表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/168

対戦・マッドゴーレム

リルイットとラスコは宿を出て、国の外に出ると、次の国ミデランを目指した。


「ポニーさん、お願いします!」


ラスコに呼ばれ、木の荷台が颯爽と地面から現れた。


(どういう仕組みだよ…ったく…。あれ…)


昨日とフォルムがなんだか違っている。

木でできた馬に似た顔に、尻尾までついている。


(ポニーに似せてきやがったな。ていうかお前は荷台。そもそも馬の方じゃねえけどな!)


「素敵なデザインですね、ポニーさん」


ポニーは再び枝を伸ばすとグッドポーズをした。


(馬はグッドポーズはしねえぞ〜…)


ポニーの機嫌を損ねても困るので、悪態をつくのは心の中だけにしておいた。


俺たちは1日かけてその国の周りを通り抜けた。魔族警戒中の国の中でポニーを使うのは変な目で見られそうだったからだ。周り道にはなるが、ポニーなら馬車で街中を走るより速い。全く優秀な荷台だ。


次の日、オスタリア国を出ると、長い山道に差し掛かった。この山を越えればミルガン国が見えてくるはずだ。その向こうには、俺の祖国、シピア帝国。


崩壊したときいたシピア帝国…。

行ってももう何もねえかもしれないが……。


この目で見ずにはいられない。


未だに信じられないんだ。俺の国が滅びたなんてさ…。


(リル……)


ラスコも、神妙な面持ちのリルイットを、心配そうに見ていた。


「そういやこの山道、ハーピィが住みついてんだよな」

「また襲ってきたりしますかね…」

「どうだろうか…」


どうもシピアが襲われたあの日から、魔族は人間に敵対心を抱いている。あの魔王って奴がそうさせたんだろうか…。


シェムはあのあとどうなったんだ…。

兄貴との子供は……。


「リル! 見てください!」


ラスコが叫んだのでハっとして、リルイットも顔を上げた。

ゴツゴツした山道の途中には、ハーピィの死骸があった。


「死んでる……」

「あっちもです」


ラスコが指さした逆側にも、ハーピィの死骸が散らばっていた。


人間の女の顔に鳥の手足と羽を持つ魔族、ハーピィ。

彼女たちは歌うことが大好きなのだが、その歌声はどんな騒音よりも酷く、近くで聞くと大変耳が痛くなると言われている。


そんなハーピィは、皆揃って心臓から出血していた。

その胸には矢が刺さっている。


(弓…か……?)


そう言えば、オスタリアを襲ったオークの群れを倒したのも、弓使いの女だと言っていた。


「キィィィイイイイイ!!!」


遠くから激しい奇声が聞こえたかと思うと、1匹のハーピィが突然こちらに向かって飛んできた。


「うわっ!」

「きゃあっ!」


リルイットとラスコがハーピィの姿を見たその瞬間、リルイットの背後から、彼の顔の横スレスレを通るように、1本の矢が飛んできた。


バシュウンンンン!と歯切れのいい音を立てて、矢はハーピィの心臓を貫いた。


「キィィィイイイイ!!!」


ハーピィは悲痛な叫び声を上げ、その場に落ちた。


「!!」


リルイットとラスコが後ろを振り向くと、遠くで青髪の女が弓を構えていた。


(あ、あんなに遠くからったのか……)


2人は唖然とした様子でその女を見た。


「お前たち、こんなところで何をしている」


青髪の女は低めの声でそう言うと、弓を下ろしてリルイットたちに歩み寄った。非常に凛として顔立ちで、ツンとした鋭い瞳をしている。化粧気はまるでないのだが、必要ないほど肌もきれいで色白だ。衣服は茶色のベストにキュロットパンツ、弓使いの女の子の今年の流行りコーデだった気がする。


「俺たちはシピア帝国に行く途中なんだ…」

「何でそんなところに行く。あそこはもう壊滅しているんだろ」


青髪の女はなかなかの美人だったが、非常に無愛想だった。

背中には何本もの矢が背負われていて、その弓は非常に大きく、彼女の身長くらいある大弓だった。


(す、すごい美人……)


ラスコは近づいてくる美人弓使いを見て、顔をしかめたが、彼女のぺちゃんこの胸が目に入った。それと自分の胸を見比べ、ほっと安堵した。


(勝った……!! 顔が美人でもスタイルまで完璧とはいきませんよ…! 神様ありがとう…!)


と、アホなことを考えていた。


「俺の故郷なんだ。崩壊したって話は知ってるけど、自分の目で見ないと信じられなくってさ」

「ふうむ」


女は2人の乗っている荷台のポニーを見ると、呟いた。


「変わった馬だな」

「いや、馬に見えたのか?! 木材だぞ?!」


ポニーは女に向き直ると、ペコリとお辞儀をした。


「非常に礼儀正しい馬だ」

「ふふ。ポニーと言うんですよ」

「ふむ。もしかしてお前、植術師か?」


女はラスコを見ると言った。


「はい。私は植術師のラスコ……」


とラスコが名乗ろうとすると、女は弓を構えて矢を放った。


(は、速っ?!)


弓を構えてから矢を射ちだすまでのその速さに、2人共目をまるくした。

矢はバシュウンと音を立てて、遥か遠くのハーピィを射ち殺した。


(あんなに遠いハーピィを……)

(き、気付きもしませんでした……)


「ああ、で、何だっけ」

「えっと…ラスコです…。ラスコ・ペリオットです」

「ふむ。イスタールの植術師は皆死んだという噂を耳にしたが、嘘だったのか」

「あ、いや……でも私以外は、皆死んでしまいましたから……」

「そうか」


女は淡々とした表情で話し続ける。

その様子を見て、本当に無愛想な女だな…とリルイットは思った。


「んで、お前は?」

「尋ねるなら先にお前から名乗れよ」

「ええっ?!」


リルイットは顔を引きつらせた。


(いや、お前もラスコに先に名乗らせてたじゃねえかよ!)


まあ喧嘩をしてもしょうがない…。俺は女の子には寛容な男なのさ!


「リルイット・メリクだよ。んで、お前は?」

「アデラ」

「アデラね…。オスタリアのオークを倒したのはお前か?」

「そうだ」

「何で1人で魔族を殺してまわってんの?」


俺が聞くと、アデラは答えた。


「魔族が人間を襲うからだ」

「うん、まあそうだけど、何で女の子1人で…」


すると、アデラは再び弓を構え始めた。


「んだよ、またハーピィか…?」


とリルイットが後ろを振り向こうとした矢先、アデラの足元から、巨大な泥の手が彼女の足を掴み、地面に引きずり込んだ。


「なっ、何だ?!」


アデラも焦ったような声を上げた。


「魔族です! 泥の魔族、マッドゴーレムです!」

「っ!」


さすがのアデラも、地面に矢は放てない。あっという間に下半身は地面にのまれてしまった。


「アデラ!!」


リルイットはアデラの手を掴んだ。


「くっそ!」


必死で彼女を引っ張りあげようとするが、マッドゴーレムの力に敵わない。


「任せてください!!」


ラスコは地面に手をかざすと、地中に巨大なツルを生んでは、その勢いで地面を掘り起こした。


「うわっ!!」


地面の底からマッドゴーレムがその姿を現した。それは顔のない、泥でできた巨大なモンスターだ。そいつは見上げるほどに大きく、岩から手足が生えたような、不気味な装いだ。


「アデラ!!」


マッドゴーレムが起き上がる勢いで、アデラの手を離してしまった。

アデラはマッドゴーレムの右腕に足を掴まれたまま、宙吊りになった。


バシュウンン!とアデラは逆さのままマッドゴーレムに矢を放ったが、泥の身体にぐにょんと刺さるだけでまるで効果がない。アデラは舌打ちをして、マッドゴーレムを睨みつけた。


「んの野郎!!」


リルイットが剣を抜いてマッドゴーレムに襲いかかった。


「だ、駄目ですリル!」

「へっ?!」

 

ラスコが叫んだが、リルイットは身体を止められなかった。マッドゴーレムの腕に剣がぐにょんと食い込む。


(斬り落とすのは無理か!)


しかし剣から放たれた炎が、マッドゴーレムを襲った。


(剣から炎……?!)


アデラは逆さまの状態で、リルイットの剣先から現れた炎を見ては、驚いていた。


しかし炎はマッドゴーレムに吸収され、消えてしまった。


「も、燃やせない?!」

「マッドゴーレムは泥です!」


(そしてこの泥の性質…土粘土と同じもの! ゆえに燃やせば…)


マッドゴーレムの燃やされた箇所は、明らかに硬化している。


「硬くなっちまった!!」

「私に任せてください!!」


ラスコはマッドゴーレムに向かって両手のひらをかざすと、水のシャワーを吹き出した。


「まずは柔らかく!!」


マッドゴーレムはその全身を濡らされたが、動じはしない。


「うわっ!!」


アデラもまたそのシャワーでびしょ濡れになっていた。


「ただの水じゃないです! 栄養水です!!」


マッドゴーレムも黙ってはおらず、ラスコに向かってその巨体を動かし、襲いかかってきた。


「遅いですよ!」


ラスコは振り下ろされたマッドゴーレムの左腕をさっと避けると、マッドゴーレムに向かって種を撒いた。


(あとは咲くのを待つだけ!)


マッドゴーレムはラスコに攻撃を仕掛けるが、その動きは遅く、ラスコはそれをなんなく避ける。


「キィィィイイイイイ!!」


すると、恐らく先ほどアデラが狙おうとしていたハーピィが、その鍵爪をたてて、こちらに向かって飛んできたところだった。


「お前の相手は俺だァァ!!!」


リルイットは剣を構え、ハーピィに斬りかかろうと地面を蹴った。


(無理だろ…! 飛行魔族だぞ?! 剣が届くわけない!!)


アデラはハーピィを射ち抜こうと弓を構えるのだが、ハーピィの前にリルイットがいて矢を放てない。


「どけ! リルイット! 邪魔だ!」

「うるせえ!! 俺にもいいとこ見せさせろっての!!!」


(と思ったけど、さすがに届かなかった〜!!)


すると、リルイットの足から炎を放射され、その勢いで飛び上がった。


(な、何だあれは……?!)

(うおあ!!)


リルイットはハーピィの高さまで届くと、剣を振り切った。

ハーピィはさっと飛んでその振りを避けるのだが、リルイットは、そのまま身体をよじってハーピィに斬りかかった。


(何だ…?! 空中であの動き…)

(身体が……勝手に……何だかわかんねえけど、いける!!!)


「燃えろぉおお!!!」


リルイットはその剣で見事にハーピィを捕らえると、その身体を燃やし尽くした。


(も、燃えた……)


アデラはあんぐりと口を開けて、逆さ吊りのままその様子を見ていた。

しかしリルイットはそのまま地面に落下していく。


(やっべえ! あとのこと考えてなかったぁ!!)


するとリルイットの着地点に巨大な黄色い花が咲き、クッションのように彼を受け止めては、跳ね上がった彼を花びらが包み込んだ。


「ラスコ!」


ラスコはマッドゴーレムの攻撃を避けると、リルイットににっこりと微笑んだ。


「さあ、そろそろ咲きますよ!!」


すると、マッドゴーレムの体内に撒かれた種は芽を出すと、みるみるうちにツルを多量に伸ばし、その身体を包み込んだ。


マッドゴーレムはそのツルに身動きを封じられ、アデラを握っていた手も離した。

アデラはぐるっと1回転すると、地面に着地した。


そしてまもなく、ツルの先からマッドゴーレムよりも巨大な紫色の花が咲いた。


「おお! 何か咲いたぞ!!」

「巨大トリカブトです!!」


マッドゴーレムはトリカブトに身体を蝕まれると、みるみるうちに小さくなっていった。


「最強の毒花です! そしてその有毒が最も強いのは、その根っこ!!」


トリカブトはあっという間にマッドゴーレムを侵食し、その猛毒を取り込んだマッドゴーレムは、見事に朽ち果てた。


(こいつら……)


アデラは呆然と、彼らの戦いを見ていた。


「やりました!」

「やったなラスコ!!」


リルイットは歓喜の表情で彼女に駆け寄った。


「リル!!」


ラスコもにっこりと笑うと、右手をパーにしてリルに向けた。

リルも右手を広げると、ラスコの右手とハイタッチを交わした。


「へっ、へっくしゅん!!」


するとアデラは濡れた身体を震わせながら、くしゃみをし始めた。


「へっぶしっっ!!!」


似合わぬくしゃみを繰り出すアデラを見て、リルイットはぶっと吹き出した。


「す、すみませんアデラさん…!」


ラスコはおろおろしながら彼女に駆け寄った。


「へっ、へっ、へっくしゃああんん!!!」

「ぶわーっはっはっはっは!!」


リルイットは目から涙を流しながら大爆笑をし始めた。

アデラはリルイットを見ては、ちっと舌打ちをした。


「ちょっと、リル!!」

「ごめん! ごめんって!」


アデラは不愉快そうな顔でリルイットを睨みながら、おもむろにその上半身の服を脱ぎだした。


「ちょっ! なになになに!!」

「あっ、アデラさん?!?!」


2人は顔の前に手をやって隠す振りをしながら、指の隙間からアデラを覗く。


「え……?!」


リルイットとラスコは、服を脱ぎ捨てたアデラを見ては目を丸くした。


「お、男ぉぉおおお?!?!」


アデラは2人を睨みながら、細身にも鍛えられたその身体を晒しては、再びへっくしゅんと大きなくしゃみをした。






























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ