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雪の街、到着

ブルーバーグを目指して5日ほど経った。

2つの国を超えると、山道に入り、雪が降ってきた。

道の端には雪が数センチ積もっており、風もぴゅんぴゅん吹いて、見るからに寒そうだというのに、何故だろう…?


「あんまり寒くありませんね…?」

「ふっふーん! ブスコちゃん、それはこの私のおかげなんだわよ!」


ラッツはドヤ顔を浮かべる。


「ラッツのおかげって?」

「ふふ! 私が防寒結界をかけているからなんだわ!」

「防寒結界……?」


よくわからないが、ラッツの能力の結界術とのことだ。

結界は、一定の空間に、その効果を発動できるものらしい。

今はラッツの周辺にかかっているようだ。


(術師ってのは本当に便利だな…)


「ブスコちゃん、果物出してちょうだいなんだわ!」

「ブスコじゃありません! ラスコです!」

「全く! 何でもいいから早く出すんだわよ! リーダーの命令なんだわ!」

「嫌です! 呼び方を改めるまではラッツさんには出しません!」


ラスコはツンっとそっぽを向いた。


「うわ〜! 何それ何それ! 性格まで悪いなんて、あんたちょっと、終わってるんだわよ?!」

「いや、悪いのはラッツ、お前だろ? ラスコは嫌がってんだからさ」


見かねたリルイットはそう言った。


(リル!!)


ラスコはぱあっと顔を輝かせてリルイットを見た。


「むむ! ちょっとイケメンリル、あんたまさかこの子に気があるんだわ?!」

「そういうわけじゃねえけど…」


(ですよねぇ……)


ラスコはほんの少しだけ、悲しそうな表情を浮かべた。


「ていうか、いい加減その呼び方やめろ?」

「イケメンなんだからいいじゃないのさ」

「いや、そうかもしんねえけどさ! 長えじゃん!」

「うわ! 肯定するなんてさすがなんだわ、イケメンリル!」


ラッツはニヤニヤしながらリルイットを見ていた。

それを見てラスコは非常に不満げだった。


「イケメンとはなんだ」


アデラが突然口を開いたかと思うとそんなことで、ラッツはぎょっとした。


「こいつなんなの? アホなんだわ?」

「リルみたいにかっこいい顔の男の人のことをそう言うんです」

「ふうむ」


リルイットはうんうんと頷いて、何の否定もしなかった。

ラッツは隣に座るアデラの顔をじっと覗き込むと、ニヤっと笑って言った。


「あんたは女だったらイケてたけど、男だってんならただのおかまちゃんだわよ!」

「ラッツ、お前はブスだな」

「はぁあああ?!?!」


ラッツは鬼の形相でアデラを睨みつけた。

なるほど、確かに今のラッツはブスだな…ていうか、コワイ。


「ブスはこいつのことを言うんだわよ! このブスコちゃんのことをね!」


ラッツはラスコを指さしながら声を荒げた。

しかしアデラは顔色1つ変えず、微動だにしない。そして彼は言った。


「ラスコは、可愛い!」

「…!!」


ラスコは顔を赤らめた。

リルイットも自分のことじゃあないけれど、何だかドキっとしてしまった。


「はぁああ?! あんたの目は節穴なんだわ? この超絶可愛いラッツちゃんをブス呼ばわりして、ブスコが可愛いだとぉ〜?! エーデルナイツ内には総勢150人のあたしのファンクラブだってあるんだわよ?!」

「ファンクラブとはなんだ」


何だそりゃ、とリルイットも思った。黙っていたけれど。


「こいつまじ、ちょいちょい頭おかしいんだわよ!!」

「ラッツさん、アデラさんはケンタウロスに育てられたんですって。知らない言葉がちらほらあるみたいです」

「え? 何なんだわそれ!」


ひょんなことからアデラの過去をラッツも知ることになった。

そしてラッツのファンクラブの話にはその後誰も触れることはなかった。


「ケンタウロスって、魔族の中でも相当アホだと言われてるんだわよ」

「失礼なガキだ」

「ガキじゃないんだわ! 失礼なのはあんたなんだわ! あたしを誰だと思ってるんだわよ!! ボスと呼びなさいなんだわ!」

「誰が呼ぶか、クソチビ」

「誰がクソチビなんだわぁぁあ!!」


旅の道中は喧嘩ばかりだった。

だけど何だか、賑やかで楽しい旅だった。

この辛いはずの現実を、忘れられる気がしたんだ。


正直、こいつらに会えなかったら、俺は一体どうなっていたんだろう。

まあそもそもラスコが助けてくれなきゃ餓死して死んでたかもしんねえか…。仮に生きていたとして、祖国が壊滅して、皆死んで、そんな中1人だけ生き残ったことを知った俺は、一体……どうなってたんだろう……。


そうだ……! あの時俺……城の前で、炎の巨人と………?!


「……っ!!」


リルイットはハっとした。


これまで忘れていた記憶の一部を思い出した。


『お前、俺のこと愛してる…?』

『え……な、なんですか突然……』

『愛してはないか。オトモダチじゃあな』

『な、何を……』


記憶の中で、俺はウルドガーデに剣を向けた。


『お前は要らね』


(え………?)


リルイットは愕然とした表情を浮かべる。


(俺が……殺したのか………?)


その先は、覚えていない。

ウルにそんなことを言ったことだって、覚えがないのに……。


でも確かに、俺が…そう言った……?


「リル…?」

「!!」


ラスコに声をかけられ、リルイットはハっとして彼女を見た。

アデラとラッツはいつもの調子で喧嘩をしている最中だ。


「顔色が悪いですよ…?」

「ごめん……何でもないんだ……」


リルイットはラスコから顔を背けた。

ラスコは心配そうに彼を見ていた。


「それにしてもこの山道、魔族は1匹もいないのか?」

「ブルーバーグまでの道のりの魔族は、シルバたち北軍が討伐済みなんだわ。エーデル大国を中心に、魔族の数は順調に減ってるんだわよ」


ラッツは答えた。


「魔族は皆殺し! これがエーデルナイツのモットーなんだわ!」

「モットーとはなんだ」

「指針のことです、アデラさん」

「ふうむ」

「あんたは横文字に弱いようだわね…アデラ」


ラッツはやれやれという様子だった。


「悪くない。俺も同じ考えだ。魔族は、皆殺し」

「これはもう、人間と魔族の戦争なんだわ。私達が生き残るためには、魔族を根絶やしにするしかないんだわよ」


『あっしらももう人間を許さねぇですぜ。……殺られる前に殺る。そうしねえと、この世界で生きていくことはもうできねえんでさ』


ドワーフのオルゾノが、確かそう言っていた…。


先に手を出したのは魔族だ。だけど……発端は兄貴とシェムの妊娠……。


『私は、もっともっと人間と仲良くなりたかった。人間と魔族の間に子供ができれば、私たちも人間と、もっと仲良くなれる気がしたんだね』


シェム……君はそう、言っていた。


(それの何が……いけないってんだ……)


リルイットはうつむくと、眉間にシワをよせては地面を睨んだ。


(兄貴たちは何も悪くない……。悪いのは人間を襲うように命令した魔王だ)


シェムを連れ去った魔王。

今シェムは、どうしているんだろう……。


シェムの子供は……どうなったんだ……。


リルイットは拳を強く握りしめた。


(魔族は皆殺し……もう、そうするしかねえのか……)


殺られる前に殺る。それはもちろん、間違いじゃない。


(迷っちゃ駄目だ……)


祖国の奴らは皆死んだんだ。

ラスコの一族は皆殺され、アデラも命を狙われた。


そして俺たちの復讐は、新たな命を奪っている。


(だってもう、止められないんだ…)


それが………戦争ってやつなんだろう……。



「皆、街についたんだわ」


いつの間にやら山道を越えたようだ。ラッツの呼びかけで、ポニーは足を止めた。もう夕方だ。今日はこの街に泊まるんだろう。


「何という街なんです?」

「エルスセクトというらしいんだわ」


雪のたくさんつもった田舎町だ。

雪がつもっているところ以外は、俺が小さい時に暮らしていたところによく似ている。

人通りは少ないが、穏やかな町並みだ。暖かみのある木材の家が並んでいて、その屋根は皆、色褪せた褐色だった。


「ほら、あっちに見えてるのが、氷山ブルーバーグなんだわ」

「で、でっけえな……」

「ふうむ」


街の奥に見えるのは、そびえ立つ氷の山だ。見たこともないような様々な青い色をした、氷の塊。まるで巨大な宝石みたいだ。


「そういえば、どうして屋根には雪が積もらないんでしょうか」

「ブルーバーグの地中で採れる粘板岩は特殊なもので、不思議なことに熱を帯びているらしいんだわ。それを屋根の原料となる天然スレートに加工して使っているから、自然と雪が溶ける仕組みなんだわよ」

「へぇ〜、ラッツは物知りなんだな」

「ふふ! イケメンリル! 少しは私を見直したんだわ?」


ラッツが腕を組んでドヤっというポーズをすると、ポケットから1冊のハンドブックが落ちた。


「うん?!」

「あ……」


それはエルスセクトとブルーバーグの観光案内のガイドブックだった。


「カンペかよ!」

「ああ〜! 見るんじゃないんだわよ!!」


ラッツはすかさずその本をポケットにしまった。


「ったく……ていうか、ここは観光地なのか?」

「雪国はここだけだからね、珍しいんだわよ」

「へぇ〜」

「だけどブルーバーグに住む魔族が、氷山に入る人間を襲うようになったんだわ。その魔族がこの街にやって襲ってくるってことはないみたいなんだけれどね。氷山には近寄れないということらしいんだわ」

「なるほどな」

「憎き魔族は、この俺が皆殺しにしてやる」

「もう遅いから、行くのは明日だわよ。今日はゆっくりこの街を観光するんだわ!」


ラッツはそう言うと、リルイットの腕をぎゅっと掴んだ。


「さあイケメンリル! 行くんだわよ!」


ラッツは彼の腕を引いて、颯爽と観光に乗り出した。


(ったく、旅行にきてんじゃねえんだぞ…。ガイドブックまで持ってきちゃって! そういうところはやっぱガキだよなぁ……)


「雪の街……何だかロマンチックですねぇ!」


ラスコも初めて雪が積もるその街並みを見て、感動している。


(ラスコ、お前もか)


確かに雪の街の景色は別世界のようで、異国に来た感がすっごくある。だけど、なんだか俺は、この場所は好きじゃない。理由はわからないんだけど、何となく。


「ブスコちゃんには似合わないんだわ!」

「お子様にも似合わないですよ!」

「何ですってーっ?!」

「何ですかっ!!」


ラッツとラスコは、凝りもせずいがみ合っている。


「とりあえずは宿の確保だろ」

「わかってるんだわよ!」


そうこうして雪の街エルスセクトに着いた俺達は、宿を見繕って、ちょっとばかりの観光に向かった。





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