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ブルーバーグを目指して

「なんだわねこれは! 随分奇妙なんだわよ!」

「ポニーって言うんです!」


ポニーはリルイット、ラスコ、アデラ、そしてラッツを乗せて、走り出した。


「うひょひょ! これなら馬車がいらないんだわね。費用が浮くんだわね!」


ラッツはリルイットの隣に座ると、彼の腕にぎゅーっと手を回している。

ラスコはムスーっとした様子で睨んでいた。


(一体どうなってんだ…)


目が覚めたら何故かポニーに乗って、ブルーバーグへ向かうことになって、謎の女の子が抱きついてくる…。


「うふふぅ〜」


ラッツは目をハートにしてリルイットを見ていた。


(はぁ………)


何故そんなことになったのかという話は、1ヶ月前に遡った。




ドワーフたちの住んでいた地下空間で、ラスコはリルイットとアデラを見つけ出すと、地上へと戻った。植術があれば、大の男を2人運ぶのも容易い。


扉の出口はミルガン国の街の裏通り。ラスコはそこから2人を探しにやってきたわけだが、その扉は地面の模様に扮していて、目視では気付かないようなものだった。


ドワーフは手先が器用で、鍛冶に建築に、モノづくりなるもので、彼らの右に出るものはいないと言われている。誰かが地下に入ってくることのないように、そういった隠れ扉を作るのも容易いのだろう。


(そういや耐火性グローブってやつも凄かったな…)


アデラのケガが酷かったので病院を探していたところ、ラスコはラッツに出会った。


「あんたたちなんだわ? イスタールやオスタリアで魔族を討伐したっていう、旅の奴らは!」


どうやらラスコたちが数々の魔族を倒していることが、大陸東部に知れ渡っていたようだ。

世界各地は魔族の攻撃を受け、被害にあっている。


そこで、大陸中部のエーデル大国が、人間に被害を及ぼす魔族たちを討伐するために、世界各地の術師を筆頭にした強者たちを集めて、魔族討伐騎士団【エーデルナイツ】を立ち上げたのだという。


ラッツはエーデルナイツを立ち上げた者の1人だ。この世界を、エーデル大国を基準に東西南北の軍に分け、各地を回り、力ある術師や戦士を率いれて、軍を作っている最中だという。


そしてラッツは、東軍のリーダーなのだ。


「よくわかんねえけど、俺たちはエーデルナイツ東軍に属してるってわけ」

「そうだわよ!」


話の最中も、ラッツはずっとリルイットにベタベタしていた。


「何でそんなのに勝手に入ったんだよ…」


そう呟くリルイットに、ラスコは答えた。


ラスコが入団した理由は大きく3つだ。


1つ目は、アデラの怪我を無料で治してくれると言われたから。東軍にはメリアンという名の療術師と呼ばれる男がいて、どんな怪我でも治すことができるのだという。しかし、治せるのは怪我だけで、病気は無理だ。


2つ目は、魔族を討伐すると報酬金が出るから。オスタリア国でもらったお礼金も、無限にあるわけではない。いずれ資金が尽きるのは目に見えていたし、魔族を倒すことは自分たちの旅の目的と一致していたから、これを仕事にしない手はないと考えた。


3つ目は、3人でむやみに旅をするよりも、情報と仲間の備わった組織にて力を振るう方が効率的だし、自分たちの拠点があった方が都合がいいからだ。


「なるほど……」


ラスコに説明され、リルイットはうんうんと頷きながら納得した。ラスコもそれを見て安心した。


(まあ、私がこの子にしてもらった説明を繰り返しただけなんですけどね……!)


アデラは最初は反対していたそうだ。誰かの元で言いなりになりながら魔族討伐などしたくはないと。

しかし、隠れ4番の「騎士団に入れば、城の食堂でおいしい料理が食べ放題!」が決め手となったそうだ。


ラスコたちはミルガン国から、ラッツの乗ってきた馬車に乗り、西に進むこと2週間で、エーデル大国にたどり着いた。


療術師メリアンに術をかけてもらうと、病院で全治2ヶ月と言われたアデラの怪我は、一瞬のうちに完治した。


その後2週間、元気になったアデラは、ラッツに依頼の受け方の説明を聞いては魔族討伐に向かい、ラスコはリルに栄養注射を打ち続けていたそうだ。


「リル、あんたが寝ていたこの数日、アデラは数えきれないほどの魔族を倒して、大活躍だったんだわよ!」

「へぇ……」


何だかわからないけど、とにかく俺は、そのエーデルナイツとやらに加入したようだ。


「俺はシピア帝国に行く途中だったんだけどなぁ……」

「何言ってるんだわ。あそこはもう立ち入り禁止になってるんだわよ」

「え?」

「人間の死体を目的に、デスイーターの群れが集まっているんですって」


ラスコは言う。


「デ、デスイーター?!」

「骸骨の見かけをした魔族です。死んだ人間の魂を食らう恐ろしい魔族で、物理攻撃が一切効かないそうですよ」

「詳しいんだわねブスコちゃん」

「その呼び方やめてください!」


ラッツはやたらとラスコをブス呼ばわりしている。ラッツは確かに可愛い顔だが、ほんと性格悪いな〜…。


「てか、そんなの倒せねえじゃん」

「だからシピア帝国の周りに、奴らがそこから出られないように聖結界を張ったんだわよ」

「セイ結界ィ?! そんなの一体誰が…」

「この私なんだわ!!」


ラッツは胸に手を当ててドヤっという表情を浮かべて俺を見上げた。


(こいつも術師だったのか……)


「一体どんだけ術師の一族がいんだよ…」


リルイットがつぶやくと、ラッツは両手をパーにしてリルイットの前に見せた。


「全部で10だと言われているんだわ! イケメンリル!」

「へ、へぇ〜……」

「まあ、神話の中でだわよ。私も全ての一族については知らないんだわ」


俺もさすがに10個も知らねえなあ。有名なのは呪術師だよな。他に俺が知ってるのは、精術師、硬化師…それから植術師か…。この女は結界師だってか? あと療術師がいるって? これで半分ちょっとか…。


ラッツは再びリルイットにぎゅーっと抱きついた。


「いつまでくっついてるんですか!」

「何なのブスコちゃん。あんたリルのなんなんだわ?」

「何って言われても…」

「恋人でもないなら口出しするんじゃないんだわよ」

「わかりましたよ! 勝手にしてください!」


ラスコは不機嫌そうにして、そっぽを向いた。


リルイットがちらっと周りを見ると、アデラは寝ていた。


「おい! 呑気なやつだな!」

「まあまあリル。寝かしてあげてください。アデラは私たちの入隊を存続させるため、死ぬ物狂いで働いてくれたんですよ」

「こいつがぁ? 義理も人情もねえ奴だぞ」


グガー、グガーと、耳障りなイビキをたてて、彼は眠っている。


「エーデルナイツは、魔族が出現、及び襲ってきた場合に、その国々への派遣を約束しているんだわ。つまりは国中から資金をもらっているんだわよ」

「ふうん…」

「だからそれなりの働きが出来ない騎士たちに、報酬は支払えないし、この騎士団に入団することも認められないんだわ。エーデルナイツは大陸中の猛者だけを集めた、本物のエリート集団というわけなんだわよ」

「へぇ…でもそれじゃ、騎士の数が少なくて足りなくなんじゃねえの?」

「エーデルナイツの報酬はピカイチなんだわね。皆この騎士団に入団したくてたまらないんだわ。だからエーデルナイツ予備軍というのが存在する。予備軍の報酬は3分の1だけ。力を認められれば予備軍から正規軍に入れるし、同じく逆に予備軍に落ちることもあるというわけなんだわよ」

「なるほどねぇ……」


リルイットはふぅっと息をついた。

リーダーであるラッツの権力は大きい。彼女の推薦があれば、簡単に本軍になれるのだ。


「アルラウネにカミリヤ、それにハーピィをあんなに倒したあんたたちの実力は、本物だわよ!」

「泥おばけと小人のおっさんもだ」


アデラがパっと目を開けるとボソッと言った。


「うわっ! 起きてたのかよ!」

「さっき起きた」


(あんなにイビキたててたのに…)


アデラは目を開けると、腕組みに足組みまでして偉そうに座り直した。


「泥おばけ…?」


ラッツが首を傾げたので、ラスコは「マッドゴーレムのことです。それから2人はドワーフの群れも倒したみたいです」と補足した。


「ふぅ〜ん! そいつはたまげたんだわ! 私たち東軍がエーデルナイツ最強の軍になるのも夢じゃないんだわね!」


ラッツは顎に手を当ててニヤニヤしていた。彼女の目がハートから金になっている。…気がする。


「最強になったら何かあんのか?」

「世界の全ての魔族を滅ぼすのが私たちエーデルナイツの最終目標なんだわ。もっと離れた場所に、2つ目の支部を建てる計画が進んでるんだわよ。1番功績を伸ばしたリーダーが第2支部のボスになれるんだわよ! そうしたらお金も、今よりがっぽりもらえるってわけなんだわ!!」

「ふうん…」


ラッツ・マクラス。

歳を聞いたら15歳だと言っていた。こんなに幼い子に騎士団のリーダーをやらせるなんて甚だおかしい話だ。

それだけ力があるということなんだろうが、どうもそんな風には見えない…。


「氷山はどのくらいで着くんですか?」

「1週間はかかるんだわ。エーデル帝国から北にまっすぐなんだわね」

「北軍に行かせねえのか?」


すると、ラッツはニヤリと笑った。


「北軍の奴ら、その魔族を倒せなくて撤退したというんだわね!」

「ええ?!」

「北軍アホリーダーのシルバの奴、敵の強さを知った途端、尻尾を巻いて逃げ帰ったんだわよ。だからこの私がわざわざ出向いてやるってわけなんだわ。その間、東部の魔族討伐には、北軍も手を貸してくれるそうなんだわ」

「だ、大丈夫なんですか? そんなところに私たち4人だけで…」


ラッツもまた足を組みなおすと、ドヤドヤぁっという表情を浮かべるのだった。


(自意識過剰集団かよ……)


リルイットは白けた様子で、自分に寄り付くその少女を見据えるのだった。


「この私がいれば心配無用なんだわ! パーティは数よりも質なんだわよ!」

「このガキの言う通りだ」

「こらアデラ! 私がリーダーだと何回言わせるんだわね! 私のことはラッツさん、あるいはボスと呼ぶんだわよ!」

「うるさい。ガキはガキでいい」

「ムキー!!」


ラスコもまた、ラッツがバカにされるのを見ては、ぷぷぷと笑っていた。


(大丈夫かよこの4人で…)


リルイットはハァとため息をついた。













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