り向いたが、もう遅かった。
「きゃっ!!!」
デスイーターはその大鎌で、ラッツの身体を斬り裂いた。
「ラッツ!!!」
リルイットは目を大きく見開いた。ラッツは確かに斬られたが、その身体に傷はない。一切の血も出ない。
しかし彼女は、その場にバタリと倒れ込んだ。
すると彼女の身体から、青白い光が浮かび上がってくる。
デスイーターはすぐさまその光を手で掴んだ。
(まさかラッツの……魂なのか………?!)
「ギャハハハ!!! 美味そうな飯だ!!」
「させるか!!!」
リルイットはデスイーターに襲いかかった。
しかしデスイーターは、リルイットが顔に向かって吐いてきた炎も軽々避ける。
また姿を消すと、リルイットの背後に回り込んだ。
「お前も冥界行くかァ? 一緒に遊んでやるからよォ!!!」
デスイーターはそう言って、リルイットの身体も大鎌で斬り裂いた。
「行ったら二度と戻ってこれねえけどなァ!!」
リルイットもその場に倒れ込んだ。リルイットの身体からは、ラッツと同様に真っ赤な光が浮かび上がる。デスイーターは鎌を背にしまうと、もう片方の手でその赤い魂を手にとった。
「ギャハハハ!!! これもまた美味そうだ!!」
倒れたラッツとリルイット、そしてデスイーターもまた、姿を消した。




