表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/168

拳法の使い手

青と白の猛獣は、二手に分かれて駆け出した。


(は、速い……っ?!?!)


リルイットはその猛獣の速さに目を見張る。

速すぎる……残像しか残らねえ……全く目で追えない……っ!!


「うわっ!!」


敵のうった氷柱が飛んできた。速すぎて発射位置すら掴めない。


(や、やばいっ!!)


鋭利な氷柱がリルイットの目の前に襲いかかってきた時、それは突然と粉々に砕け散った。


(え……?!)


何が起こったのか、速すぎてリルイットの目には映らなかった。


「やっと自由に動けるんだわ」


ラスコとアデラは、そばにいたはずのラッツの姿がないことにハっとする。


(いつの間に……?!)


「ブスコちゃん……バカにしてごめんなんだわ…。アデラ……メリアンに治させるまで死ぬんじゃないんだわよ……」

「ラッツ…お前……」

「部下に守ってもらうなんて…、あたしもシルバのアホと変わらないんだわ…」


幼い少女の様子は、いつもと違っていて、鋭い目つきで敵を睨みつける。蒼白の猛獣は絶えず素早くとびまわっているが、ラッツの目には容易く追えている。


(ラッツ……なのか……?!)


「あとはあたしがやるんだわ。リルイット、下がるんだわよ」

「え……?」


ラッツは肘をおり、両手をぴしっと前に出し、身体を斜めに向けると、構えをとった。


(この構え……拳法?)


「超高速結界!!」


すると、ラッツは光のごとく加速して、蒼白の猛獣に突っ込んでいく。


(消えた……っ?!)


(エネルギーはあんまり残っていないんだわ……! さっさと終わりにするんだわよ!)


「強化結界!!」


ラッツは自分に結界を張る。それは自分だけを覆い強化する、限界まで狭い結界だ。


「おらぁっ!!!」


ラッツは青の猛獣ハティを捉えると、その顎に蹴りを食らわせた。その速さを誰も追うことができない。気づけばハティは、天井に向かって蹴り上げられていた。


「ぅぎゃっっ!!!」

「ハティ!!」


スコルはすかさずラッツの背後から襲いかかる。


「無駄なんだわ!」


ラッツは白の猛獣スコルに肘打ちを食らわせる。物凄い勢いでスコルも弾かれた。


(な、なんて速さだ……! それに、打力が強い…!)


スコルが弾かれだすその一瞬、リルイットが見えるのはそれだけだ。


「足場があればこっちのもんなんだわ!」


ラッツは再び姿を消した。


その速さ、まさに神速。


「はぁっ!!」


スコルは何発も蹴りを入れられる。


(お、重いっっ!!)


スコルはケホっと血を吐き出す。


自分の何回りも小さな少女、彼女の打撃は異常なほどのヘヴィ級だ。


「スコル! 近接は駄目!! 離れるのよ!!」

「ぐぅっっ!!」


スコルはふっと姿を消した。


(消えた…?!)


ラッツは突然空間に消えこんだスコルを見て驚いた。すぐに後ろを振り向き、もう1体の白い猛獣を探す。


(いない……っ?!)


「消えやがった…」

「ちぃっ! 仕留めそこねたんだわ!」


リルイットとラッツは周りを見渡す。ツタのフィールドは静まり返った。


「ラスコたちのところに集まるんだわ! 守護結界に入って警戒するんだわよ!」

「お、おう!」


ラスコたちのところへ向かうラッツをリルイットも追った。しかし、突然足元の水面から巨大な氷柱が飛び出すと、植術のツタをいとも簡単にぶち破り、巨大な壁のごとくそびえ立った。


「なっ!」

「リルイット!!」


リルイットはその氷柱によって、ラッツたちと分断された。


「っ!」


リルイットが後ろを振り向くと、蒼白の猛獣2匹は獲物を捕えたといった様子で、薄ら笑っている。


「「まずは1人」」


リルイットは剣を構えて敵を見据える。


(まじかよ……)


猛獣たちは二手に分かれて跳びはねると、あっという間に姿を消した。


(やっぱ見えねえ!)


「うう!!!」


リルイットは横から飛んできた氷柱に気づけず、簡単に吹っ飛ばされた。


「リル!!」


巨大な氷柱の絶壁の向こうから、ラスコが叫ぶ。


(駄目だ……壁で見えない…!!)


「ふざけんじゃないんだわ!!」


ラッツは絶壁に向かって蹴りを食らわせる。


「ぃぎっ!!!」

「ラ、ラッツさん?!?!」

「かったい!!」


(それにこの冷気! 足が凍るんだわよ!)


ラッツの蹴りでも砕けないほど、氷柱の壁は分厚く固い。


(くぅ……強化結界がうまく張れてない……。駄目だわ……もうエネルギーが切れる……)


氷柱の壁は、異常なほどの冷気に覆われている。


(こんなに強いなんて……!! シルバのアホも撤退するはずなんだわ…!)


撤退…できることならとっととしたいんだわよ…! 


「ぐあっっ!!」


リルイットは起き上がる間もなく、猛獣に氷柱をヒットさせられる。


(駄目だ…こんなの……勝てるわけない…っ!!)


「「終わりだ!」」


別の巨大な氷柱が水面から再び現れ、ツタを打ち破った。それはそのまま飛んできたリルイットの身体を串刺しにした。


「っっ……!!」


リルイットは血反吐を吐いたあと、クラっと目を閉じた。


それを見たスコルとハティは、うんと頷き合うと、氷柱が開けた穴から水中に潜り込んで、ラッツたちを殺しに向かった。


(……来るっ!!!)


ラッツは下から迫り来る影に気づいた。


「ひゃああああ!!!」


ラッツたちを狙うように足元から氷柱が飛び出した。ラッツは動けないアデラを抱えてそれを避けた。


(くぅ…! 結界がはれない…動きが鈍くなるっ!)


ラスコもまた、既のところで飛び退いた。


アデラはラッツを睨みつけた。


「おい。俺に構うな!」

「そうはいかないんだわ! あんたはあたしの部下なんだわよ!」

「お前の部下になった覚えはない!」

「うるさいんだわね! ひゃあっ!!」


再び水中から氷柱が飛び出す。ラッツはアデラを背負いなおして再び避けるが、勢い余って前から倒れ込んで顔を地面にぶつけた。


「守護結界はどうした」

「そんなの張れる力はもうないんだわよ……防寒結界を保つのが限界なんだわ!! ひゃっっ!!」


氷柱は連続してラッツを襲う。ラッツは必死で起き上がって逃げては、致命傷を防いだ。


「俺はもう駄目だ! 置いていけ! お前らだけでも逃げろ!」

「何言ってるんだわ! 私は仲間を見捨てたりしないんだわよ!!」

「…っ!!」


ラッツは歯を噛みしめながら立ち上がった。アデラは顔をしかめながら、彼女を見ている。


「リルイットは?!」

「「お前らの仲間はもう死んだ」」


猛獣の声がそう言ったのを聞いて、3人は絶望の表情を浮かべた。


(あたし……また守れなかった……)


ラッツの目には涙が浮かんだ。


「ラッツさん!! 後ろ!!」


ラスコの声が響いた。


「ひゃあっ!」


ラスコも足元からの氷柱の攻撃を避けるので精一杯だ。


先に水中から這い上がっていた青い猛獣ハティは、アデラを背負ったラッツにその牙を剥いて、背後から襲いかかった。


(しまった…!! 水中に気を取られたんだわ…!!)


ラッツは愕然とした表情で、その目を見開いた。


(お、終わる……っ!!)


バシュウンンン!!!


「!!!!」


ハティの大きく開けた口の中に、アデラのうった矢が勢いよく突き刺さる。


バシュウウンン バシュウンンン!!!!


ハティの動きが止まったスキに、更に連発して矢を射ち込む。


バシュウウンン! バシュウンンン!!!


間髪いれない矢の連発は、ハティの青い毛並みを赤く染めていく。


「アデラ、あんたその身体でよく射てるんだわね…」

「お前が避けてくれるからな」

「全く……あたしはあんたの馬じゃないんだわよ…!」


(こいつ…あたしを信頼して完全に身を委ねたんだわ…。射つ機会をずっと狙ってくれていたんだわね…)


バシュウウウンンン!!


「かはァっっ!!」


最後の1発を食らって、ハティは目を閉じてその場に倒れた。


「ハティ!!」


水面からすかさずスコルが顔を出す。


ハティの姿がすっと消えると、スコルの元に瞬間移動し、スコルの中にハティが入っていった。


「な、何なの…?!」

「あいつらは2匹で1匹…、片方を殺すだけじゃ死なねえみたいだ」


スコルとハティ。別々の狼だが、元は大きな猛獣のようだ。

離れていても、その意志で自在に互いの場所まで移動ができる。そんな不思議な力が働いているようだ。


「「人間は我らに敵わない」」


2匹はやがて融合を始めると、更に巨大な、狼の巨人に姿を変えた。


「な、何なんだわ……」

「……本当に最終形態ってやつか…」

「ひぃ……」


ラッツたちはその巨人を見上げた。

2足歩行となったそいつの首からは、2つの狼の顔が生えていた。真っ白な瞳でこちらを睨みつけている。身体は青と白の混ざりあった剛毛な毛並みで、そばにいるだけで凍えて死んでしまいそうな冷気を感じる。


「「ここは暑い……暑すぎる……」」


狼の巨人は急激に周囲の温度を下げていく。


「か、身体が…!」


ラスコは自分の身体が凍っていくのを感じる。


「ちぃ……」


ラッツとアデラも、足元からピシピシと音を立てて凍りついていく。


(防寒結界をもってしても到底防げないんだわ……!!)


「「お前たち人間には、この寒さ、耐えられまい」」


地面を覆っていたツタは完全に凍り、その下の水中も見事に凍りついた。


(駄目だ……身体が……動かない………!!)


ラッツ、アデラ、ラスコの3人も、あっという間に氷漬けになった。




氷山ブルーバーグは、強烈な冷気に覆われていく。

氷山を囲む海もまた、だんだん凍りついていった。


「な、何だ……?」

「う、海が……!!!」


エルスセクトに住む人間たちは、海を超えて襲ってくる氷に悲鳴を上げた。


「うわぁぁああ!!!!」


海を凍らせた冷気は街までたどり着き、ゆっくりと陸を凍らせていく。


「きゃあああああ!!!」


激しい悲鳴をあげながら、人間たちは街から逃げ出した。

冷気は止まることなく、街を凍らせながら進み続けている。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ