表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/168

ミデランにて

リルイットは眠そうな目をして、不機嫌そうにポニーに座っていた。


「眠れなかったんですか?」


とラスコが聞いた。


「こいつ! こいつのいびきがうるさすぎんだよぉお!!!」


リルイットはアデラを指さした。

アデラは動じることなく、腕を組んでは偉そうに座っている。


「朝飯はないのか」

「ねえよ!!! お前がフルーツ全部食っちまったんだろ!!! ていうかちょっとは謝れ! お前のせいで眠れなかったんだぞ!」

「ポニー、あと何時間でミルガンに着く」

「無視すんなよ!!!」


ポニーは枝で出来たその手で、人差し指を突き出し「1」を表した。


「1時間か…長いな……」

「ったく……我慢しろよそのくらい…。そういやてめぇ、金持ってんだろうな」


リルイットがそう尋ねようとすると、アデラは弓を構えてバシュウウンと射ちだした。


「何なになに!!!」


すると、空を飛んでいた鳥が射抜かれたようで、ヒューンと落ちてきた。


「と、取りますね!!」


ラスコはツタを伸ばすと、その鳥の死骸をキャッチして、ポニーの中に持ってきた。


「美味そう」

「いや、さすがに生は無理だろ! 死ぬぞ!!」

「リルイット、焼け」

「はぁああああ?!?!」


リルイットは仕方なく鳥を斬った。

しかし炎はその鳥を跡形もなくなるまで消し去ってしまった。


「何してる…」

「いや、調節! 調節できねえからさ!!」


アデラは怒った様子でリルイットを睨んでいる。

ラスコも苦笑しながらも、彼の能力について考察する。


リルイットが剣で斬ると、対象が燃え尽きるまで炎が生み出される。不思議なことにその炎が、荷台や私達に引火するということはない。そしてリルイットは、自分の意思でその炎を途中で消すということができない。


また、リルイットに触れた魔族は引火した。私もリルに初めて触った時は火傷をした。だけど私の栄養注射も、アルラウネのツルの部分も、リルイットには触れていた。推測だけれど、リルイットが敵対心を持つ者の本体、それが彼に触れた時、熱を浴びせて防衛するのではないだろうか。


アデラは再び鳥を射抜くと、ラスコがそれをキャッチした。

今度はラスコの木の人形を燃やした炎の熱で鳥を焼いた。昨日アデラの服を乾かした時と同様だ。しばらく焼くと、鳥はこんがりとして、食べ頃になった。


アデラはむしゃむしゃと鶏肉を食べた。


「味がない」

「当たり前だ! 黙って食え!」


ていうか、何の鳥かわかんねえのに、よく食えるな。

やっぱり野生児だな…。


「アデラさん、これを」


と、ラスコが出したのは紫色の花。

その花の葉っぱを揉み込んで、鳥に風味付けをした。


「結構美味い」

「マートルというハーブです。サラダなんかの風味付けに使うんですよ」

「ふむ」


アデラはもぐもぐ口を動かして、その鳥を骨以外食べきってしまった。


「ったく、よく食えるなそんなもん。というか、ラスコの能力便利すぎかよ」

「ラスコは具体的にどんなことが出来るんだ?」

「そうですねえ…私が出来るのは、植物を咲かせることと、自然の植物の力を借りることです」


ラスコは自分の能力について2人に話した。


ラスコは土のあるところならどこでも、植物を咲かせることができる。花やツルを始め、巨大樹なんかを生やすこともできるが、どのくらい大きな植物、または多くの種類を咲かせられるかは、植術師の知識や潜在能力に依存する。出した植物はその意志に従い、自在に操ることができる。リルイットが何も食べずに2週間生きることができたラスコの栄養注射も、その応用である。しかし自ら生み出すのはエネルギーが多く必要だ。使いすぎると気絶する。


自然の植物の力を借りることもできる。しかし自然の植物には意志があり、それに反すると力を貸してはもらえない。

植物たちがラスコに力を貸すかどうかは、ラスコの性格や行動、及び力を行使するその内容によって決まる。エネルギーの消費量は低い。


植術師として懸命に、アルバダの森の環境を守りながら生きてきたラスコの噂は、ラスコが知らない遥か遠くの木々たちの耳にも入っている。そのおかげか、ラスコに手をかさなかった植物は、これまでに1人もいない。


またラスコ自身の身体からは、葉の刃と栄養水を生み出すことができる。これは土がない場所でも出せるそうだ。

葉の刃は非常に細く軽いのだが、切れ味は抜群。ブーメランのように回転して飛んでいき、何枚でも生み出せる。ラスコの唯一の攻撃手段だ。

また、栄養水は植物の成長を推進させる作用があるという。


「えっと…じゃあ野菜とフルーツも出せんじゃねえの?」

「出せますよ」


ラスコはそう言うと、その足元にミニトマトといちごの花を咲かせてみせた。みるみるうちに、実がなって、ミニトマトといちごが収穫できた。


ちなみに荷台には土が敷かれている。なのでポニーの上なら、ラスコはいつでも植物を探すことができるのだ。


「おいおい、これじゃ農家が破産しちまうぜ」

「そうもいかないんです。能力で出した生モノは、すぐに食べないと腐ってしまうんですよ」

「ふうん。どのくらい持つの?」

「せいぜい3分ぐらいでしょう」

「なるほどな。おっと、それじゃあさっさと食わねえと」


リルイットがミニトマトを食べようと下を向くが、既になくなっていた。


「アデラぁああ!!」

「うん?」

「うん?じゃねえええ!! ていうか両方一緒に食うなぁぁあ!!!」


口いっぱいにミニトマトといちごを頬張るアデラの姿を見て、リルイットは発狂するのだった。


そうこうしているうちに、ミルガン国に到着した。


ポニーから降りて、国に入ると、和やかな街の景色が目に入る。


魔族の奇襲のあったシピアの隣国というから心配していたのだが、どうやら被害を受けた様子は今のところない。


リルイットたちは早速街に繰り出した。

宿を抑えると、ラスコに食料調達を任せ、リルイットはアデラを連れて、街に繰り出すのだった。


「アデラ! こっちだ!」

「うん?」


リルイットは、アデラを装備屋に連れて行った。


「ふうむ」

「いつまでも女みたいな格好してらんねえだろ」


リルイットはアデラに、男性用の弓使いの装備を着せる。


「兄ちゃん、それ男もんだぜ?」


と店主が言うので、こいつは男なんですとリルが言うと、店主はアデラを二度見した。


「これでいいのか?」


とりあえずスカートに見えていたキュロットじゃあなくなったので、かなりマシにはなった。しかしまだまだ女に見える。


「まあいいだろ。あとは髪型だな……」

「ふうむ」


オスタリア国のお礼金でアデラの装備を買ってやった。

そして今更だが、アデラはほとんど金を持っていなかった。


「どうやってこれまで旅してたんだよ…食料とかさ…」

「狩ればいいだろう、そんなもの」

「……」


どうやら俺の隣の美少年(?)は、ガチの野生児だ。

そして装備をもらったアデラがお礼を言うことはもちろんなかった。


(一般常識を教えてやる必要があるな…)


「おいアデラ、お前、俺にその装備を買ってもらって、何か思うことはねえのか」

「思うこと?」

「俺たちの金で買ってやったんだぞ? 感謝の気持ちが沸かねえのか?」


(何か自分で言ったら図々しいけどな……)


「別に」

「ぐぅっ!」

「俺は頼んじゃいない。お前が勝手に買ったんだ。何なら俺は文句なく着てやったんだぞ」

「はぃいいい?!?!」


ケンタウロスに育てられたこいつの脳内は、あのアホ馬人間と同等だ。


こいつには義理も人情もない。


(はぁ……)


まあ仕方ない。そういう環境で育ったんだ。

今日は諦めよう…。


さて、衣服はどうにかなった。あとは髪型だな……。


俺はその後床屋を見つけると、アデラを連れて中に入った。

床屋のおじちゃんも、アデラが男だというと目を丸くしていた。


「バッサリ切っちゃってよ、おっちゃん! こいつを男っぽくしてくれ!」

「い、いいのかい」

「ああいいよ! 何なら刈り上げちゃって!」

「リルイット、何故お前が決める」

「いいだろ何だって」

「何でもはよくないだろ」


(ここにきてこだわるなよ……)


まあなんだかんだで、アデラの髪型は短くなった。

ベリーショートというやつだが、顔がいいから何でも似合うな。


「いいじゃねえか」

「ふむ。頭が軽くなった」

「こんだけきりゃあな」


と、アデラの周りに散乱した青髪の束を見て、彼はぎょっとした。


「気持ち悪い」

「いや、お前の髪だからな!」


髪は短くなったが…うーん、こんな女いるよな…。という感想だった。


これ以上は無理だ。手の施しようがない。

リルイットも諦めた。


2人が歩いていると、街の女の子たちはリルを見て、目をハートにしていた。

アデラは首を傾げていた。


「見られてるぞ、リルイット」

「俺がイケメンだからに決まってんだろ〜」

「イケメンとはなんだ」

「……」


説明とまでなると恥ずかしいので、リルイットはアデラを無視した。


2人は集合場所の宿屋の1室にたどり着いたが、ラスコの姿はない。


「ラスコはまだ帰ってきてねえのか」


すると、部屋のドアが急にバタンと閉められた。


「?!」


シューーーー


リルイットとアデラが振り向いた時にはもう、部屋中に何かのガスが撒かれ始めた。


「な……んだ……」


バタリ、とアデラが先に倒れてしまった。

リルイットは異常なまでに重いまぶたを、何とか持ち上げようとするのだが、無理だった。


(だ……めだ……意識が………)


リルイットもまた、その場に倒れた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ